見出し画像

北村薫『中野のお父さんは謎を解くか』

シリーズ二作目。編集者の田川美希は謎に出くわして行き詰まると中野の実家へ行き、父に話を聞く。知識が豊富で頭の回転が速い〈中野のお父さん〉は、いくつも資料を持ってきてまで美希に教えてくれる。
娘をかわいがる父の姿と、文学を愛する人としての姿が垣間見える。

北村薫先生の得意技である文学の謎や日常に潜む不思議を取り上げていながら肩肘張らない感じの文章が読みやすいです。
解かれる謎とその解決だけでなく、一見関係がないエピソードも何かの暗示だったり後から繋がってきたりで無駄ではありません。













ネタバレ含む感想を書きます。未読の方は読んでから












ニ編のみ書きたいと思います。
二つとも文学を扱うものです。

「水源地はどこか」

松本清張が「春の血」という短編で盗作疑惑をかけられた。二十年後に「再春」でそのエピソードと「春の血」を作中作として少し手を加えて登場させている。
なぜ「春の血」はすぐではなく時間が経ってから批判されたか。
盗作疑惑の話だけでなく横溝正史にまで繋がってくる。

次々に引用されていく本を読んでいくと、それまで見えていた景色が更新されていって、深くまで分かる(気がする)
盗作ではないかという指摘からもっと踏み込ませてくれるこの話は楽しく読めた。


「火鉢は飛び越えられたのか」

少し前に私が読んだ大誘拐は「米澤屋書店」から知って読んだのですが、これはその逆です。
引用されている講演録はどこで読めるかとGoogle検索した結果、自分が持っている米澤屋書店にあるじゃないか!となったわけです(まだ後半は読まずに残している)

泉鏡花が徳田秋声を殴った逸話は、時間を遡って確かめるとはじめに書かれたものと違ったものになっているという。変えたのは誰か?その場にいたのは誰か?なんで殴られたか?まで推測してみる話。

小説的に手が加えられたのも鮮明になるといいますが、いくつかの文をあたって鏡花と秋声という人物が見えてくる面白さもあるでしょう。鏡花臨終のエピソードからも見える通り兄弟弟子として深い関係であったと分かります

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?