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短編小説 アルファゲドン

 昔々、ファゲという男がいました。ファゲは背も低く、見た目も醜悪な為に女の子から見向きもされず、30歳の誕生日を迎えようとしていました。誕生日を迎える夜、いつものようにファゲが床についていると夢の中にハゲた老人が現れました。

「お前彼女もいないまま30歳になったのかよ」
「気にしてるんだから触れるんじゃねぇよ」
「仕方がないから魔法を教えてやるよ」
「魔法?そんなもんこの世にねぇだろ」
「バレねぇように皆使ってんだよ。ってか、バレたら・・・」
「・・・なんて恐ろしい」
「そんじゃ、バレないようにせいぜい楽しく使うんだぞ。じゃあな」

 目が覚めると何の変哲もないいつもの朝でした。枕元に散乱した抜け毛を拾うとファゲは夢の中で教わった通り願い事を念じながらふぅっと息を吹きかけます。ふわふわと息をうけて舞うファゲの抜け毛。それがピカぁっと光ったかと思うと抜け毛はずっとファンだった女優さんに変わりました。ファゲが眼の前に起きた事とあまりの美しさに驚いて言葉を失っていると10秒ほどで女優さんは消えてしまいました。

 ファゲは出社時間になるまで枕元の抜け毛で色々な魔法を試しました。効果は1本10秒ほどで、どんなものでも10秒だけなら召喚することが出来ました。ただし、人を召喚する場合はよく似た偽物で本人ではないようでした。本数に応じて時間も伸びたのですが空を飛びたいだとか、物を召喚しない魔法は願い事の難しさに比例して必要な本数が変わるようでした。何より人にバレてはいけないので全て自分の部屋の中で完結するものという制約がありました。しかしその日は仕事をしながらどんな事にこの魔法が使えそうかで頭がいっぱいでした。ファゲは、久しぶりにワクワクした気持ちになりました。

 魔法を使えるようになった事でファゲの心に少しずつ余裕が生まれるようになりました。それまで悩みの種だった抜け毛が宝の山に変わったのです。豪勢な食事に美女とのひととき。ストレスマッハのファゲの人生に幸せな時間ができるようになりました。心に余裕が出来たことで人にも優しく出来るようになり、ファゲの髪の毛も容姿も気にしない心優しい彼女(魔法で作ったんじゃないぞ!byファゲ)もできました。やがてファゲは彼女と結婚し、二人の間には娘も出来ました。ファゲは本当に幸せでした。ある日、ファゲがいつものように床についているとあのハゲ老人が夢に現れました。

「楽しくやってるみたいじゃん」
「あの時のハゲ!ありがとう!おかげで楽しくやってるよ」
「悪いけど幸せになれた奴には魔法返してもらうことになってんだわ」
「え?」
「まぁ返さないのも自由だからじっくり考えてみw」
「あ、ちょっと!!」

 朝目覚めてみると何の変哲もないいつもの朝でした。魔法は・・・まだ使えるようです。リビングに降りてみると奥さんが呆然とテレビを見つめています。何があったのか聞くと地球に隕石が向かっている事が分かったと、このままではぶつかると奥さんから聞かされました。

「返すってそういう事か・・・」

 案の定、核兵器を持った国が核ミサイルを隕石に向かって撃ちまくりましたが隕石が大きすぎて破壊できないとどの国の指導者もフサフサの頭を抱えていました。タイムリミットが迫る中ファゲはありったけの抜け毛を集めると1つだけ、隕石以外の為に最後の魔法を使うことを決めました。

娘に幸せな未来が訪れますように

 ほとんどの抜け毛はそのお願いで消えてしまいました。大丈夫。まだ髪なら頭に生えてる!!!ファゲは残り少ない抜け毛を集めると直感的になるべく高い所へ行きました。1人、また1人と高い所に近づくにつれていかにもモテなさそうな男たちが集まってきました。そっか・・・こいつらも魔法返しに来たのか・・・幸せになれたんだな・・・ファゲはそんなことを考えながらお互い何も語らず高い所を目指しました。目的の場所にたどり着いた頃には何十人もの集団になったファゲ達はそれぞれ顔を見合わせると意を決して自分の髪の毛を抜きだしました。

 あまりの痛みに泣き出す者、頭皮を真っ赤に染めながらそれでも一心不乱に髪を抜く者、最後の1本を名残惜しそうに見つめる者。ファゲ達はありったけの髪の毛を集めました。

ふぅ!!!!!!!!!

 髪の毛はピカぁっと光ったかと思うと大きな光の球になり隕石めがけて一直線に向かっていきました。轟音と共にさらに強い光があたりを照らすと何事も無かったように静かになりました。もう、誰一人髪は残っていませんでした。

「バレたら二度と髪生えてこないからw」

 ハゲ老人の言ったことは皆分かっていました。それでもファゲ達は後悔しませんでした。もう自分達には魔法なんて必要ないのだから。家に帰ると家族が迎えてくれました。テレビを見るとブ男たちから謎の巨大火球が発射されると隕石を破壊したと、さかんに報道されていました。ファゲは抱っこした娘にツルツルになった頭を叩かれると満足そうに笑いました。

めでたしめでたし

Thank you for reading to the end. The support you receive will be used as an activity fee. 通訳「私利私欲のために使うお金が欲しいそうです。」