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【無料】小説・詩など

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長編小説、超短編小説、実験小説、詩、、朗読ライヴの元ネタ、文体の研究などなど。多すぎてどれ読んでいいかわからない時は「【おすすめ】創作編」というマガジンをどうぞ。
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#文芸

【超短編小説】『ツイハイ』

【超短編小説】『ツイハイ』

NovelJam 2018年2/10~12日の3日間、著者・編集者・デザイナーの三者がチームとなって小説を作り電子書籍出版をする合宿「noveljam2018」に参加しました。そこで完成した小説「ツイハイ」を、全文無料公開します。7000字程度です。

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「ツイハイ」

〈著者〉渋澤怜〈編集者〉ふじいそう〈デザイナー〉澤俊之

@Tu

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新しい小説を書きたい。シーンを作りたい。仲間が欲しい。

新しい小説を書きたい。シーンを作りたい。仲間が欲しい。

昨日のの記事↓↓の補足記事です。

昨日は
「私の愛する純文学が、インターネット時代において廃れかけていることが悲しい。でも、インターネット時代の今、早くて分かりやすいコンテンツが好まれるのは、時代の潮流だから仕方ない。だから「ネット時代にも読んでもらえる純文学」を作るしかないよ」という話を書きました。

昨日の記事は本当に、私の2018年の目標でありここ最近のnoteの集大成だし、リスクもとった

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「文学なんか今時読まれない」に全力で抗う。ネット時代にも読まれる文学を作る。

「文学なんか今時読まれない」に全力で抗う。ネット時代にも読まれる文学を作る。

上記タイトルが、今年の私の目標です。

・「ネットの文章は「質より量」」という風潮に違和感がある人
・小説(特に純文学)が好きな人、書いてる人
・「良い芸術を作っても食べていけない」という現実に憤りがある人

にはぜひ読んでもらいたい。

■こんにちは、「ライヴが出来る小説家」、渋澤怜です。私はもともとずっと純文学を書いていたのですが、

「小説、しかも純文学なんてウルトラマイナージャンルを読む人

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【長編小説】音楽の花嫁 13/19

【長編小説】音楽の花嫁 13/19

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突然空が暗くなったので見上げると、黒いじゅうたんが落ちて来た。粉塵と風が顔を襲うのでとっさに腕でかばう。腕をほどくと、じゅうたんだと思ったのは巨大な鳥だった。夜を背負ったようにまっ黒で、私達二人を食べてもおやつにしかならないだろうというほど大きな、鳥というより恐竜に近かった。頭だけが黒を纏い忘れたようにピンク色の肌がむき出しだった。
「驚いた、人形使いか」
 鳥が喋った、と

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【長編小説】音楽の花嫁 12/19

【長編小説】音楽の花嫁 12/19

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こんな形でメイドの言っていた「寝室を一緒にする」機会が訪れたのは皮肉だった。私は死に絶えた城で唯一呼吸している生き物、傷ついたネムルの傍にいたかった。自分のベッドに引き入れて飽かず眺めていた。
 ネムルがケガしたのは左腕、指が六本ある方だった。革の手袋は血を吸って赤黒く染まっていた。ネムルは私の前で手袋をとったことが無い。食事もそのまま食べる。手袋をとって剥き出しの六本目の指を見

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【長編小説】音楽の花嫁 11/19

【長編小説】音楽の花嫁 11/19

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たったひとりで音楽を作り、聴いた者は全員死ぬ。そんなネムルの今までの孤独とはどんなものだったろう。美しいとは言えないけれど、私はネムルの音楽を心から好きだと思う。もともとオーケストラから派兵されたのだからこれは裏切り行為になるけれど、私はネムルと一緒に戦うこと以外考えていなかった。ネムルの音楽の一部になれることがこの上なく嬉しかった。
 でも、ネムルの音楽にどうやって私が入るのだ

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【長編小説】音楽の花嫁 9/19

【長編小説】音楽の花嫁 9/19

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指揮者の前に、肘はあるけれど背もたれが無い奇妙な椅子が一脚あり、手首と足首を固定する鎖がついていた。
「座って」
と言われたので言う通りにする。座ってみて、背もたれが無いのは棺がつかえないためだと分かった。しかし、ということは私はこれから背もたれのある椅子には座れないのだろうか、ゴミ捨て場で変なものを拾ってしまったために。
「念のため」
と言って技師がちょろちょろと動いて私の手首

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【長編小説】音楽の花嫁 8/19

【長編小説】音楽の花嫁 8/19

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召集令状の楽譜を読むとこれは『牧神の午後への前奏曲』、つまり午後の方角、南と西の間だろうと見当をつけて歩き始めた。
 棺はもう十分身体に馴染んでいた。というよりもう背中の一部となっていた。自分の背中を外して見られないように、棺の中の自分は見られないということが、背中に染む棺の感触で分かった。
 しばらく歩くと、椅子が沢山並ぶ広場に辿りついた。人が一人立てる程

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【長編小説】音楽の花嫁 7/19

【長編小説】音楽の花嫁 7/19

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おじいさんの家は相変わらず、リフォームした両隣の家に尻込みするように庭木に埋もれてひっそりと佇む日本家屋だった。ここに来るのは中学生以来だ。景色を映す自分の目は育っているのに景色の方が全く変わらずそこにあるなんて不思議だった。でもそれこそおじいさんが待っていてくれる感じがして好ましかった。
 私は適当な木の枝を拾うと縁の下へ向かった。セーラー襟を自分の顔に引き寄せマスクがわりにし

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【長編小説】音楽の花嫁 5/19

【長編小説】音楽の花嫁 5/19

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駅へ走りながら気分は家出娘だった。足音と呼吸音を撒き散らしながら、ちりぢりの考えが生まれては風景と一緒に後へ後へと消えて行く。娘に本当に産んだの、と言われて傷つくくらいなら産まなければいいのに、と思った。思いやりが無いなりに考えてみようと思った。さっきの、炊事洗濯を自分でやることを考えた時の鉛のように重く沈む気分を思い出した。あれを母は私の分まで背負ってくれている、それは気の遠く

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【長編小説】音楽の花嫁 4/19

【長編小説】音楽の花嫁 4/19

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ライヴハウスは家から近いので、一度家に帰って着替えてから行くことにした。玄関を開けた途端に蒸れた空気が顔に飛び込んで来て、ああ、この家にはいつもより多く人間がいるな、と分かった。母と、多分兄だ。
「おかえりー、ご飯出来てるよー、お兄ちゃんもいるよー」
 合唱でも始めるのかと言うくらい朗らかな母の声と、炊き立てのごはんの匂いが玄関まで届いた。けれど困った。
「え、今日遅くなるって言っ

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【長編小説】音楽の花嫁 3/19

【長編小説】音楽の花嫁 3/19

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おじいさんの告白を聞いた初めての夜は案の定眠れなかった。ちぎれた戦友の腕や、破片が刺さったおじいさんの腹やら、私の頭が作り出した生々しい画は、私の怯えを餌にして瞼の裏でどんどん誇大化し、頭の中を埋め尽くした。しかし何晩も何晩も再生するごとに恐ろしさは段々薄れていき、そのかわりに成長した私の心の真ん中を占めるようになったのは、「自分ならどうする」という問いだった。私には、親友もろと

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