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第18回大阪アジアン映画祭の6日目をみる。

3月15日、早朝

一路、大阪は中之島美術館へ。別連載をお楽しみの皆様には絶妙なネタバレ案件かと存じますが、主宰は昨年2022年「48時間映画祭」に参戦しましてそれ以来となる映画祭への出席。といっても今回は完全なみる専、短編映画3本を千円で堪能できる貴重な平日休みとあり意気揚々と大阪へ降り立つ。結局、最寄駅は阪急梅田なのか御堂筋線淀屋橋駅なのかそれとも北浜駅か。

とかく運良くお目当ての別作品を水曜サービスデーにシネ・リーブル梅田で引き当てる流れも相まりこの日はまさかの4本立て。本祭とは別にレビューを拵えることとしまして、まずは短編3本の感想から。上演後に舞台挨拶を控えていた作品も多く、作り手の生の声に触れる貴重な場としても是非同席したいと考えた。お昼はもれなく美味しいカレーまで食べたいとも考えた。

『ナターシャ』/監督:ガリリ・マー(22分)

特別注視部門、セックスドール「ナターシャ」を執拗に追い回す女性を描く作品。過去に『私を月に連れてって』や『先に愛した人』でも主演を務めていたヤン・イーリンは、今回三度目となる本祭参戦。古くは『源氏物語』や谷崎潤一郎『痴人の愛』、あるいは是枝裕和監督『空気人形』でもテーマに取り上げられた「人形愛」。喜怒哀楽が入り混じる22分間で、密度が高い。

大好きなドールをせっかく外の世界へ連れ出したというのに、彼女の表情は晴れない。長い沈黙。ようやく口にした言葉は意外なものでした。「息子はあなたを愛してた?」亡くなった我が子を思うが故の表情でもあったのだとわかった瞬間に押し寄せた、あの木枯らしのような寂しさが頭を離れない。台湾映画でよく見るデコピンのシーン、あれどういう意味なのでしょうね。

『トランジット』/監督:ムン・ヘイン(27分)

同じく特別注視部門、性別適合手術を受けたウ・ジヒョン演じる照明技師と子役が紡ぎ出す物語。あなたは才能がある人だと言いつつ、見えないところで「異端の存在」だという視線を向けられる。実像と虚像。表と裏。そんな人間の持つ二面性を「影遊び」で表現する感性に痺れた。これがムン監督のデビュー作と聞いてさらに驚く、韓国はショートフィルムもアツそうです。

タイトル『トランジット』の真意。接頭辞のtransにはchangeあるいはmoveのニュアンスが含まれているそう。純粋無垢な少女から何気なく向けられた「可愛い」の一言が彼女の背中をそっと押した。ラストシーン、不安そうにクルーの顔色を覗った先に少女の姿を見つけた瞬間少しだけ表情が綻んだ。焼き付けられた過去と、この先を見据える覚悟とが入り混じっていた。

『遠まわりする青』/監督:木村凌(24分)

最後はインディ・フォーラム部門より。夢を追い上京したコスプレ専門風俗店員の詩織(源氏名は林檎)と送迎ドライバー小塚、同業者・檸檬が織りなす群像劇。海外映画コンペにも多数招待された新星、木村凌のメガホン。予告編から波崎ウィンドファームの美しさに圧倒される。新宿西口のネオンが想起させるのはソフィア・コッポラ『ロスト・イン・トランスレーション』。

上演後の挨拶ではキアロスタミ『ライク・サムワン・イン・ラブ』も挙げてらっしゃって。フランス映画が纏う切ない余韻、あるいはシニカルな笑いといった部分も絶妙なフックになっていた。りんごにレモン汁を付けると変色を防げる、つまり詩織の見ている世界が彩りを失ってしまわないようにと手を差し伸べた彼女の名前も、甘酸っぱい恋の相手もまた「しおり」だった。

青二才とか青くさいなんて言ったりします。どことなく成熟し切ってない、若くてエネルギッシュなのだけど経験が足りてない、何かそんなイメージ。そういった意味では『遠まわりする春』という解釈も成り立つのか。浜辺でハンディカメラを回し始めた辺りは結構目頭が熱くなって。突然プラカードを首から下げた青年が飛び出してくるあの感じも、キアロスタミの文法か。

土佐堀でカレーを食らい、スカイビルまで歩く

「ライス&カリー ラーマ」さんにて、ポークカリー(あるいはポークカレー)1050円。

美味すぎワロリッシュ、ということで気分が超良くなって中津まで歩いた。その間ずっと口の中に残るパクチーの香り、短編部門Bの味わいで満たされまくって。しかーし今日は4本立てだ。ビル風に煽られ、最近寂しくなってきた頭頂部がさらにえげつねえことに!!ともかくシネ・リーブル梅田へ無事到着し、主宰初となる4Fシアターへ。大阪アジアン映画祭の会場でもある。

あそこの発券機のタッチペン君とは正直、もう少し仲良くやっていきたい。微妙に反応薄いでやんの!!ともかくこの春の花粉症以上に目と鼻がズビズビになると界隈騒然の逸作『いつかの君にもわかること』を堂々、迎え撃つ。主宰の神推し俳優であるダニエル・ラモントの銀幕デビューを飾る95分間はあっという間に過ぎ、念の為とハンカチ複数持ちしていたのも功を奏した。

(次回へ続く)

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