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北村薫『覆面作家の夢の家』

柔らかく軽妙に洒落をきかせながら、思わぬタイミングで心にくるユーモアミステリの傑作。〈覆面作家シリーズ〉最終作である。
推理小説雑誌の編集者である岡部良介と、覆面作家でありながら豪邸に住む御令嬢の新妻千秋。毎度起きる奇妙な事件を千秋さんに話すと見事に解決してしまう。そして高野文子さんの挿絵はこの作品によくあっている。











ネタバレ有りで感想を語ります。未読の方は読んでから見てください。










千秋さんにより終盤に語られる〈論〉は人を慮る気持ちに溢れていて、それを良介が受け止めて、同じくらいの気持ちで返す。それができるから自然に恋愛へ展開されるのだと思います。前作「愛の歌」ので千秋さんが悩んでいた時に心に寄り添った良介なのだから二人が結ばれたのだと思います。

「覆面作家と謎の写真」
元恋人との思い出の写真を残しておきたい。本の間に挟んだりしたら、いかにも悪いことみたい。そうじゃなくて、同じ季節・場所に行った思い出をもう一度作りその中に一年前の写真を紛れさせる。他人から見れば違和感はなく自分だけが思い出に浸れるはずだった。

「覆面作家、目白を呼ぶ」
さっき会っていた人が突然運転を乱し崖から落ちて亡くなった。
その人はスズメバチに刺されたことがありアナフィラキシーショックを恐れてパニックになったのだ。
加害者はその人とお金のことですれ違いが起き、その人に損をさせてしまった。顔を合わせる度に気を病み、旦那にも分かって貰えなかった。弱さを受け入れてくれない旦那だった。

「旦那が奥さんの立場になれる人だったら、こんな事件は起きなかったろうな」


「覆面作家の夢の家」
「愛の歌」ではとても小さな椅子を千秋さんが見せた。そのお返しにドールハウスを見せた良介。
ある作家先生とその友達の間でドールハウスを舞台にして殺人が起きたとしてダイイングメッセージを残したという〈問題〉が実際に作られていた。
その暗号は言わないが、それは出題者から解答者への愛を複雑に伝えていた。
その後良介は、千秋さんに愛を伝え
千秋さんは、ただ「良介さん......」と答えた。
新妻邸では岡部さん、その外ではリョースケ、となるのがいつもなのに。

「お屋敷でもない、外でもない。きみは、どこにいるんだい」
「ここ。......わたしの家に」

覆面作家である千秋さんは良介と結ばれることを望んでいた。それが夢だった。そして今まさしく〈夢の家〉に入った。

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