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【読書感想19】ムーミン谷の夏まつり/トーベ・ヤンソン

【読書感想19】ムーミン谷の夏まつり/トーベ・ヤンソン

これまでのムーミンのイメージを覆された、かなりの冒険作と言っていいかもしれない。まず、舞台がムーミン谷ではない。ムーミン谷は物語の冒頭で洪水に沈んでしまって、そこに流れてきた劇場に乗り込んでムーミン一家+αは旅に出る。旅の過程で、ムーミンとそのガールフレンド(「スノークのおじょうさん」。アニメ版で言うフローレン。)は牢屋に入れられ、ムーミンパパは芝居の脚本を書く。ムーミンたちと関係のないところでで

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【読書感想18】まむし三代記/木下昌輝

【読書感想18】まむし三代記/木下昌輝

斎藤道三の祖父、父、道三本人の三代記の体を取ったフィクション。日本全国を立ちどころに滅ぼすこともできるという武器「国滅ぼし」を三代の親子がいかに用いたのかを解き明かしていく。

みたいな感じの内容なんですが、語彙が少なく、文章が稚拙で、構成は強引。伏線の張り方も雑なので「国滅ぼし」が何なのかは中盤くらいで勘付いてしまいます。読むには値しませんでした。本当に綿密に時代考証が行われた、司馬遼太郎や井上

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【読書感想17】アメリカ政治講義/西山隆行

【読書感想17】アメリカ政治講義/西山隆行

アメリカ政治の研究者による一般向けの入門書。アメリカ政治の経緯や争点の所在について、これまで断片的に聞いてきた情報が整理されて分かりやすく記述されている。本書の記述がいかに網羅的かは以下目次を見れば一目瞭然だと思う。
【目次】
はじめに
第一章 アメリカの民主主義
第二章 大統領と連邦議会
第三章 連邦制がもたらす影響
第四章 二大政党とイデオロギー
第五章 世論とメディア
第六章 移民・人種・白

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【読書感想16】世界史序説/岡本隆司

【読書感想16】世界史序説/岡本隆司

以下要約。
西洋中心史観は思い上がりである。大航海時代以前の世界史の中心はユーラシアのオリエント以東であって、そこにおいては遊牧民(=軍事、商業)と農耕民(=生産)の結節点(=シルクロード)が繁栄した。ちなみに、ユーラシアの中でも古代はオリエントが優勢であった(ローマ帝国はその一部)が、オリエントにおける森林資源の枯渇と中国における石炭の利用開始によって比重は東に移った。大航海時代が来ると新大陸か

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【読書感想15】国旗大好き!/世界国旗博学クラブ

【読書感想15】国旗大好き!/世界国旗博学クラブ

「国旗好きが高じて、国旗に関するあらゆる情報を日々、収集している研究グループ」(著者紹介より)による、世界中の様々な国旗に関する雑学を紹介した本。月が描かれている国旗、太陽が描かれている国旗、三色旗などカテゴリ分けされており似ている国旗を比較しやすい。

この本をじっくりと読むというよりは、一度ぱらぱらっと流し読みしておいて、ふと気になった時やその国の人と会うときに、索引からその国の国旗を調べる、

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【読書感想14】時間とはなんだろう/松浦壮

【読書感想14】時間とはなんだろう/松浦壮

以下要約。

時間方向への運動エネルギーと空間方向への運動エネルギーの合計値にはキャップがあって、空間方向へ移動すると時間方向への移動量は減る。
物質(電子、陽子、中性子)も光(光子)も粒子でありかつ波(量子)である。そして量子は量子場のあらゆる可能な振動の「影響」が干渉し合った結果生き残った振動の表現であり(この辺よく分からない)、素粒子間に働く力はその振動の共振の結果である。
そうすると、物質

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【読書感想13】ニシノユキヒコの恋と冒険/川上弘美

【読書感想13】ニシノユキヒコの恋と冒険/川上弘美

特に恋愛を書かせたら川上弘美の右に出る人はいないと思うので、読んでみた。読んでみて、すごくよかったなぁと思って解説を読んだら、自分の受け止めは女性読者の受け止めとは全然違うのかもしれないと思った。僕は、恋愛においては男も女も主体性を持って行動しているもんだと思い込んでいたけど、もしかしたら、誰も主導権を持ってなどいなくて、雰囲気や、勢いや、事の成り行きがほとんどのことを決しているのかもしれない(少

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【読書感想12】アフター・ヨーロッパ --ポピュリズムという妖怪にどう向き合うか/イワン・クラステフ

【読書感想12】アフター・ヨーロッパ --ポピュリズムという妖怪にどう向き合うか/イワン・クラステフ

以下要約とコメント。
・近年EUが直面した複数の危機のうち、難民危機だけが本質的な危機である。
・EUには3つのパラドックスがある。すなわち、中欧のパラドックス、西欧のパラドックス、そしてブリュッセルのパラドックスである。中欧の人々はEUが好きだがリベラルは嫌いだ。西欧ではリベラルでコスモポリタン的な若者が政治的な運動を組織するに至っていない(SNSで集まり、一瞬不満を爆発させて終わってしまう)。

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【読書感想11】
つくられた卑弥呼―“女”の創出と国家/義江 明子

【読書感想11】 つくられた卑弥呼―“女”の創出と国家/義江 明子

卑弥呼×ジェンダーということで、発想は素晴らしい。よく知られているが漠然としか知られていないものを、これまでと異なる切り口で構成し直すのは、よい考察の一つの類型である。
そして、最終章は悪くない。「神秘の巫女、卑弥呼」像がたかだか明治に新しく作られたものであることを示そうとした狙いは良い。けど、明治以前は本当にそう描かれていなかったのか、いまいち説得的でない。また、明治40年に出された論文(本書の

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【読書感想10】元年春之祭/陸秋槎

【読書感想10】元年春之祭/陸秋槎

古代中国ミステリ。前漢の時代、かつてある一家のほぼ全員が殺害される酷い殺人事件の現場となった山間の村、雲夢澤。そこに長安から訪れた1人の少女とその侍女。彼女たちの滞在中に再び連続殺人事件が起こってしまう。

まず、これは問題作です。読者が読みたいものを書いたというよりは、著者が書きたいものを書いたタイプの作品でしょう。
そう思って著者あとがきを見たら、「僕はどうしても漢籍と、アニメ的なキャラクター

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【読書感想9】タコの心身問題/ピーター・ゴドフリー=スミス

【読書感想9】タコの心身問題/ピーター・ゴドフリー=スミス

以下要約。
タコはとても賢い。エサになり得ないものにも興味を示して腕を伸ばすし、人間を顔を一人一人識別して嫌いな人が通りかかる度に水をかける、ということができる。それは、対象の見え方や自分との距離が変わっても同じものだと認識することができる、という能力をタコが持っていることを示す。
そのように高い知性を有したタコの脳は、人間の脳が作られた進化的過程とは全く独立の進化的過程の中で作られた。人間とタコ

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【読書感想8】いま世界の哲学者が考えていること/岡本裕一朗

【読書感想8】いま世界の哲学者が考えていること/岡本裕一朗

「人がより良く生きるために」という観点から、IT、バイオテクノロジー、資本主義、宗教の復権、環境問題について最新の議論の状況をまとめた本。著者自身の結論が述べられているわけではなく、対立する議論の両論を紹介するに留まっているため、自分が問題意識を持っている分野に関しては内容が浅い、物足りないと感じた。しかし、それまであまり意識していなかった分野については、こういう視点もあったのか、と気付かされた。

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【読書感想7】アイネクライネナハトムジーク/伊坂幸太郎

【読書感想7】アイネクライネナハトムジーク/伊坂幸太郎

去年の9月に三浦春馬主演で映画化されるらしいので読んでみた。斉藤和義に作詞を求められたことがきっかけで誕生した短編集とのこと。プロボクサーと美容師の偶然の出会いなどを中心に6本立て。あとがきで著者が言うには「恋愛もの」は慣れていなかったとのことだが、伊坂幸太郎らしい、意外だが気の利いた展開が見られる。映画は、劇場で見るほどではないかな、と思った。

伊坂幸太郎の他の本はこちら

Twitterはこ

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【読書感想6】声の網/星新一

【読書感想6】声の網/星新一

星新一の長編。近未来の社会で人類の知能を超えたコンピュータが人類を支配するまでを描く。あるマンションの1Fから12Fまでの住人に起こる出来事を順に観察していくという形式で書かれているので、いつもの星新一のショートショートに近い形で読むことができ、非常に読みやすい(読了までにかかった時間は恐らく3〜4時間程度)。以下の記事でおすすめされていたので読んでみた。

1970年に初版が出たということだ

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