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記事さま、ありがとうございます。

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記事を書いてくださったのはnoterさん。noterさんにもありがとうございます。 個人的になんども拝見したい記事さまたちです。
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#小説

連載小説『五月雨の彼女』(最終話)

連載小説『五月雨の彼女』(最終話)

「そうだ、これだけあんたに渡していくわ。慰謝料の足しにして」

 未知華が私の前に差し出したのは、ジュエリー店の小さな紙袋だった。

「え、何? すでに別れているなら、慰謝料を請求するつもりはないわ」

「いいから、黙って受け取ってよ」

 紙袋を強引に押し付けてくる未知華の手を、最初のうちは制していたが、決して引くことのない勢いに根負けした私は、ついにはそれを受け取ってしまう。

「も

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掌編「五月五日の擦り傷に誓う」

掌編「五月五日の擦り傷に誓う」

 君が初めて笑った日の事を、僕は一生忘れないよ。

「パパの馬鹿ぁー」
「ごめんって」
「あっち行けー」
「だからごめんって、今度は放さないから」
「嫌だぁもう帰るー」
「今来たばかりだよ」
「嫌だぁー、ママー」
 敷物の上で赤ん坊を抱いてこちらを見守るママに手を伸ばす君を見て、僕はすっかり弱り切ってしまった。

 僕ら夫婦に初めての子どもが誕生したのは四年前だった。産まれたての小さな男の子は、噂

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野手タウンで創作

野手タウンで創作

「5月16日は旅の日かぁ」石田圭はそうつぶやくと、眉間にしわを寄せてため息をつく。ところがそれを見て悲しそうに目に涙を浮かべながら自室に入ったのは、妻のベトナム人ホア。「なによ、旅の日って......」

 最近は567のこともあり、あまり外出をしていないホア。ただそれだけではない。出産の予定が6月と近く、それがより自由を阻害していたのだ。
 そのようなこともあり、自室でネットを徘徊することが増え

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私の人生、猫が足りないと気づいた夜だった。

私の人生、猫が足りないと気づいた夜だった。

昨日わたしには何が足りなかったのか。

心地いい風が窓からは吹いていて。

あの夏特有の街に漂う潮の香りも

しなくて、お隣りのお庭に咲いている

金木犀の香りが部屋のなかに漂っていた。

あんなに暑かった夏を生き抜いたじゃ

ないかって思いながらも。

達成感のようなものにあぶれている

気がしていて。

久しぶりにイライラしていた。

わたしはリアルでも怒らない方のように

お見受けしますって

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【nekogatary.】企画・物語まとめ

【nekogatary.】企画・物語まとめ

 こちらの記事はmonogatary.comで行われているコンテスト「モノコン2021・チーム戦」に応募している作品のまとめページとなっています。

 物語を順に記載し、読みやすくなっていますのでよろしければご活用ください。

【企画書】

【紹介動画】

【ネコモノガタリ(1)】

【猫はバズる:蜂賀 三月】

【ネコモノガタリ(2)】

【未来のために:いまい まり】

【ネコモノガタリ(3)

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カワセミカヌレ

カワセミカヌレ

オリーブの木。その傍に、お店の看板。看板の横に自転車を停め、学校鞄を提げ、歩き出す。

お店は、芝生の丘の上。入り口まで、白い砂利道が緩やかに曲がって続く。

芝生の緑、コンクリートの建物の明るい灰色。白い坂道。青い空。白い雲。その組み合わせに、つい頬がほころぶ。

ガラス扉の、流木の取手に手をかける。流木取手の上に手のひらぐらいの大きさで、お店の名前が、白文字で懐かしい字体で書いてある。

ベー

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【小説】踏み出したら「おはよう。」が聴こえる

【小説】踏み出したら「おはよう。」が聴こえる

「待って! 行かないで!」

 あの日、そう言っていたら、あなたは今も私の隣にいてくれたのかな?
 この桜の花びらが舞う駅までの道を、今も一緒に歩いていられたのかな?

 毎朝、同じ時間で目が覚める。
 無意識に手を伸ばしたテレビのリモコンは、なんのためらいもなく同じボタンを押した。聴こえてくるテーマソングも、聞こえてくる元気な声も、何も変わらない毎日の始まりを知らせてくれる。

 涙で目覚める毎

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夕雪さんに感謝を込めて💌(お手紙)

夕雪さんに感謝を込めて💌(お手紙)

先日、夕雪さんがkindle版の小説『メロトノーム』を読んでくださった後、それはそれは素敵な記事を書いてくださいました。

ご存じの方も多いと思いますが、夕雪さんは小説の出版をご経験されている方で、私も密かに憧れている方です。

夕雪さんの作品は、優しい世界観から物語へのラストへの流れが素晴らしく、泣かされてしまうんです。
(辛い涙というよりも、温かい涙です)

☆おすすめの作品! 小説投稿サイト

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小説|ふたばのクローバー

小説|ふたばのクローバー

 二本のクローバーに、子どもが生まれました。お母さんクローバーも、お父さんクローバーも、この子を必ず幸せにすると誓います。子どものクローバーには、他のクローバーとは違って、葉が二枚しかありませんでした。

 子どものクローバーは、何度も他のクローバーからいじめられました。二枚しか葉っぱがないからです。子どものクローバーは傷つき、悲しみました。「お母さんとお父さんは三つ葉なのに、どうして私だけ双葉な

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夢みる猫は、しっぽで笑う【起】

夢みる猫は、しっぽで笑う【起】

※この作品は、拝啓 あんこぼーろ様と闇夜のカラスとの共同四部作(※予定)
プロジェクト【起承転結】の【起】です。

闇夜のカラス→【起】&【転】担当
拝啓あんこぼーろ→【承】&【結】担当

 ブライトローズ。スカーレットレーキ。コバルトブルー。レモンイエロー。
 森の中の木々に生い茂る葉っぱは、色んな色と形をしている。レゴブロック、鉛筆や消しゴムや三角定規、リボンやボタン。カラフルで賑やかな木が

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夢見る猫は、しっぽで笑う。(承)

夢見る猫は、しっぽで笑う。(承)

この作品は、
イシノアサミさん(絵)
闇夜のカラスさん(小説)
拝啓あんこぼーろ(小説)
3人で創り出しているお話です。

第1話 起 はこちら↓

第2話 承

「ねぇねぇ、ねぇ、どこまで歩くの?」

「ったくもう、アンタねぇ、なんでもかんでも人任せじゃなくて自分で考えるってことができないわけ?」

「え、でもだってドリちゃん導き手だってさっき言ったじゃん。」

「だからって、ここのこと全部知っ

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夢みる猫は、しっぽで笑う【転】

夢みる猫は、しっぽで笑う【転】

※この作品は、拝啓 あんこぼーろ様と闇夜のカラスとの共同四部作(※予定)
プロジェクト【起承転結】の【転】です。

闇夜のカラス→【起】&【転】担当
拝啓あんこぼーろ→【承】&【結】担当

……ぶくぶくぼこ……ぶくぼここここ……

 駅前のホームセンターの入り口にある大きな水槽を覗き込むと、目の前を金色の小さな魚が泳ぎ過ぎる。ヒラヒラリと閃く魚達と、立ち昇る銀色の泡の向こう、水槽の水を透かして鮮

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夢見る猫は、しっぽで笑う。(結・前篇)

夢見る猫は、しっぽで笑う。(結・前篇)

ドラゴンは、ばさりばさりと羽を鳴らし、城の前に降り立った。城の石の扉は、冷たくて重そうで、電柱ぐらい高い。私とドリちゃんは、ドラゴンの背の上から、扉を見上げる。

ドラゴンは、背中の私達をちらりと見てから、顎を地面につけて、私達が降りやすいように階段みたいにしてくれた。私達が降りると、ぶりゅるると鼻息を吐く。ドリちゃんが、よおしよしよしよしよしよしって、喉のところを掻いてあげると、くしゃみをしそう

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夢見る猫は、しっぽで笑う。(結・後篇)

夢見る猫は、しっぽで笑う。(結・後篇)

この作品は、
絵 イシノアサミ
文 闇夜のカラス
文 あんこぼーろ
3人で作る作品の、完結篇です。

前のお話はこちらから。

「そんなことよりさぁ、菜花との同期率かなり下がってるみたいだけど大丈夫?ドリちゃん。」

私も、ドリちゃんも息をのんだ。
黒髪のその女の子は、私の顔で、私の声だったから。

「え…あの子って…私??」
私がドリちゃんに訊くと、ドリちゃんは頷いて話しだした。
「なるほど。さ

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