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https://twitter.com/HenryQuin2 本読んだ感想に使っています。

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米澤穂信「黒牢城」

謎解きする理由は物語にあって、謎解きが物語を動かす。 連作短編としての謎をこえて世が動く。幾人かの言葉が遺る。 因果と有岡城の戦いを合わせて考えるとはかなく思わずにはいられない。 ネタバレ含む感想を書きます。未読の方はお控えください。 謎解きをする理由は物語の中にある。 村重が家中の疑念を晴らすため、裏切り者を見つけるため。 そして謎解きは物語を動かす役割を終盤に担うことになる。 このように「黒牢城」はミステリと戦国時代小説が不可分に結びつき、リアリティを産み出している。

    • 『六色の蛹』櫻田智也

      魞沢泉に会いたかった。 櫻田智也さんの描くミステリは動機に注目していた。登場人物が抱えている事情は複雑で切実なものが多く、世の中には救われない人が大勢いると分からされる。前作『蟬かえる』収録の「サブサハラの蝿」などが良い例だ。 ユーモア風味の文章もデビュー作以来ずっと混ぜられ続けている。 他人から見る魞沢泉は安定しておもしろおかしく、クスっとする箇所がいくつもある。 短編ごとに感想を書く。ネタばらしになるので未読の人は読まないように。 「白が揺れた」読んでいる最中に

      • 米澤穂信『可燃物』イベントの話(短編「本物か」について)

        米澤穂信先生の『可燃物』ネタバレトークイベントに参加しました。イベント中ならばネタバレ配慮せずに自由な発言が出来るのに言いたいことが思い浮かんだのは終わった後でした。 『可燃物』のネタバレをしますので未読の方は読まないでください。そしてイベントでどういう発言があったかを少しだけ触れます。 以下拙い文章ですが、言いたいことをまとめました。 手掛かりをフェアに提示することにこだわっている本書だが、 「本物か」はこの部分(崖の下なら凶器)を解く話と宣言がされずに終盤で一気に反

        • 連城三紀彦『敗北への凱旋』

          戦後の横浜で、男が女に銃殺される。どうやらその男は軍人でありピアニストらしく、音楽の才能を捨てて戦争に行かなければならなかった悲しき男であった.... 戦地にて男が託した運指の意味とは? 事件の裏に隠されたとてつもなく壮大な大犯罪とは...? 随分と感想を書くのが久しぶりになりました。 そしてこの『敗北への凱旋』は一年以上も本棚に眠らせていまして、恥ずかしく思っています。評判を聞いているから買っているというのに… 読後になんと勿体ないことをしたのか、早く読むべきだったと反省

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        米澤穂信「黒牢城」

          警察小説の金字塔 横山秀夫『第三の時効』

          今冬からはじまりました『米澤屋書店』の中から読む本を決めるコーナー第二弾です。前回は『大誘拐』です。 リストを作ったのでこれからはしばらく続きそうです。 この短編集はどの短編も甲乙付け難い出来の傑作でした。 F県警の捜査第一課強行犯一係、通称〈一班〉班長の朽木。二班の楠見。三班の村瀬。彼らは殺しを扱う事件を指揮する立場にある。 扱う事件を未解決で終わらせることは彼らが班長になってから一件のみ。我が班が絶対にホシを挙げる。それに尽くす猟犬のような刑事たち。その組織では人間らし

          警察小説の金字塔 横山秀夫『第三の時効』

          北村薫『中野のお父さんは謎を解くか』

          シリーズ二作目。編集者の田川美希は謎に出くわして行き詰まると中野の実家へ行き、父に話を聞く。知識が豊富で頭の回転が速い〈中野のお父さん〉は、いくつも資料を持ってきてまで美希に教えてくれる。 娘をかわいがる父の姿と、文学を愛する人としての姿が垣間見える。 北村薫先生の得意技である文学の謎や日常に潜む不思議を取り上げていながら肩肘張らない感じの文章が読みやすいです。 解かれる謎とその解決だけでなく、一見関係がないエピソードも何かの暗示だったり後から繋がってきたりで無駄ではありま

          北村薫『中野のお父さんは謎を解くか』

          天藤真『大誘拐』

          米澤穂信先生の読書エッセイ『米澤屋書店』は読書ガイドとしてとても有用なものです。 冒頭で、先生が一人の作家につき一冊というルールで、最も愛しているミステリを十冊挙げられました。 つまりはそこで『大誘拐』を知った訳でありますが、「完璧なミステリ。スケールが大きい。とても魅力的な人物」と言われているんだから読みたくなって仕方がない。 そしてその言葉通りの傑作でありました。 以下はネタバレ含む感想なので未読の方は作品を読んでから 米澤先生も仰っていたように柳川とし子刀自の魅力が

          天藤真『大誘拐』

          北村薫『覆面作家の夢の家』

          柔らかく軽妙に洒落をきかせながら、思わぬタイミングで心にくるユーモアミステリの傑作。〈覆面作家シリーズ〉最終作である。 推理小説雑誌の編集者である岡部良介と、覆面作家でありながら豪邸に住む御令嬢の新妻千秋。毎度起きる奇妙な事件を千秋さんに話すと見事に解決してしまう。そして高野文子さんの挿絵はこの作品によくあっている。 ネタバレ有りで感想を語ります。未読の方は読んでから見てください。 千秋さんにより終盤に語られる〈論〉は人を慮る気持ちに溢れていて、それを良介が受け止めて、同

          北村薫『覆面作家の夢の家』

          泡坂妻夫『妖盗S79号』

          怪盗ルパンのアニメ脚本を辻真先さんが書くそうですが。華麗な怪盗がここにもいます。 神出鬼没の怪盗S79号はどれほど警察に警戒されても華麗な手口で盗みだしてしまう。S79号専従捜査班の東郷・二宮のコンビは幾度も目の前で怪盗S79号に盗まれている為一種のリスペクトまで覚えてしまう。 東郷はS79号のことになると論理的でなくなり、周りの全員や部下の二宮までS79号が変装しているかもと疑うほどだ。 連作短編形式で盗みを重ねていくスタイルで、そのトリックは実にシンプルでありながら読者

          泡坂妻夫『妖盗S79号』

          米澤穂信「安寿と厨子王ファーストツアー」

          米澤穂信「安寿と厨子王ファーストツアー」 ミステリーズ!vol.89、時代小説 ザ・ベスト2019所収 米澤穂信先生はミステリ作家だがこれはミステリ小説ではない。そして私がジャンルを当てはめることはない。 古くからある童話が「安寿と厨子王」 それを題材にとった森鴎外の「さんせう大夫」という小説があるらしい。 知らなかったが、厨子王という名前くらいは聞いたことがある。勿論知らなくて問題はなかった。 母親、姉(安寿)弟(厨子王)が人買いに売られて酷使された。母親は佐渡で、姉弟は

          米澤穂信「安寿と厨子王ファーストツアー」

          泡坂妻夫『亜愛一郎の転倒』『亜愛一郎の逃亡』

          伏線回収。何気なく流れていく描写を後から手がかりや根拠として活用すること。この亜愛一郎シリーズは約40pの短編ながら怒涛の伏線回収を得意としているユーモアな推理小説。 奇妙な考えや推理を展開したり、言葉遊びが度々登場したり、亜愛一郎とコントのような勘違いをしたりするあっという間に読める小説でした。 皆から愛される亜愛一郎、彼の物語がどのように終わりを迎えるか、ぜひ読んでみてください。 ネタバレしながら、感想を書きます。本作を読んでからご覧ください。 『亜愛一郎の転倒』より

          泡坂妻夫『亜愛一郎の転倒』『亜愛一郎の逃亡』

          米澤穂信「下津山縁起」

          アンソロジー『時の罠』所収 草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ) 草木や土などにも心があるという思想 米澤穂信作品のどれかと似ているとはいえない異質な小説。 ミステリではないだろうしSFのように思えるがこんな形のSFを私は知らない。 書物の引用が時系列に沿って並べられている形式。 序盤は今を生きる私が捉えやすいようになっているが、歴史書みたいで面食らうかもしれない。研究者のインタビューが出てきてはじめて話が見えてくるだろう。 話の結末に触れますので、

          米澤穂信「下津山縁起」

          泡坂妻夫『11枚のとらんぷ』

          新品のカードをシャッフルします。 あなたがお好きな一枚を選んで覚えてください。 もう一度カードの中に戻してシャッフルします。 あなたが選んだカードはこれですね? カード当ての奇術は主にこんな手順で行われる。 この「11枚のとらんぷ」ではカード当てのタネが数多く解説されている。 言うまでもなくどこかの部分にタネがあり、それはそれほどパターンは多くない。 「この部分は隙がない。ならばあの部分にタネがある」 このように考えるのは難しくないが、推理で当てるのはとても難しいものだっ

          泡坂妻夫『11枚のとらんぷ』

          泡坂妻夫「亜愛一郎の狼狽」

          愛すべき探偵役、亜愛一郎初登場の短編集。 八編どれも仕掛けがたくさん配置されていて、キレ味抜群の伏線回収が連続していく推理は見事です。 この亜愛一郎の身なりはいつでも綺麗に整っていて、背が高く端正な顔立ちをしている。しかし運動神経はまるで駄目で傘も扱えない不器用。 いつものとぼけた会話や柔和な印象から軽く見られるが彼の推理を聞いた人は一目置くことになる。 そして読者は毎回この亜愛一郎に早く登場してきてもらいたくなる。そんなミステリ小説です。 ネタバレありの感想を書きますので

          泡坂妻夫「亜愛一郎の狼狽」

          北村薫「リセット」

          北村薫「リセット」 私はちいさい時に戦争の映画を観るのは嫌いだった。 よくこれが日本であった事、忘れてはいけない事といわれた。なので現実から切り離せない、現実から遠ざけてはいけないと感じながら観るのが辛かった。 これから辛い目に遭う人が生きていて少しずつそれを恐れ始めるのも恐かった。 戦争を遠ざけてきたといっても、学校で教わったりドキュメンタリーに触れたりはしてきた。なので断片的に神風特攻隊などの犠牲心や日本軍の体質を知っているだけといってよかった。 本作では戦

          北村薫「リセット」

          北村薫『遠い唇』

          7篇からなる短編集。 暖かい感じのものが多かったように思う。 また暗号ミステリもたくさん出てきた。 名探偵の巫弓彦が登場する「ビスケット」 宇宙人が3つの小説を調査する「解釈」は、勘違いが炸裂するコメディ。 江戸川乱歩が自作の二銭銅貨の話を持ち出す「続・二銭銅貨」 ネタバレ込みの感想を述べますので、未読の方は注意 3つのみ感想を書きます。二銭銅貨は乱歩のを読んでから書こうかな。 「遠い唇」 キリマンジャロの雪の主人公は若くして命を落としたんだってね。まあ先輩が何か危機

          北村薫『遠い唇』