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ポケットにしまった記憶

海岸沿いに見晴らしの良い休憩所がある。
車が20台くらい止められる駐車スペースとトイレ。それと、そこからちょっと歩いていける屋根のついた休憩ベンチ。その一帯を区切るように囲む柵が、青く広がる海の迫力を一層盛り上げている。
天気は、やや曇り。

運転中にかかってきた電話に折り返すために、そこに駐車した。
若者が4台並べて駐車して、車外にでて楽しそうに談笑している。会話の内容までは聞こえないが、最近上昇してきた気温のおかげで窓をすこし開けていたので、彼らが楽しそうだという事だけは良くわかった。
まだ幼さが表情に残るような顔から推測するに、同級生なのかもしれない。4台とも新車なのだろう、曇った空の下でもきれいな艶のある顔が所有者たちと一緒に笑っているように見えた。互いに、タイヤの横にしゃがんだり車内を見せるようにドアを開いたりしている。
新しいものを手に入れたときにする男子の顔だよなと、自分のことのように頬が軽くなる。
無事、新しい生活に突入して得た収入で道を進む。
色もスピードも、車内のBGMさえ違う4台が向かう行先は当然違うところだけど、たまにはこうして駐車場に並べている時間が尊い。それに気が付くのは、わたしのように一人で車を停めている時なのかもしれない。

フロントガラスに雨粒があたった。
4人も自分の車に戻っていく。軽く手を挙げただけで守れる約束を交わして、一台づつ道路に戻っていく。
それを促したのは、雨と時間だけだった。


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