マガジンのカバー画像

mitomokの画像を利用してくださった記事(1〜1000)

846
「みんなのフォトギャラリー」で私の画像を利用してくださった方々へのフィードバックとして、画像を利用してくださった記事をまとめたマガジンを作成しました。外していただきたい方は私まで… もっと読む
運営しているクリエイター

#短編小説

【いつメロ No.8】いつかの私へ

【いつメロ No.8】いつかの私へ



拝啓 いつかの私へ

この手紙を読むとき、私は何歳でどうなっているか分からない。
社会に出てバリバリ働いているかもしれない。中年になって家族がいるかもしれない。独身を貫いて何かを極めているかもしれない。そんな想像を膨らませていると、何だかワクワクハラハラしてきたな。
けど、どんな自分になっても、この手紙を書くに至った経緯は覚えていると思う。その状況になったから、この手紙を見つけ出して開いてい

もっとみる
妄想、野良猫、首長竜

妄想、野良猫、首長竜

 僕の通っていた小学校にはケンちゃんという男の子がいた。
彼はいわゆるちょっと遅れた子で、僕たちはよく彼をからかって遊んでいた。彼が転んだら大笑いし、遠足の時は同じ班にならないよう押し付けあったりしていた。
 彼がそこまで煙たがられていたのは、彼がどんくさかったからだけではなく、たびたび虚言を吐くせいだった。
しかもその内容は、昨日おばけに人が食べられるのを見ただとか気が付いたらお父さんとお母さん

もっとみる
短編【ばあちゃんとポプリの匂いと糞坊主】小説

短編【ばあちゃんとポプリの匂いと糞坊主】小説

気付きはしないとでも思っているのだろう。音だけの読経が惰性で響いている。

それなりに広い十二畳の畳間だけど大人が十人も正座をして二列にならべば、かなり手狭になる。
その十二畳の仏間を糞坊主の読経が支配している。

私はその支配から逃れたくて読経の途中で席を立った。隣に座っていた姉の里佳子が私の動きを察し眉をきつく顰め、いい加減にしなさいと無言で制した。私は気づかないフリをして襖の向こうの居間へ出

もっとみる
【短編】大きな瞳で見つめられた

【短編】大きな瞳で見つめられた

 記録を樹立した。一時間で煙草を一.五箱吸った。しかし二五年の人生の中で一度たりとも煙草の本数などメモしたことがないから実は新記録でないのかも知れない。よく分からない。
 午前中のエクセルシオールでカプチーノを服んでいた。店内は薄暗い。俺は壁際のソファにもたれている。別のソファでは奥様達が息子や娘が性に目覚めて困ったと楽しそうに話していた。話したくて仕方のない明るい種類の悩みもある。羨望。向こうに

もっとみる
短編小説 アルファゲドン

短編小説 アルファゲドン

 昔々、ファゲという男がいました。ファゲは背も低く、見た目も醜悪な為に女の子から見向きもされず、30歳の誕生日を迎えようとしていました。誕生日を迎える夜、いつものようにファゲが床についていると夢の中にハゲた老人が現れました。

「お前彼女もいないまま30歳になったのかよ」
「気にしてるんだから触れるんじゃねぇよ」
「仕方がないから魔法を教えてやるよ」
「魔法?そんなもんこの世にねぇだろ」
「バレね

もっとみる
米澤穂信「安寿と厨子王ファーストツアー」

米澤穂信「安寿と厨子王ファーストツアー」

米澤穂信「安寿と厨子王ファーストツアー」
ミステリーズ!vol.89、時代小説 ザ・ベスト2019所収

米澤穂信先生はミステリ作家だがこれはミステリ小説ではない。そして私がジャンルを当てはめることはない。
古くからある童話が「安寿と厨子王」
それを題材にとった森鴎外の「さんせう大夫」という小説があるらしい。
知らなかったが、厨子王という名前くらいは聞いたことがある。勿論知らなくて問題はなかった。

もっとみる
ショートストーリー 花屋のユリ

ショートストーリー 花屋のユリ

ずいぶん前のことだ。

その娘はいつも、花屋に一人でいた。

売り子は、彼女以外には見たことがなかった。

市民病院から歩いて、5分ほどの場所にある小さな花屋。

店の名前はモデスティ。

寺沢一郎は、母が市民病院に入院してからの一ヶ月、土曜の日は、母に会いに行くことが習慣になっていた。

そのとき、道筋にあるモデスティによって、母のために花を買った。

花屋の娘は、目の輝きが愛くるしく、笑顔が魅

もっとみる
【掌編小説】おひなさま

【掌編小説】おひなさま

「おひなさま、いつしまったらいいんやろ。今日の夜?」

 久しぶりに食べたちらしずしが思いの外おいしく、余韻に浸っていたときのことだった。
 こちらに問いかけておきながら、志麻は答えを聞く気がないのかすぐにジャージャーと水を流しながら洗い物を始めてしまう。

 まずコップを洗って、次にお箸、それからお茶碗……彼女の洗い物の順番はいつも変わらない。頃合いを見計らって台所に体を向けると、ちょうど彼女が

もっとみる
じいじのひな人形

じいじのひな人形

三月三日は桃の節句、ひな祭りだ。女の子の健やかな成長を願う行事。
我が家も今年はおひな様を出すことにした。

我が家は母子家庭ということもあり、日々の家計に余裕はないのだけど、おひな様は私が小さい頃に買ってもらったものがまだ大切に取ってある。お下がりで申し訳ないなと思いながら、押し入れの奥からひな人形の入った段ボール箱を探り当てて引っ張り出す。私が部屋の奥でごそごそとしていたので気になったのか、作

もっとみる
気づけば1年すぎていた

気づけば1年すぎていた

——————————————

「クリスマスに食べるね!」

——————————————

そう言って、あの人がお菓子を受け取ってくれたのは、

もう一年も前のことでした。

遠い距離、個人的な連絡先も知らず、

もうながいことお会いする事もなかった、

憧れのあの人。

思い切って、去年の夏、10年ぶりにお会いする事ができ、

冬には2回目の再会に漕ぎつけました。

季節はちょうどクリスマス前

もっとみる
恐竜図鑑

恐竜図鑑

テレビのない1Kの部屋。
私ともうすぐ3歳になる娘、2人だけの世界。
私が家で仕事をしている間は、
旧型のiPadで子ども向けの動画を巡回する娘は、
女の子らしいものも好きだが、乗り物や恐竜の動画も、熱心に見ている。

3歳の誕生日に絵本フロアに行くと、恐竜図鑑を離さなかった。
思っていたより分厚い本を持ち帰ることになってしまった。

家に帰ると、2人だけの静かな世界が待っている。
上手に手を洗え

もっとみる
【まいにち短編】#7 お酒のせい、あなたのせい

【まいにち短編】#7 お酒のせい、あなたのせい

「いい加減にしなさいよっ!」
バシッ。

後ろの席から突然耳に入ってきた違和感のある大きな声と音に、反射的に体が震えた。
火曜日13:15、ランチタイムのラウンジで感情をむき出しにしている人を見るのは初めてだったので
とてもびっくりしてしまった。

一体何事だろうか。つい、聞き耳を立ててしまう。
火事とか、事故現場とかに群がる野次馬たちのことをバカにできない。

「痛いな…何すんだよ…。まったく…

もっとみる
【ショートショート】#19 泉の女神

【ショートショート】#19 泉の女神

せっかくのピクニックだというのに
風邪を引いてしまった。喉がとても痛い。

早く治すために薬を飲まなければ。
薬をポッケから取り出そうとしたその時
そばの泉に落としてしまった。

風邪を引いた上に、薬まで落とすなんてついてないな。
と肩を落としていると泉が光り、中から女性が現れた。

まさか女神か?泉から女神が出てくるなんて
おとぎ話の中だけだと思っていたけれど実在するんだ。

こういう時は質問に

もっとみる