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記事一覧

空、それは別々の|詩

空、それは別々の|詩

「空、それは別々の」

丘のうえに流れる風は
星は永遠なのだと疑うこと知らず

転がる言葉の先に伸びる影は
君の其れとよく似た形をしていて
どんなにか記憶を手繰りみても
その存在に重なることはなく

まるで欠伸をする猫のように
小さな諦めを寄せては丸め
もふもふとした陽だまり
そこに、
溶かしこんで忘れた振りの背中で

ツナグ|詩

ツナグ|詩

「ツナグ」

真夜中の真っ白な砂浜は
とても温かく触り心地がよくて
知らせなど無いままに
鼻歌まじりな足跡だけが
それは何処までも
そう、
どこまでも優しく続いている

僕を愛していた君は
君を愛した僕に手を振って

当たり前だけど
こうやって、
きっと人は強くなっていくんだ

月は海の子|詩

月は海の子|詩

「月は海の子」

夜の黒と昊のひかり交わり
琥珀を孕んだ海が拡がりゆく

真白な星の砂が鳴く
此処にいるのだと知らせるように

いずれ月がうまれ
君は愛され
そして、
やがて母なる海へと還りゆく

黒執事|詩

黒執事|詩

「黒執事」

僕は君に呪いをかける

ゆっくりながらも、着実に

君はとても優しいひとだ

ずっといいひとで居られるよう

僕が、

君に呪いを掛けてあげる

何処へでも行ける|詩

何処へでも行ける|詩

「何処へでも行ける」

行き場を失った夜更けの風

空はあんなにも広いのに
この壁なければ飛べるのに

睨みつけた其れは言う
お前が勝手に此処へきた
いつだって壁は壁でしかない

吹き溜まり、迷い風
動けぬ壁を恨むは筋違い
くすり笑うて広き空を仰ぐ

鈍色の空に、|詩

鈍色の空に、|詩

「鈍色の空に、」

彩なき空に描かれた虹に
時おり綯交じる鈍色の砂の海

風、吹けば
ゆらり流れて拡がる紋様に
星読みたちはその瞳を伏せた

憎しみを棄てても
尚、
消えることのない哀しみは
どんな色ならば
赦されると言うのだろう

大切なもの|詩

大切なもの|詩

「大切なもの」

さあ、行こうか
俺たちが最も輝けるあの場所へ

夜明けの来ない夜はないと
何処かの誰かが唄う夜更けに
朝陽を待たずして眠ったあいつは
今ごろ鼻を掻いて笑うておるか

陽のあたる場所だけが
この世の全てと思うことなかれ
夜明けの来ない夜はある

ただ暗闇のなかにも
光は、……ある。

わらべな唄のよに|詩

わらべな唄のよに|詩

「わらべな唄のよに」

雲のごとく流れるせせらぎ
水石に弾ける笑い声が陽にとける

いつの日だったか
つぶらな手から放たれた笹舟は
小石に挟まれ行き場を失くしていた

こんなはずじゃ無かったと
おの子はしゃがんで喉を潰す

あぶくたった煮え立った
煮えたかどうだか解りもせずに
ただ時を待つ、
その背中は静かなる雨のなかにて

想像の杜|詩

想像の杜|詩

「想像の杜」

身体なきひかり彷徨う夜の杜
想像の額に意識をあつめ
ただひとつだけの真実をさがす

さわさわと聴こえてくる
草木のうわさな声に耳をふさいで
つんと張った奥深い湖水
小石を投げ込めば波紋が滅ぼす

ひかり彷徨う夜の杜のなか
投げ込まれた小石は
石であることに安堵したように
想像の心を空へと解き放つ

古酒|詩

古酒|詩

「古酒」

去りゆく背中に魂が添い寝する

ほんの少しの諦めと
確かにあった君への想いと
明日を夢みた誰かの声と
忘れてしまった昨日のゆびきり

時計のなかに閉じ込められた
涙のいろをした強めの島酒
また 今夜も
君は、
僕を酔わせてはくれなかった

オシバナ|詩

オシバナ|詩

「オシバナ」

逆さに流れる揃いの時間
出逢ったばかりの霞なサクラ
散りゆく蕾を雫で吊るして
風ふく枝に背あずけ眠る

空は子守唄にくるまれた
どこまでも透明な独りきりの海

破壊ばかりを繰り返す
そうすることの意味を知るため
いつかの蝶に夜を重ね
醒めない夏の桜に夢をみる

君雨に眠る|詩

君雨に眠る|詩

「君雨に眠る」

やわらかく延々と降りつづく
優しい雨が好きだった
其はゆっくりと種を蒔いていく
君の温もりに似てるから

じきに雨はあがり虹が遊ぶ
無邪気に足もと転がって
水たまりには恋文を映すだろう

窓の外では白い街
爪のさきまで濡れてゆく
そんな雨のような君が
静かにいつまでも降り続いてた

暗号化された夢|詩

暗号化された夢|詩

「暗号化された夢」

暗号化されたふたつの心を
明かりのない夢のなかで
ただ、ひたすら
朝まで書き続けていた

孞追、
うまく並ばない文字
透明が強すぎて歪んだ時空

胸に突き刺した筆が
ゆっくりと漆黒に染まっていく
嗚呼、思い出した
確か僕は何よりも闇だった

恋を背に|詩

恋を背に|詩

「恋を背に」

白いツバメが鳴いた夜は
流れる風は少しだけ優しく
ひと知れず流した涙の分だけ
一人静と湖へと還りゆく

春を逐われた幼き雛は
移り香残して生きては行けぬ

さぁ 飛び立て
夢にまでみた桃源郷へ
ひとり逞しくその翼を信じて