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北村薫「リセット」

北村薫「リセット」

私はちいさい時に戦争の映画を観るのは嫌いだった。
よくこれが日本であった事、忘れてはいけない事といわれた。なので現実から切り離せない、現実から遠ざけてはいけないと感じながら観るのが辛かった。
これから辛い目に遭う人が生きていて少しずつそれを恐れ始めるのも恐かった。
戦争を遠ざけてきたといっても、学校で教わったりドキュメンタリーに触れたりはしてきた。なので断片的に神風特攻隊などの犠牲心や日本軍の体質を知っているだけといってよかった。

本作では戦争という物は始めから終わりまで描かれており、戦争をここまでしっかり線として捉えたのは初体験かもしれない。
女学生の目線から見たリアリティのある気持ちの移り変わりが新鮮だった。







ここからはご自分で小説を読んでから見てください。
ネタバレ有の感想を下に書きます。












物凄い小説に出会った。
世代を超えての繋がりというテーマ。
別れが訪れても繋がっている二人。
すぐには立ち直れず自分が生きているべきでないと思う時もあった。それでも生きる強さ。
前を向いて生きて行き、そしてまた出会い、愛しあった二人。
こんなに尊い人間達を描いた北村薫が大好きなのだ。

かるた、歌、本などが二人を繋ぐ鍵となるが、これらには描かれている意味が見出せると思う。
この作品のテーマでもあるのは世代を超えて繋ぐバトンである。
始まりは修一から本を貸す、歌を教える。
真澄さんがちいさい子へ"いい選択肢"を選ばせてあげたいと本を貸す。和彦はテープに日記から思い出まで吹き込む。
優子さんとの思い出だって繋がりが生まれていたのかもしれなかった。
工場の機銃掃射を残したのだってそう。
これらすべて良いと思っているものを教えてあげたい気持ちが奇跡を起こす可能性を秘めている。
真澄さんは和彦が来る前から出版社で働き貸本屋をしていた。和彦は繋げていくことに意味があると思って録音している。
良いものを伝えたいから伝える、繋いでいきたいから伝える。どちらの道もあっていいのだと思う。

優子さんは真澄さんのいうように巡り合わせが悪く悲劇が襲ってしまった。修一さんとお兄さんは重なる所もあるから、弥生原家でも悪いことばかりではなくあって欲しいと思った。

北村薫さんの文章がやはり凄く響くのだ。
二人が繋がっていく時、一度出てきた言葉がもう一度出てくる。二人に既視感として響くのだが、読者にも伏線回収として響く。そして繋がりが生まれたことに浸ってまた響いていく。素晴らしい技法だと思う。

転生をして再会していくことの意味。
無粋なのかもしれないが考えた。
「また会える」「あなたのこと忘れない」
この台詞を本当のことにしてくれる。
そう言われたって信じ続けたり本気にしたりするのは難しいだろう。転生という設定まで信じなくてもいいから気持ちだけを本気にしてみて、繋がりを繋げていってほしいということではないだろうか。

頭の中に繰り返し浮かんだのだ。「我々は死んだりはしない」


幾度も星は流れ、そして時はめぐる。地上では詩が生まれ、歌が作られる。人々は、絶えることなく、それぞれの物語を、各々の言葉で語り続ける。
そして時は流れ、星はまためぐり続ける。


胸に抱いて生きて行こう。




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