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#寝る前に読むショートストーリー
〔ショートショート〕長袖で会う日の話 1
子供の頃、祖母の家に行くのが楽しみで仕方がなかった。それは小学生時代の夏休みの恒例だった。自宅から二時間半くらいの田舎町。車から見えるのは、退屈な田園風景ばかりが続く道のりだった。「もうすぐ着くぞ」と、眠ってしまった私を起こす父の声が車の運転席から聞こえる。寝ぼけ眼で見えるのは、いつも決まって同じ場所だった。道が大きく曲がる。そのカーブの先には大きな橋が架かっていた。
「十円橋」。父は、橋の名
〔ショートショート〕喫茶店にスプーンは必要かな
コーヒーゼリーの上からかけた白い生クリームソースが、スプーンの後を追って行く。「苦いのが美味しいね」なんて格好をつけたところで、本当はシロップ入りの生クリームがあるから好きなんだと、後悔した。僕は今日、初めて彼女を尾行した。
仕事だと思っていたが平日が、急に暦通り以上の連休が取れることになった。付き合って半年の彼女と旅行にでもと思ったが、彼女の方は仕事らしい。だから、僕は以前から気になってい
〔ショートショート〕 友達図鑑
過ぎ去った年月の中に閉じこもるには、理由がある。でも大勢の人が、それを妨害しようとしてくるから煩わしくなって、それから嫌いになった。
十歳の誕生日に、ボクはその本を盗むことを決めて、17歳のときに実行した。その本は、皆が言うには「みんなの」もので、100ページくらいあり、それほど重たくはない。
本については常識的な共通のルールがあり、それを守るのが普通のことであるらしい。ネタバレをすること
〔ショートショート〕 未来よりも明るい時間
アイマスクをして眠るキミを見るのが好きなんだ。キミの寝顔を見ながら、一緒に行った旅行先で見つけた振り子時計を思い出す。
その時計があったのは古い小さな旅館で、駐車場にボクらの車が入るとすぐに女将さんが迎えてくれた。隅々まで掃除が行き届いている庭と、木の葉を風が撫でる音が気持ちが良かったのを覚えている。
そして玄関を入ってすぐのところに、それはあった。「調整中」と書かれた札が貼ってある大きな
ポケットにしまった記憶
海岸沿いに見晴らしの良い休憩所がある。
車が20台くらい止められる駐車スペースとトイレ。それと、そこからちょっと歩いていける屋根のついた休憩ベンチ。その一帯を区切るように囲む柵が、青く広がる海の迫力を一層盛り上げている。
天気は、やや曇り。
運転中にかかってきた電話に折り返すために、そこに駐車した。
若者が4台並べて駐車して、車外にでて楽しそうに談笑している。会話の内容までは聞こえないが、最近上
「なぁ、なんで春は花粉が多いんだ?」
「なぁ、なんで春は花粉が多いんだ?」
兎が、となりで両目を瞑っているニワトリを肘でつつく。
「そりゃあ、春だし。なんか新しい生活のはじまりだって気持ちになるだろ」ニワトリが片目を半分だけあけ、また瞑る。
「あたらしい生命の季節ってことか?」
「ちがう」
ニワトリは寝ぼけたままだが、兎はそんなことには構わない。
「なぁって」
「んぁあ。ソワソワするだろ、だいたい。天気もいいし、気持ちも足取りも軽くな
「なぁ、なんでお前は飛ばないんだ?」
ある二人の日常
「なぁ、なんでお前は飛ばないんだ?」
兎は同じ小屋にいるニワトリを肘でつつく。
ニワトリは、それを煩わしそうに体を揺すっただけで返事をすまし、また白くきれいな羽を手入れしてる。
そんなことには構わず、兎。
「なぁって」
「んあぁっ、なんだよっ」
イライラしたニワトリが、空を睨みつける。
「あんな汚ねぇ空なんか飛んだら、羽が汚れちまう」
短い物語をよく目にするので、わたしも試しに