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米澤穂信『可燃物』イベントの話(短編「本物か」について)

米澤穂信先生の『可燃物』ネタバレトークイベントに参加しました。イベント中ならばネタバレ配慮せずに自由な発言が出来るのに言いたいことが思い浮かんだのは終わった後でした。


『可燃物』のネタバレをしますので未読の方は読まないでください。そしてイベントでどういう発言があったかを少しだけ触れます。


以下拙い文章ですが、言いたいことをまとめました。


手掛かりをフェアに提示することにこだわっている本書だが、
「本物か」はこの部分(崖の下なら凶器)を解く話と宣言がされずに終盤で一気に反転させる。
なので、米澤先生はフェアプレイの観点からこれで良いのか迷っていたそう。
しかしこれはとてもフェアに書かれたミステリであると思う。
解けるように書くとは、こういうことかと気づいたので記しておく。


「本物か」ではパスタの茹で時間から真相に辿り着く。茹で始めてすぐに物音がした。茹で終わり盛り付けパスタをテーブルに届けてから「逃げろ」の声を聞いた(270p)
時間が6分経っているが何をしていた?


233pから安田に話を聞く。

「なるほど。では、物音がしてから『逃げろ』という声が聞こえてくるまでの間隔はどれくらいでしたか」

236p

この部分はこの短編で解くべき謎を示した問いだった。しかし読者にはそれを明かさなかった。


次は久島に話を聞く。

「トルティージャがメニューから消えたんです。ボンゴレ・ロッソも!」

240p

読んでいる最中はそれが何か関係ある?と疑問に思うだろう。しかし米澤先生はここでファミレスの料理の話がこの謎に関係あると示している。(と思う)


次はクレームを受けた倉本に話を聞くシーン。

「ナッツが入っていないか店員に確認して、入っていないから頼んだのに話が違うじゃないか、と。」

246p


同じく料理の話から、偽犯人の志多の動機が出てくる。
そしてやはり事件に料理は関係あるのだ、と強調されていると思う。

読者を騙すための箇所と、読者にフェアに推理させるための箇所が、並列で配置されている。あまりにも巧妙だ。



真相に辿り着ける情報を正しく示し、他の可能性を排除できる情報を正しく示す。それがフェアプレイの手順だと思う。加えて、情報を強調して示すことにより、フェア度を調節していたとは本当に細かい拘りで素晴らしい。他にも大胆にそのまんまの描写がされている箇所が各編にある。フェアプレイをとことん意識している証だ。

※「命の恩」では左の上腕が見つからなかったが何か意味はあるかという質問があった。(155p)
返答はリアリティレベルを調節するため、だった。
『可燃物』はミステリのための異世界ではなくそれより現実的な世界を舞台にしている。

イベントの質問時間で言えれば良かったと思うが、わざわざ確認する必要もない当たり前のことかもしれない。

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