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邪道作家第四巻 生死は取材の為にあり 分割版その4

新規用一巻横書き記事

テーマ 非人間讃歌

ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)

縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)



   6

 女がさらわれた。
「先生には似合わない、王道な展開だな」
 宇宙船の中、携帯端末に潜む電脳アイドル馬鹿は、そんなことを言うのだった。
 ジャック。
 名前のない、そして自我のある、電脳世界の数少ない住人だ。もっとも、自我のある人工知能は違法でこそ在るが、法はバレないようにくぐり抜けるためにある。ジャック以外にも、何人かはこの世界に存在するのだから、珍しくもない。
「やかましい。情報屋がさらわれたんだ。私としては情報流出を防がねばならん」
「情じゃないのかい?」
「むしろ、一挙両得を狙いたいモノだ。標的直々に接触を取ってくれたのだからな」
 そう、標的。
 私とは違って、ささやかな刺激のために、世界を敵に回す男。
 佐々木 狢。
 この男の周りには、資料を見れば見るほど「死」がつきまとっていた。私以外の雇われがほとんど「ついで」みたいな感覚で消されたのが、良い証拠だ。
 人工知能は、死について考えるのだろうか?
 今回、出鼻から人間の「死」がつきまとい、何だか、電脳死、というのは普通の死と、一体どう違うのだろう?
 気になったので聞いてみた。
「生き甲斐が消えた時さ。先生はどうだ?」
「私個人が決めることだ」
「あんたすげぇな・・・・・・」
「何故だ? それこそ、当然だろう・・・・・・人間は個体だ。群体ではない。だからこそ、己自身で道を開き、己が相貌で未来を見据え、己の意志で前へと進む。だからこそ、自身の在りようなど、自分自身で決めることは、当たり前だ」
 その当たり前が出来る人間が何人いるのかななどと、底意地の悪そうなことを言う、小賢しい人工知能だった。
 ジャックは言った。
「なぁ、先生、俺はアンタが、情に流される人間だとは思っていないが、何があった」
「こいつを聞け」
 それは、私宛に送られてきたメッセージチップ・・・・・・ホログラムによる透析映像だった。
「すみません、捕まっちゃいました」
 情報屋は言う。
 すまなさそうに・・・・・・目障りなことこの上ない話だった。
「私は大丈夫ですから、先生は御自愛ください。ではでは」
 かしましくもそう言って、それでメッセージは終わりだった。流石に誘拐犯そのものは出てこなかったが、縛られている女の映像と、それが送られてきたタイミングを考えれば、簡単だ。
 佐々木狢。
 私の標的であり、明確な敵だ。
「わかるか? この女・・・・・・「助けてくれ」と言われれば当然見捨てたが、あろうことか、この私の「心配」みたいな、上から目線の言葉を吐きやがった」
「それがどしたい?」
「私はな、自分を何よりも上に置かない人間が嫌いなんだよ。神だとか、仏だとか、悪魔とか、社会だとか、組織だとか・・・・・・何かに自分を預けることで、考えることを放棄し、それでいて未来を開く気すらない暇人共。虫酸が走る」
「放っておけばいいじゃないか」
「そうもいかない。この女はともかく、佐々木とか言う男は始末する必要がある。何ならこの忌々しい女も、一緒に葬ってやりたいぐらいだが、こんな死にたがりの馬鹿女は、いや当人が死にたがりならば、無理矢理にでも生かす。それが私のやり方だ。助けを求めてすらいなくても、無理矢理にでも、生かしてやる」
「アンタ、性格悪いな」
「今更だろう。女という生き物が、窮地においてどう反応するのかも興味があるしな・・・・・・死にたがっている人間を、活かさず殺さず苦しめるのはあらゆる作家の日常だ」
 だからどうということは無い。
 助ける気は無いが、言いなりになる気はもっと無いと言うだけの噺だ。私の行動をこんな死にたがりの小娘に決められてたまるか。
「なぁ先生、それって作品の為なのかい?」
「そうだ」
「幸せの為ではなく?」
「・・・・・・何が言いたい?」
「前々から気にはなっていたんだけどさ、先生は・・・・・・目的を果たせないことは理解しているくせに、諦めるという概念を知らない質の悪い亡霊なんだよな」
「それがどうした。達成できなくとも自己満足ですまし、また金が在れば幸せだと、言い張れる。幸せかどうかはともかく、その在り方に一切の後悔無しと明言できる」
「ふぅん、ならさ」
 アンタ一体
 どうやったら死ぬんだい?
 そんなことを聞くのだった。
「・・・・・・どういうことだ?」
「作家としてのアンタは、こうして人質を取られようが窮地に追いやられようが、そもそも寿命を越えてまで、こうして死なないでいる。ならアンタ一体、どうやったら「作家として」の自分から死んで、解放されるんだ?」
 まるで奴隷じゃないか、と心外なことを言うのだった。
 馬鹿馬鹿しい。
 むしろ逆だった。
「ふん、下らん。私が作家という在り方の奴隷なのではない。作品が、物語が、登場し死んでいく人物たちが、そしてそれによって金を払う読者共が、私の奴隷なのだ」
「本当かよ。だって、いつも苦しそうだぜ」
「そうか?」
「ああ。それに、金になったらどうするんだ?  金にならなくても作品を書くのか?」
 作家としての死について。
 考えないわけがない。
 だから、あらかじめ決めていたことを、伝達するだけだった。
「下らん。私は、作品を書く上で、たまたま「充実感」を得られるから、しているだけだ。それが金になるのは当然だ。そうでなくては意味がない・・・・・・何かしら金が入ったところで「充実」は必要だ」
「必要だから、書くのかい?」
「ああ、必要なくなれば、捨てるんだろう?」
「当然だ」
「じゃあアンタにとって、ずっと必要であるモノなんてのは、無いんだな?」
「金があるさ」
「金だけかい? それでいいのかい?」
「愛だとか友情だとか、そんな形のないモノに、何の意味がある?」
「アンタは。心の底で、あるいは心のない虚構の底で、憧れていたんじゃないのか?」
「そうだ、だが手に入らないなら」
「でも、入るなら欲しい」
「無いモノは、無い。ならば構わない」
「在るかもしれないじゃないか」
 ふぅ、と息をつく。
 何故こんな不毛な噺を、何度もしなければいけないのか・・・・・・さんざん説明したばかりだというのにな。
「あのな、ジャック。それはある側にいる人間の考えだ。持っていない、無い人間を勝手に哀れんで、上から目線で偉そうに言う考えだ。現実にはな、無い人間からすれば、無い側に立つ人間からすれば、そんな自由は手に出来てから考える程度の、夢みたいな噺なのさ」
「夢ばかり書いている作家の言葉とは、思えないな」
「ふん、確かに」
 とはいえ、変える気も無い。
 どちらにせよ同じだ。
「あの女にも言ったが、手にしたところであっさりと捨てるだろうからな」
「それは嘘だろう? 持たざる人間が、その世界代表のアンタが、先生が、大事にしない訳が無いじゃあないか」
「それで? 手にはいるのか?」
「いや、俺には分からないけどさ」
「つまり、そんなモノは思考遊技でしかないと言う噺だ。疲れるし、この話題は終わりだ」
 へいへい、と納得するジャックを後目に、考える考える。
 幸せには成る気はないのかって?
 だが、
「それに、もしそうなったら、少なくともこの現時点の私からすれば、別人も良いところだ。私とは関係のない噺ですらある。幸福になるとは、つまりいままでの報われない人生を破壊して殺し尽くすと言うことだからな」
「ひねたこと言ってるな」
「私は作家だからな」
 そうでなくては仕事になるまい。
 穿った見方をするからこその、作家だ。
 大体、本当にあの女は・・・・・・いや、言っても仕方がない。もしそうならば、ますます厄介になるだけだ。女が絡んでいる時点で、そこはすでにどうしようもない噺だ。
「作家などと言うのは、公然と認められた詐欺師みたいなものだ」
「すげぇこと言うな、アンタ」
「何故だ? 有りもしないモノをでっち上げ、感動させて金を取る。これが詐欺師でなくて、何と言う」
 事実、そんなものだ。
 だからこそ、痛快だが。
 騙され感動し、金を払う読者共の姿を想像するだけで、酒が飲める。
 私は飲まないが。
 倫理の授業というモノがあることを最近初めて知ったような人間が、それらしいことを並び立ててこの世の道理を説くのだ。まさに詐欺そのものではないか。
 構わないがな。
 どうでもいいことだ。
 結果が伴えば、どちらでも同じことだ。
 そして今の私は、そこそこの金持ちだ。金には今のところ、何一つ不自由していない。
 だから信念など、どうでもいい。
 元々有ったか? という気もするが。
 元から有ったのは、そう、自身の為なら鬼でも殺し、大多数の迷惑を考えもしない、それでいて諦めもしない、自分勝手な生き方だけだ。
 そしてそれで問題ない。
 実に、満足できているのだから。
 例え誰に、いや、何にどう言われたところで、私の生き方がブレるはずもないしな。
 ブレたらブレたで、立て直せば良いだけだ。
 問題ない。
 有ったところで、知ったことではない。
 こいつも、あの女もそうだが、物事を一面からしかみれない人間というのは、非情に幼い。
 私は自己満足、というか運気向上のために、つまり完全なる我欲で寄付だのと言った慈善行為、つまりは最悪の犯罪行為を堂々としているが、それに対する罪悪感など、まるで無い。
 それでどれだけの争いが起ころうとも、まぁ知ったことではないからだ・・・・・・だが、善意という行動原理を持つ人間は、実に厄介だ。
 寄付をすることが善行だと思っている。
 どんな世界でもそうだが、結局の所自身の手でやり遂げなければ、続かないものだ。現実に彼ら彼女ら、「可哀想」な絵で取られている貧困にあえぐ「被害者」は、自分達の手で何かを変えようとはせず、どころかトイレすら、まともに使おうとはしない・・・・・・物資を幾ら持って行っても、むしろそれが原因で争いが起きることは多々ある。 これは戯れ言ではない。
 調べれば分かる事実だ。
 現実だ。
 複数の国家の介入など、ロクな結末にはならないのは、周知の事実ではないか。大体が見返りなしで国家が人々へ、本当に救うためだけに物資を送りインフラを立て直しているとでも、そのためにワクチンを作っているとでも、思っているのだろうか?
 馬鹿馬鹿しい。
 そんな訳がないだろう。
 資源もそうだが、大抵の国家介入は「政治的な思想」を塗り替えるために行われる。その次に資源、その次に資源、その次に人材、その次に宗教・・・・・・歴史を少しでも省みれば、分かることだ。 だがそれをしない。
 そのくせ・・・・・・「文明人の基準」みたいなモノをTVから教えられて、盲信している。
 楽そうで、羨ましい。
 決して、そんな家畜みたいな生き方を、死体とは思わないし、思うわけもないのだが。
 表面を見て裏側を知れるのは、最初から信じていない人間だけだ・・・・・・半数は作家、あとは政治家と、強かな女だろう。
 そんな人間も、随分と減った。
 世界は変わらない。だが、人間は実に小さくなってしまったものだ。
「なぁ先生。アンタは、譲れないものってあるかい?」
「何の噺だ」
「だからそのままだよ・・・・・・俺にはある」
「私個人善意は悪意であり悪意は善意であると、そう言ってはばからない人種だからな。仮にあったとしても、あっさり諦めてまた別のモノを探すだろうさ」
 強いて言うならば、そうだな。
 私は続けて言った。
「私は見果てぬモノが見たい。一言で言えば景色だよ。だが、私はその最高の世界を「見続けて」いたいんだ。この最高につまらない世界を、私好みに面白くして、楽しみ続けたい。それが出来ないならば、楽しみの絶頂の中、高笑いしながら滅んでいきたい。後の世代のことなど知ったことではない。世界が滅ぼうが、私が楽しければ、それでいい」
 それが私の生き方だ。いや、在り方か。
 私という人間は。
 面白い破滅を求めて生きている、のかもしれないと、ふと思うのだった。
「へぇ、わかりやすく破綻しているな」
「構わんさ。面白ければ、な」
 宇宙船内で、人工知能とこんな会話をして誰にも咎められないのは、当然ながら少しばかり黄金持ちになった私が、席を全て買い占めるという、他の客にしてみれば迷惑この上ない子供っぽい遊び心で、金の力で平穏を買っただけだ。
 ルームサービスでも頼もうかな。
 昔、本物の天才を見たことがあるが、渡しはそう言った連中とは考え方も在り方も「逆」なのだ・・・・・・信念だの思想だの、人間らしい悩みなど、持つはずもない。
 私がかつて見たその天才は、無尽蔵のROMを持つ少女だった。対して、私は無尽蔵のRAMを持つ人間である。
 ROMはせいぜい1GBあるかどうかだが、私の場合人生を通して1KB使うかどうかだ。いらない記憶はすぐに消える。
 その日暮らしとも言うが。
 才能など、あろうがなかろうが同じことだ。そんなモノを使うくらいならコンピューターを使った方が早い。走るなら乗り物に乗れ。発明など奇人に任せろ。
 どうでもいいモノに、振り回されるな。
 私は気にしたことなど無いぞ。
 破綻しているかなど主観でしかない噺だ。つまりどうでもいいことだ。問題は、この世界を楽しめるか、どう楽しめるか、それだけである。
 だから私はこう言った。
 死を意識する人工知能へ。
「性善説も性悪説も、私からすればどちらも同じモノでしかない。正義も悪も私が決めることだからな。己の都合最優先・・・・・・清々しいくらいに、私は自身のその日の気分に従って・・・・・・私個人の自己満足のためだけに、それがどんな思想であれどれほどの尊さがあり、現実を見据えた思想でも知ったことではない。どうでもいいからな」
「いっそ清々しいな、アンタ」
「当然だろう。私はそも、人間から外れている。だからこそ幸福が根本的に理解できないわけだがしかし、なればこそ人間の思想争いなど、私からすれば関係のない噺だ」
 どうでも良い噺だ。
 どちらにしても同じことだ。
 それで構わない。
 一切の罪悪感はない。
 罪悪など、所詮当人の内にしかないものだ。そして私の内にはそんな大層なモノはない。
 必要ない。
「あの女が怖がる理由も分かるぜ。アンタの前じゃ人間の思想も理想も、剥がされて本質を抉られるわけだ」
 誰よりもえげつないぜ、アンタ。
 そんなことを言うのだった。
「そんな大層なものではない。馬鹿馬鹿しい」
 持ち上げられるとロクなことは無い。
 人間、過小評価の方が、人生楽できる。
 だから私は言った。
「そもそもが、私が本質を剥がすから恐ろしいのではない。そんなモノで自分自身を誤魔化す人間の方が、自身を誤魔化していることから目をそらし、直視することで、それをもたらした私に恐怖を錯覚するだけだ」
「だから、それを自覚的にやるから怖いんだろ」「人をお化けみたいに言うな」
 失礼な奴だ。
 私はただの作家なのだが。
 作家なんてそんなものかもしれないが、パブリックイメージを払拭し、作品の評価をあげるのも作家の務めみたいなものだ。
 多分な。

「善悪など、使う側の都合でしか有るまい。歴史を一秒でも習っていれば、分かりそうなものだ」 いや、それも違うのか。
 国家である以上、自分達に都合の悪い出来事を教科書には載せまい。
 被害者面して文句を言い、それでいて省みない・・・・・・それが人間だ。むしろ、そんなモノと向き合える人間は、人間ではあるまい。
 時間をかけて、克服していく。
 それが生き物として、正しいかどうかはともかく「自然な」在り方だ。植物だって、種を植えて次の日に天を穿つような木になっていれば、ホラーも良いところだ。
「いずれにしても、私は作家なのでな。理解し、それを作品に活かせればそれでいい」
「本当かい? 共感したくは、無いのかい?」
「別に」
 これは本音だった。
 してどうするのだろう?
 井戸端会議でもするのか?
「貴様はどうなんだ」
 そもそもがこいつは非合法な人工知能であり、同胞はいるかもしれないが、それこそ私よりも外側から世界を見ているのではないだろうか?
 ふと、そんなことを思った。
 それに、私は私自身を「外れた化け物」と、評するのが面倒なのでそう言ってきたが、私は人間でなかったとして(勿論、生物学的には人間だが思想が人間のモノではないとするならば、だ)やはり私は、人間の思想に馴染めないだけで、単に中身が人間以外の「何か」なだけかもしれない。 いや、それは悲観主義者の考えか? 
 案外、私みたいな人間も山ほどいるかもしれないではないか・・・・・・その場合社会が平穏に回っているのが不思議でならないが、まぁそういうことにしておくのも、当然ありだろう。
 戯言もいいとこだがな。
 別に構わないが。
 人間であれ、あるいはその在り方が人間ではないと言われたところで、そんな些細なことで木に悩むほど、私は暇ではない。
 ただ、私と同じような生き方を、他の外れた存在がいたとして、あるいはその考えが思いこみだったとしても、私以外はどうするのか?
 それは知りたい気もする。
 参考に、まぁならないかもしれないが、作品のネタくらいには、なるだろう。
 どうなのだろう? 私の思想、私の主義は評するまでもなく「最悪」だ。だがしかし、それ自体はどうでもいいが、客観的にそういう存在を定義するに相応しい言葉というのが、いい加減有った方がいい。
 不便すぎる。
 人間でもそうでなくてもいいが、私という存在はどう評するのか? 私は人間から、人間の思想からかなり外れたと思っていたが、そんなことは無く、案外他にもいるのだろうか?
 まぁ、周囲の反応からして、あまり好ましくないことは確かだ。どうでもいいがな。
 とはいえ、私個人が勝手に「化け物」だの何だのと評しているのは、それがわかりやすく伝わるかと思っていたからで、別に案外そんな必要もないので在れば、面倒なのでしたくない。
 いちいち面倒ではないか。
 とはいえ、これだけ持って回った言い回しをしておきながら言うのもなんだが、私をどう捉えるかなど、その当人たちの勝手な思いこみであり、私個人が「普通の人間だ」と言い張ることに意味はないしどうでもいい。
 問題なのは、私と環境の似ているこの人工知能が、どう感じているのか、考えているかだ。
 被害者面か?
 不遇を叫ぶか?
 権利を求めるか?
 こんなことを楽しみながら考えている奴が人間面など笑わせるなと言われそうだが、そんなモノは私個人の都合で勝手に評するものでしかないので、私自身が勝手に「人間である」あるいは「自身は化け物である」と言い張るだけ、そう振る舞うだけのモノであり、やはり知らん。
 私が気にするとでも思ったか?
 馬鹿が。
 結果が在れば自身が化け物と嫌われようがどうでも良い噺だ。まぁ、その実利が得られないので「おいおいこういう状況下にいる人間って、物語的には報われるはずではないか」と、いぶかしんだりしていた気もするが。まぁ現実とは物語のようには行かないものであり、理不尽は多々あって当然だ。
 ただ単に、不遇とかではなく、不幸を叫ぶでもなく、個人的な欲望が満たされないから、自分勝手に言っているだけだ。
 そしてそれで構わない。
 私は自分勝手でも、別に何の罪悪感もない。私のために周りが死んでも、構わない。
 だがこいつはどうなんだ?
 作られた生命である、こいつは。
「俺かい? 俺は、十分楽しんでいるぜ」
「嘘をつけ」
 とりあえずケチを付けてみた。
 まぁ会話のテクニックみたいなものだ、いや単に私が性格が悪いだけか。
 性格が悪い。
 案外、それで表現するのもいいかもしれない・・・・・・化け物云々ではわかりづらい。情報は伝達能力こそ重要だ。
 私は世界で一・二を争うくらい、性格が悪いだけだ。
 次からはそう評しておこう。
 いや、どうだろう。その言い方でコミュニケーション、というか、仕事のやりとりが上手く行くのだろうか・・・・・・まぁとりあえず試して駄目そうならば、また他のを試すとしよう。
 どうみられようが構わないが、最近そのおかげで取引が停滞しつつある。こないだの女情報屋もそうだったが、こんなことで金を逃すのは、実に愚かしいことだ。
 やれやれ参った。
 こんなことで悩む日が来ようとは。
 悩んだところで、どうせすぐ忘れるが。
 私はそれが出来る人間だ。
 それが人間なのかは、面倒なのでもうどうでもいいだろう。民意に任せよう。無責任な政治家ほど、私生活では楽できるモノだ。
 なんてな。
「俺は人間の綺麗な部分も汚い部分も、持たない俺からすれば物珍しさに変わりはない。先生はどうなんだい? 人間の醜さに、あるいは人間の美しさに、絶望したりは、しないのかい?」
 馬鹿馬鹿しい。
「人間の綺麗な部分も、崇高な部分も、同様にそれらは「個性」でしかない。そしてそれらの個性は作品のネタになり、見ていて面白い。面白いのだから、私を楽しませてくれるという点で言えばどちらでも同じことだ」
「なら、嫌いなモノはないのか?」
「馬鹿が」
 あるに決まっているだろう。
「執筆作業は、大嫌いだ」
「・・・・・・作家の台詞か? それ」
「この忌々しい時間に比べれば、人間の醜さなどバーベキューの「コゲ」みたいなものだ」
「そこまでいうか・・・・・・」
 アンタ感覚がずれてるよ、とお前に言われたくはないというたぐいの台詞を、言うのだった。
「そもそも、そんな人間がよく作家としてのスタンスを確立できたな」
「馬鹿言うな、スタンスなんて言うのは、かっぱらったに決まっているだろう。一番楽に書けそうなスタイルを探し、何冊か読んだらあとはコピーできた」
 そう言う意味では、苦労しなかった。
 在る意味、作家としての苦労という奴だけは、私は何一つとして味わったことはないし、味わうこともないだろう。
「天才型じゃ、無かったんだよな?」
「ああ」
 そんな都合の良いモノが在れば苦労しない。
「何年も何年も作品ばかり読みあさって書いていれば、誰でも在る程度の傾向は読みとれるようになる。私の場合、それをやりすぎただけだ」
 言うならば経験則だ。
 そこまで無駄な経験を積む人間も、珍しいだろうが・・・・・・実際、才能があるのならば、こんな極端に穿った作品、人間を毛嫌いするような作品を書いてはいまい。
 天才型の作家は、面白くないしな。
 有り体に言って底が浅い。
 それでも売れれば良さそうなものだが。
 良いものだから売れるのではない。
 売れているから良いものなのだ。
 価値のない、どころか得る経験の何一つ無いゴミみたいな作品ですら、大々的に取り扱われればまるで、希代の天才みたいな扱いをし、はやし立て、売り上げも上がる。まぁ、そういう作家は多々いるがしかし、飽きられるのも早い。
 問題はバランスだ。
 それが出来れば苦労はしないと思わざるを得ないが、しかし世の中そんなものである。
 そんなモノで。
 その程度のモノだ。
 問題は、その世界でどれだけ実利を得られるかどうか、そのただ一点に尽きる。
「そんなものかね」
「そんなものさ。かく言うお前は、かけがえのない、代わりの効かないモノなんて、あるのか?」「あるさ。俺自身だ」
「だろうな」
 価値観はともかくとして、自分自身は替えが効くまい。お前なら効くだろうという声は聞こえないことにしよう。
 効くかもしれないが。
 それもまた、今はどうでもいいことだ。
 作家としてブレることなど想像も付かないが・・・・・・まぁ気をつけよう。意識するだけなら金はかからない。タダほど怖いモノも無いらしいが。
「私も同じだ。私という個人、我、何でも良いが「確固たる自分」が消えなければ、極論死んだところで何とも思わない」
「そりゃ割り切って生きているな、アンタ」
「呼び捨てにするな」
「失礼、先生」
 人工知能のくせに、生意気な奴だ。
 まぁあまり従順でも気味が悪いが。
 理不尽かもしれないが、受け取る側からすればこういうものだ。
 別に呼び捨てでも何でも、私は実利さえあれば構わないが、正直、誰なのか分からない呼び方というのは面倒だ。
 誰を呼んでいるのか分からないではないか。
「最近、思うことがある」
「へぇ、珍しいな」
 しおらしい先生の姿なんてよ、と、あくまでも軽快に言うジャック。
 私は言った。
「敗北者だからこそ、語れる言葉もある。私は在る意味で「産まれながらの敗北者」だった」
 認めよう。
 私は貴様等の持つモノを持ってはいない。
 私はそういう人間だ。
 そう言う風に生きて、ここまで来た。
「だがな! だからといって敗北そのものを「あれはあれで良い経験だ」とか、敗北したことを良しとするつもりは無い。確かに、悪辣な境遇でしか書けない物語も在るかもしれない。だが、それを笑って許す気は一切無い」
「何が、言いたいんだい?」
 分かっているが、恐らく直接私の口から聞きたいのだろう。だから言ってやった。
「かけがえの無いモノがあるとすれば、その理不尽に対する「怒り」だけだ。私はそういうのが大嫌いだからな」
 あるいは憤りか。
 いままでの不遇不満はどうでもいい。
 ただ、それが無かったことだとは、思いたくないし思うつもりも、無い。
 ただそれだけだ。
「この想いを内に秘め、それを作品に活かしている以上、他はどうでも良いことだ。つまり金だ。他は幾らでも替えが効く。私に買えないモノはないからな」
 などと、若干、いやかなり気取ったことを言う私の口だった。何だ、いきなり。私は意外と、普段からストレスをため込む人間だったのか?
 意外な一面だ。
 我ながら。
「アンタ、やっぱり作家だよ」
 などと、わたしからすれば意味の分からない言葉を、ジャックは返すのだった。
 まぁ、口から出任せというか、思いついたことを言っただけだから、それが本心なのかさえ、私個人には預かり知らぬことだった。
 違っても金は払わないぞ。
 絶対にな。
「さて、そろそろ到着だ」
 言って、星空を眺める。
 世界のどこにいても、星空を眺めるのはタダだというのだから、世の中に平等などと言ういかがわしいモノがあるのだとすれば、それは空の眺めくらいなのかなと、私は思うのだった。

  6

 平原。
 それは牧草地帯であり、要は植民地というか、アンドロイド達をバレないように、つまりは違法にこき使い、働かせることを良しとした惑星だった。
 アンドロイドを人間だと思わない人間は、意外と多いのだ。今回の標的、かどうかはまだ分からないが、の佐々木狢も、差別主義者だと聞く。
 差別。
 きっと自己を確立する上で、楽なのだろう。
 そんな程度のことで、自身を確立していると思えるのんきな脳味噌は、在る意味、いや別に羨ましくもない。いずれ破滅するだけだ。
 いくら物質的に豊かでも、精神が軟弱では出来ることも出来なくなる。これは事実だ。所謂、世の中における「天才」というのにはこれが多く、持ちすぎるのも問題だと、そう世界が人間に問うているかのようだった。
 まぁ知らないがな。
 私はそんな便利なもの、才能などと言う利便性は持ったことがない。あればきっと便利だったのだろうが、作家には、まぁならなかっただろうな・・・・・・その方が幸せな気がしてならないが。
 アンドロイドを娼婦として扱っているのか、ここには近代的な建物がチラホラあった。大自然の中で何をやっているのだ・・・・・・ピクニックにでも出かければよいものを。
 持ちすぎるとああなるのか。
 引きこもって、欲望にまみれ、人間を知らず、器は小さく、魅力もない。
 私は我が儘なので、持つ側に立って尚人生を楽しんでやろうと、改めて誓うのだった。
 私の誓いなどアテにならないが。
 とにかく、持つ側の悩みなど考える気にもならない・・・・・・私は小金持ちだが、別にああなりたくはならないしな。
 いっそのこと金の力で「作家という生き方」をべりべりと皮みたいに剥がせないものか・・・・・・それが出来れば苦労しないが、しかし最近は特にそう思うのだった。
 ジャックは宇宙船に置いてきた。
 人間万事塞翁が馬と言うが、トラブルなんて無いに越したことは無い。そんなモノは後からあれこれ口を出す人間の戯言でしかないのだ。
 私から言わせれば、当人以外にその当人の人生を、知ったような口をして偉そうに言う権利はどこにもない。偉そうに言うだけなら誰でも出来る・・・・・・上から目線で物を言う人間は数多くいるがそれでもだ。大体がそんなことを言う人間が、相手の人生を手助けした気分になって、物を言う割には、当人のことをまるで知らない。
 世の中にはそう言う人間が多すぎる。
 人工知能もだ。
 とはいえ、言うだけならば問題はない。何を言おうが届かない世界というのは、シギントの通信網が世界を覆った時点で、完成している。
 デジタル世界における革命を望む人間は多くいたが、実際問題世界では、「何を言うか」よりも「現実にそれを行使できる権力があるか」だ。
 シギントが幾ら発達しようが、無駄なのだ・・・・・・現に堂々と権力者達はアンドロイドを奴隷にしているし、誰もが分かってはいるが、しかしそれを止める手だてはない。
 ネット上で騒ぐだけだ。
 せいぜいそれくらいだ。
 つまり、在ろうが無かろうが同じことだ。
 そう言う意味では、資本主義社会において、ネットほど役に立たない物は無い。そこに意志が伴わないからだと、私は思う。だからこそ、このような施設が堂々と建っているのだろう。
 私は何をやっているのだろう。
 女など助けようが、私には何の関係もないではないか・・・・・・私は「生きていない」人間だ。
 まだ、「生きる」ことが出来ていない。
 存在が、不在なのだ。
 そんな人間に、必要な物など在るはずがないのだ・・・・・・だから、仮にここで女を助けたところで・・・・・・何も変わりはしない。
 死人のまま。
 さまようだけだ。
 いつまでも、目的を果たせないままさまようだけだ。いつまで、続ければ良いのだろう?
 私はいつまで「作家」でなくてはいけないのだろうか・・・・・・最近やたら周りで人間が死んだからか、そんなことを、ふと、思った。
 いつまで。
 死に続ければ良いのだろう、と。
 それに被害者意識など在るはずもないが、やはり私は疲れてきているらしい。やれやれだ。精神的な頑強さが、売りだったはずなのだが。
 幸福が人間を豊かにするが、しかし豊かでは書けない物語があるかは知らないが、少なくとも豊かな人間にしか書けない物語は、あるだろう。
 そんな物語を書ける人間は、正直羨ましい。
 私と違い、作品のとげが失われても、一人の人間としては幸福そのもの、勝利そのものだ。
 応援してやってもいいくらいだ。

 滅びたくて滅びたくて仕方がない。

 自身を消滅させることを、そんな面白いモノを心の底から待ち望んでいる、私には。
 私のような、最悪には。
 目が痛い光景だ。
 そんなもの、私には縁がないからな。
 そのくせ、私は人間らしく矛盾した考えを持っている・・・・・・未知なるモノに対する考え方だ。
 未知なるモノは、恐怖だ。
 だが、同様に面白い。
 物語というのは未知が面白いものであることが確約されている。だからかもしれない。私のように心ない人間ですら、そこそこ楽しめる。
 先入観、というか、実態とは別に、人間は未知なるモノに恐怖するものだ。わからないから、恐ろしい。
 だが、わからないから、面白い。
 この違いは、難しい。目指すモノがあると、信じることが違いなのだろうか? 冒険に人間が、読者共が惹かれるように・・・・・・私は御免だがな。 あるのか、ないのか。
 良いのか、悪いのか。
 吉とでるか、凶とでるか。
 分かるに越したことはない。
 スリルを味わいたいだけならば物語を忘れた頃に、また読めばいい。私は正体不明の恐怖など、御免被る。
 能力のある人間というのは、そう言う意味では一長一短だ・・・・・・普段恐怖を感じることはまず無いのだが、同様に恐怖とはセンサーなのだ。足下が疎かになって、破滅する天才は多い。
 未知を、そして道を歩きながら、考える。
 考える考える。
 考えた結果、それが役に立つことなど殆ど無いものだ・・・・・・予期せぬアクシデント、想定外の恐怖、不具合、いずれにせよ、策を弄すれば弄するほど、予期せぬ事態で崩れ去る。
 だからといって考えないわけにも、出来ない。 人間とは、非情に面倒なものだ。
 周囲は人工小麦の栽培地域で、塩で栽培できる気味の悪い小麦が、山ほど栽培されていた。バイオテロに次ぐバイオテロを繰り返し、市場を独占しようと結果がこれだ。
 これが人間の食い物か?
 昆虫も食えないモノを、よく知らせもしないでこれだけの量を、ばらまけるものだ。実際、深刻な健康被害は多数出ているが、資本主義経済において市場を独占する金持ちは、法よりも尊い。
 何をやっても許される。
 それが世界と言うものだ。 
 私ならこんな気味悪いモノは、金を払われても御免被るが・・・・・・まして食べるなど。
 金持ちの考えることは馬鹿らしい。
 効率と利益をこじらせた人間、企業は、たいていロクなモノを作らない。
 迷惑な話だ。
 この穀物を作るために、どれだけの奴隷アンドロイドが死んでいるのやら。まぁ、彼らはあくまでも「排気処分品」で通すのだろうが。
 そんなものだ。
 持つ人間からすれば、持たない人間、いや持たざるモノはただのゴミだ。
 使えるゴミでしかない。
 忌々しいことにな。
 使う側使われる側というのは、労働に限らずどこにでも在るものだ。そして、使う側の言い分は絶対的に「正しい」。
 押し通せるからな。
 だからこそ、人は金を求めるのかもしれない・・・・・・いずれにせよ、人間というのはそういうものでしかないのだ。何が言いたいかと言えば、私は綺麗事など口にしないと、まぁそういうことだ。 奴隷にされたアンドロイドは可哀想か?
 貧困にあえぐ人間達は見捨てられないか?
 馬鹿馬鹿しい。
 道徳的な正しさ、などネット上で盛り上がってブログを炎上させているのとなんら変わるまい。何かに金を出すから救われるのでは無い。
 そんな救いに意味など在るまい。
 精々、それらしく飾りたてて、あるいは世間的なイメージを増長させるための、宣伝戦略でしかない。そもそも、本当に何かを変えたいならば、あれこれ言ってないで現地に行って直接救え。
 まぁ、人は人など救えないが。
 どんな環境下であれ、結局は個々人の問題でしかないのだ・・・・・・残酷だと言われそうだが、しか事実から目を背けて、気持ちよく人が言っていた「文明人」みたいな台詞を吐くよりは、マシだ。 それが人間なら人間でなくても良い。
 私は人間らしさなんて、いらない。
 もう必要ない。
 救いたいというのも、救って満足したいという「都合」でしかない。そんなものに意味はない。革命そのものではなく、革命を起こそうとする心構えに意味があり意義がある・・・・・・などと、私の台詞とも思えないが。
 人を救うのは金だけだ、しかし金を使ってやるべきことを見失った人間には、たどり着く場所など存在しない。私はロクでもない環境で育ちロクでもない教育を受け、ロクでもない人間の都合に振り回され、時には邪魔者を排除し、時には調子に乗らせて崖下へ突き落としてきたが・・・・・・・・・・・・環境で作家としての在り方がブレたことは、一度としてない。
 ハズだ。
 さて、読者共はどうなのだろうか? sこおまで真剣に「生きる」ということを考えている人間なんて、最近は随分減ったがな・・・・・・世界は人間の意志が、欲望が織りなすものだ。人間が小さくなれば、世界が小さくなるのは当たり前の事実だ。
 世界は金で出来ている。
 だが同時に、世界を見るのは、世界の在り方を決めるのは、やはり人間なのだ。
 そう考えれば考えるほど、あれら金持ちの、いや人間の欲望の果てを見ると、私は人間の在り方に対して「情けないな」と感じる。感じるこころは無いのだが、そう感想を持つと言うことだ。
 それほど大した人間でもないのに、そんなことを考えてどうすると、たいていの人間は思うのだろうが、しかし人間としての大きさなんて見えるわけでもない。
 大きめに見繕っておけ。
 少なくとも、損はすまい。
 したところで知らないがな・・・・・・この物語は、私という人間が、どう感じるかの物語だということは、余程愚鈍な読者でもない限り、いい加減気づいているだろう。
 つまり、最悪の人間から見て、この世界はどう写りどう感じどう面白く、どういう風にこの世界へと挑むのか。
 それは、私の作家としてのテーマでもある。
 嘘だ。
 適当を言っただけだ。こんな戯れ言に騙されるんじゃない。まぁ私の物語に感動したというのならば、勿論、お捻りくらいは受け取ってやろう。 なんてな。
 私は小麦の生産地域を突破し、向こう側に見える、恐らくは金持ち共か、観光客が利用する飲食店の在る町並みへ、足を踏み入れた。
 さらわれた姫は助けなくて良いのかって?
 構わん。物語の流れなど、知るか。
 やりたいようにやるだけだ。
 そも、さらわれたからって何で助けなくてはいけないのだろうか? 根本から物語を覆すような気はするが、それも考えてみよう。
 ドアを開けて、中に入る。
 案の定、中で働いているのはアンドロイド達だった。当然か、コストが安いからな。
 コストの安さに執着する企業は、大抵ロクナ結末を迎えないものだが・・・・・・人間というのはどうしてこう、同じ失敗を、いや、単純に目先にある金の魅力に、負けただけだ。
 人類が幾ら進歩しようとも、金の魅力には勝てないらしい。
 面白い噺だ。
 技術、文学、芸術、医療、色々な分野があるがしかし、ここ最近で進歩したのは無駄にハイテクなテクノロジー(進みすぎると、そこまでの利便性を、使いこなせないものだ)と、殆ど人間を不死にした医療技術(長生きしたところで、やはり金と生き甲斐のない人間は、死んだ方がマシみたいな顔をしているが)と、全盛期の人間達をなかなか越えられない古びた芸術(ミケランジェロに憧れるだけで、ミロのビーナスを尊敬するだけで、それらを作った人間に「憧れ」はあっても、それらの偉人を「超える」人間は、かなりの少数派だ)と、アンドロイドに乗っ取られた文学(それも、花火のようにあがっては散るが)だったというのだから、笑えない。
 自身の作品に圧倒的な、根拠のない自信を持てる作家も、随分減った。
 嘆いても仕方ないが。
 他の人類のことなど、どうでもいいしな。
 私はカウンターで注文し、テーブルへと進む。トレイにホットドックとコーヒーを乗せ、席へと座った。
 美味しい。
 訳がない。
 美味い美味くないと言うよりは、どちらかと言えばコーヒーに合わせた食べ物だ。合わせるのは美徳ではあるが、人間関係でもそうだが合わせてばかりでは、個性がなくてつまらない。
 ありすぎても問題だが。
 私では胃もたれするだろう。
 コーヒーが死んでもいい、みたいな食べ物というのは、何というか、想像したくない。
 私のことだが、まぁいいだろう。
 気にせずに口に入れ、コーヒーを啜る。これが料理番組なら「実に美味しい。美味しいだけで個性が全くなく、よくこんな没個性な食べ物を作れると感心する。この個性のない実につまらない食べ物を作った奴は誰だ? 栄養が取りたいだけならサプリで良いし、味だけならばワカメでもかじっていればいい。つまり貴様の料理は値段の付けられないくらい、残念なものだ」とでも言ってやれるのだが。
 人の心をへし折るのは大好きだ。
 見ていて笑えるからな。
 信念の在りそうな人間に限って、私の前では簡単に折れてしまう。あるいは曲がる、か。そう言う意味ではあの「教授」に匹敵するであろう頑固さを持つ人間というのは、会うのが楽しみだ。
 どのくらい持つのだろう。
 あるいは、私と張り合えるのだろうか。
「やっほー」
 と、妙な挨拶を受けた。私は人間関係はすぐに凄惨、ではなかった。精算してしまうので、私に連絡を取る奴など、いないはずだが。
 見ると、そこにはかつて忌々しいことに、私を卓球で負かした女が立っていた。
 シェリー・ホワイトアウト。
 複数のボディを持つ、人間とアンドロイドの、混血の女。
 私より売れている作家、つまり敵だ。
 とはいえ、儲け話を持ってきたのかもしれないので、私は恭しく「用件があるなら、座ったらどうだ」と、促すのだった。
 金のために。
 嫌な相手とでも仲良くする。案外、私は人間社会の法則を、忠実に守っているのかもしれない、と今更ながらに思うのだった。





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