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私の人生、猫が足りないと気づいた夜だった。

昨日わたしには何が足りなかったのか。

心地いい風が窓からは吹いていて。

あの夏特有の街に漂う潮の香りも

しなくて、お隣りのお庭に咲いている

金木犀の香りが部屋のなかに漂っていた。

あんなに暑かった夏を生き抜いたじゃ

ないかって思いながらも。

達成感のようなものにあぶれている

気がしていて。

久しぶりにイライラしていた。

わたしはリアルでも怒らない方のように

お見受けしますってよく言われるけれど。

そんなこたあない。

くよくよもするけど怒りもある。

一緒に暮している母もすこしメンタルが

ちょっと変かなって思っていたら

なんかイライラするのよ、こんな気持ちいい

秋晴れなのにと言いながら。

気持ちが晴れないねみたいにぶつぶつ言い

あっていた。

なんで?

なんでやろ?

と、ふたりで顔を見合わせて笑った。

互いのイライラにはイラつかなかったから

ふたりの機嫌はフラットに保たれていて

そこには救われた。

そして、怒涛の如く生まれてくれない

言葉と闘いながらも夜を迎えた。

ことばとかもういらんわって思いながらも。

舌の根も乾かないうちにまたことばを

探しに行こうとしていた。

そして家事をすませた真夜中録画してあった、

あれをみた。

あれは、最近のわたしの推しドキュメンタリーだ。

(元は2017年の作品なのでご存知の方もいらっしゃると
思います)


この番組の副題は

「もの書く人のかたわらにはいつも猫がいた」

というもので。

作家の方が共に暮らしている猫ちゃんを

紹介する番組だ。

作家と猫は、ふたつでひとつみたいな

ものだから書籍ではよく読んでいたけれど。

動く映像ははじめてだった。

猫のドキュメンタリーなので

ネコメンタリーと名づけられてる。

このネーミングたまらん!

そして毎回、猫ちゃんとの出会いや

猫をモチーフにした物語のような

エッセイのような作品までもが番組の

中で楽しめる。

ちょっと贅沢感満載のプログラム。

昨日は、デビューの頃から大好きだった

吉田修一さんが登場されていた。

吉田修一さんの作品を読んでいると

じぶんの視点がすごく空の上にあって

鳥が飛んで空から下を観ているような

鳥瞰している風景の描き方が心地よくて

好きだ。

心地いい日々なんてほんとうはそんなに

ないはずなのに、主人公たちは、少しでも

日常をアレンジして、やるせない日々を

クリアしてゆこうとする。

吉田修一さんの視線がいつも遠い場所に

放たれているように思えるのに、いつも

リアルな足元も照らしてくれるところに

興味を抱いていたので、どんな猫ちゃん達と

暮しているのかとても知りたかった。

金太郎君と銀太郎君という猫たちと

暮していた。

ベンガルの金太郎君と

スコティッシュフォールドの銀太郎君。

そして銀太郎君は銀座から、金太郎君は

錦糸町からやってきたらしい。

吉田さんがふらっと散歩に出かける。

あれを見るのが好きなんですよって

彼がつぶやく。

カメラが、指さすあれの辺りを映すのだけれど

あれがさっぱりわからないでいると。

あの木っておっしゃって。

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目の前には池があって、大きな木が風に

そよいでいた。

あれを見るのが好きなんですよって

つぶやく。

そして自分にとっての金太郎君と

銀太郎君ってなんだろうっていう話の

時に、もういちどその木をみて、何かを

思いついたかのように、ほらあれといっしょ

ですねって笑う。

吉田修一さん好きです。

その横顔から覗く笑い方とか、流れている

時間のままにゆだねられるゆらりとした

雰囲気、ぜんぶ好きだ。

猫ちゃん達はその木に似てるらしい。

あれにね、(木のことらしい)お帰りとか
言ってほしいわけでも励ましてほしいわけ
でもなく、期待しない。

期待しない。

うんうんって思いながらわたしは

その映像に続く、書下ろしエッセイの言葉を

ローソンのレシートの裏にあわてて

書き留めた。

7年になるのに全くわからない。
ちゃんと幸せなのか。
わかったふりをするのはやめておこうと
思う。
お互いわかりあえなくて一生を共にする
なんてわかりあえるよりかっこいい。

大沢たかおの声で聞こえてくる

文章に耳を傾けながら、わたしは

心がざわざわとして、鳥肌もたったし

なんて風通しのいい文章なのだと

ほれぼれした。

そして、フローリングの床を縦横無尽に

走り回り、ソファの上で寝ころんだ彼の

胸の上で足もみする銀太郎君の切ない

ような幸せそうなウルウルした瞳を

みながら、かつて共に暮らした黒猫の

クロンを想い出し、あぁわたしにはずっと

猫がたりなかったのだと気づいた。

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そして何より好きな人の文章というのは

疲れた時の処方箋になることをあらためて

知ってうれしくなった夜だった。


しましまの 影をみつけて 目で追う猫は
育ったばかりの メレンゲみたいな 背中のままで


ぱくたそさんに素敵なお写真拝借しました。ありがとうございます!

新緑に輝く森林の葉の輝きのフリー素材         https://www.pakutaso.com/20210218043post-33275.html

埠頭から海を見る黒猫のフリー素材   https://www.pakutaso.com/20131040304post-3438.html







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