邪道作家第四巻 生死は取材の為にあり 分割版その3
新規用一巻横書き記事
テーマ 非人間讃歌
ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)
縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)
5
「人間的には強いですけど」
言って、ケーキをほおばる。
「結局、サムライ作家さんは、「自分のため」ですからねぇ。人間としての弱点を持っていないと言えば聞こえはいいですが、結局の所、「守るべきモノ」が無い、ただの迷子さんですよね」
情報屋。
情報屋という生き方に、年齢制限は無い・・・・・・しかし、どうせなら節度のある相手が望ましい。 相手が女なら、尚更だ。
「親しみを持てる相手もいないってんですから、実質世界一寂しい人ですよね」
「大きなお世話だ。金になればそれでいい」
「それって、現実逃避ではなくて、ですか?」
「当然だろう。間抜けか、お前は」
私に人間らしい弱みを求めるな。
今お前が言った言葉だぞ。
自己満足であろうが、金にまみれた「愛」だとか「友情」といった「真実の幸福」ではないから偽物だとか、そんなことは、どうでもいい。
どうでも良さ過ぎる。
問題なのは、物理的にも、だが、つまり金銭面で不自由せず、それでいて「結果的に」私個人が、自己満足であろうが何であろうが、「幸福」という結果を、満喫できればそれでいい。
真実が何かなど、知るか。
私は、私個人がよければ世界が滅んでも構わない人種だ・・・・・・人並みのチープな感想を求められたところで、いい迷惑だ。
まったくな。
「はー。破綻してますねー」
「作家の条件だろう、何一つ不思議ではない」
ネタバレしてしまうと、だ。
私は、散々あれこれ言っておきながら「真実の幸福」だとか、どころか、「金による豊かさ」すらも、まったく、欲しては、いないのだ。
そも、幸福を望んでいない。
勿論、痛いのも苦しいのも、私はごめん被る・・・・・・とはいえ、それと幸福を求める姿勢は、あまり関係がない。
結局の所、私自身には手に入らない、入ったところで理解できない「愛」だとか「友情」だとか「心の幸福」だとか、そう言ったモノを、心の底から欲してすらいないのだ・・・・・・なら何故、金を求めるのかといえば、金すらも、結局の所欲しいから求めているわけではない。
ただ必要だから。
究極的には、無くても、ある程度ストレスの無い生活が出来れば、必要すらない。
初めから、終わっている。
無論、社会と折り合いをつかせることに、余念はは無い・・・・・・疲れるのは嫌だからな。
強いて言えば、人間の心が存在しないことを自覚しながら、それが罪悪かもしれないことを知りながら、まるで意に介さず、どころかどうでも良いと断じ、それでいて「手にはいるのなら」人並みの幸福とやらにも、手を伸ばそうと思い、手に入らなかったところで別に残念にすら思わず、「金があれば幸福だ」と、そういうこと、にして金を求め、そのくせ欲しいモノは何もなく、ただただ自分が苦労とか苦痛とかそういう「面倒なモノ」を避けて、つまり「楽をして生きる」という部分に焦点を合わせて、恥じること一切無く、いままで生きてきた。
世間的な都合など、知らん。
どうでもいい。
私自身が、いかに人間らしくない存在であるかも、この際はどうでもいいのだ。金があれば生活に不自由しない上、とりあえず「幸福」と、そういうことに出来るし、ストレスとも無縁になる。それでいて手にはいるのなら「人間の幸福みたいなもの」である「愛」だの「友情」だのを楽しみ・・・・・・いや、合ったところでやはり何も感じないのだろうが、しかし「幸福だなぁ」と、まぁそういう感想を持つにして、そういう人間の感傷は、非常に「便利」なものだ。
この世は所詮自己満足。
それは人の心とて同様だ。
皆、「尊いもの」があると、信じたいだけ。
そんな基準は、同じくその他大勢が決めるのだから、あまり意味は無さそうなものだが。
いずれにせよ、私は人間の失敗作として生きてきて、それを「自分はなんて不幸なんでしょう」と叫んだことは一度もない。必要ない。
心など、ない方が便利ではないか。
利便性。
私は、自分の意志で「感動」すら出来る。自身の感情、そして肉体的な反応、その全てを完全にコントロールできるのだ。
健康にいいらしいからな。
実際、便利なものだ。
「・・・・・・なん、というか、凄いんですね」
と、それらについて、当たり障り無い回答を、女はするのだった。情報屋のくせに、もう少し面白い反応が出来ないのか?
つまらない。
「それで、よく不満に思いませんね」
「思う必要がどこにある? 感動も、愛も、友情すらも、想像し、肉体的な反応をコントロールすれば、誰でも味わえる。これはそんな特別なことではない」
「そんな」
馬鹿な、とでも言おうとしたのだろう。
だが、皆やっていることだ。
「ゲームだとか、あるいは、物語など、まさにそうではないか」
「いや、でもだからって、おかしくありませんか? 愛情も友情も、どころか人生の楽しみ、感動まで全て」
偽物だなんて、と。
「構わん。「結果的に」それが手に入れば、そんなものはあってもなくても同じことだ。だからこそ、誤魔化しようのない金銭的な豊かさは、ある程度補充しておきたいのだがな」
「それも、本当は」
「ああ、必要ない・・・・・・無論不味い飯を食うよりも、金があって良いモノを食べられるに越したことは無いが、栄養さえ補給できて、あとはコーヒーでも楽しめれば、貧富の差すら、あってもなくても同じこと、だ」
事実そうだろう。
まぁ、美味いに越したことはないが。
だからこそ、金は必要だ。
他でもない、私自身の自己満足のためにな。
あれば、とりあえず人間関係のストレスに、苛つかされる覚えは無くなる。
金があれば、生存することは容易になるからな・・・・・・無論、使う人間次第だが。見栄や権威のために浪費する人間は、そんなあってもなくても究極的には同じモノに、騙されているだけだ。
金は、手段だ。
目的もない奴らには、持つだけ無駄だ。
どんな目的でもねつ造し、それでいて満足できて、妥協をし、それでも人生を楽しめる私には、最適の小道具というわけだ。余っていれば、それの使い道に苦慮しないというのもあるが、やはり根本的に私は人嫌いだから、自身の平穏のために不必要な、嘘くさい人間関係を追い出し、ストレスを感じないように生きる。
豊かさなど、まやかしであり、そんなモノはこの世界のどこにも、存在しないものだが・・・・・・豊かさみたいなもの、適度な豪勢さと平穏で、豊かさを手に入れたということ、にして、幸福とやらも、自己満足で完遂できる。
物理的に、金はどうしても、あればあるほどストレスを減らす為に必要なモノを、揃えることが出来る、と言ったところか・・・・・・心がない以上欲望が持てないため、金で何を買う訳でも、別にないのだが。
まぁ、金があれば幸福、と言い張ることにしよう。実に楽ではないか。
「自分を騙す幸福なんて、偽物ですよ」
と、そんなつれないことを言うのだった。
「そうなのか? しかし、結局は」
「でも、騙すんでしょう? どうせなら心の底から幸福になりたいのに、それから逃げているだけですよ」
「逃げている、か」
別にそれはそれで、構わないが。
私は戦う人間ではないのだ。
それらしい綺麗事を吐いて苦労するよりも、苦労したところで心ない私には、その良さなどわかり得ないことだし、ならば実利が欲しいと願うのは、ある意味当然のことだ。
「その、心の底からの幸福、というのがあったとして、あれば頂くさ」
「無い、と思っているんでしょう?」
「いや、あればあるで越したことはない・・・・・・大体が、その場合、どちらにしても私は幸福になれる。金が在れば生活に困ることは無いしな」
「在りすぎれば、争いしか呼びませんよ」
「なら適度に頂くまでだ。必要分以外は、ふん、それこそ寄付でもしてやるさ・・・・・・あの世が在るのかは知らないが、金を貸し付けておいて損はあるまい」
その回答を聞いて、脱力し、彼女は、
「はー。壊れてますねー」
と言った。
「下らん、壊れるかどうか、など客観的な物言いでしか在るまい。私は別にこれでいい。必要ならば、その「人並みの幸福」というものを、手にする機会があるというならば、私は家族を愛し、友人を尊び、人生を謳歌する」
「できるんですか?」
「とりあえず今は必要無さそうだが・・・・・・実際に手に入れば、出来るだろうな」
私はそういう人間だ。
そんな在り方を、最早人間と呼べるのかは、知らないし興味ないが。
「心がけは大事ですよ? いざというときに人を愛せるように、あなたは心得ておくべきだと、私は思いますね」
「そうか、まぁ、心がけておこう」
実際、手にしていない今の私からすれば、ただの妄言でしか無く、手にしていない以上、目に見てすらいない以上、そんな「人間愛もどき」を押し付けられる覚えは、無いのだが。
まぁ、臨機応変に生きよう。
金を手にし、愛を手にした私は、想像はついても現実には無理だろうと思わざるを得ないが、まぁどうでもいい。
その先、を一応考えておくことは、やはり考えていたところで上手く行く訳でもないのだ。あれこれ考えたところで、やはりもし私が真実の幸福とやらを手にするのならば、その際にまた、手を打たざるを得ないだろう。
だから、今はどうでも良い噺だ。
もしかしなくても、未来もそうである可能性が高いが・・・・・・可能性というのは、意味がない。私は未来が見えるわけでもないのだ。
心がけは一応するが、まぁとらわれる必要は無いだろう。
必要になれば、またそのとき考えよう。
「思うのですが、世の中金、という考え方から行くので在れば、お金持ちの女の人と結婚したいと思ったりしてますか?」
にやにやと卑猥な顔で、そんなことを情報屋は言うのだった。
しかし、的外れである。
私から言わせれば、自身の無能を晒しただけだ・・・・・・まぁ、聡くはあるが賢くは無い、とそれだけのことかもしれないが。
「人間である以上家族はいて、支え合って生きているんですよ? 自分は一人だ、とか自分みたいな人間は一人であるべきなんだ、とかカッコ付ける暇があったら、金云々より女の人のご機嫌の伺い方を知るべきですよ」
そう言うわけで、ここの支払いはお願いしますとのたまった。誰が払うか。
そしてやはり、筋違い、勘違いだ。
私がそんな、人間らしい悩みを、持つわけがないだろう。脳が間抜けか、この女は。
「まず、ぞうだな。第一の質問に答えよう。仮に金持ちの女がいたとして、そうだな・・・・・・お前、貧困に悩む地域の人間に対する支援を、どう思っている?」
「・・・・・・何ですか、急に」
「急ではない。同じだ」
「まぁ、大変そうだなぁと思います」
「それだけか?」
「だって、私は救世主でもなんでもありませんから・・・・・・そのくらいしか、できませんよ」
「ふん、まぁそうだろうな。それが正しい」
「結婚相手も、同じだと?」
「そんなことはしないだろうが、仮に金持ちの女がいたとしよう・・・・・・その女は金持ち故に、金を持っている。だが、それに意味は無い。価値はあるかもしれないが、意味はないんだよ」
意味より価値、実利を求める私からすれば皮肉でしかないが、事実である。事実に目を背けれるほど、余裕と余力のある人間ではないだけかもしれないが。
余裕のない大人。
嫌な噺だ。
「なぜですか? お金持ちの人と一緒なら、お金使い放題ですよ」
アホな女だなぁと、口には出さないことにした・・・・・・何事も、人の振り見て、という奴だ。私も気を付けよう。
うかつな発言という奴は、手に負えない。
「だから、何だ。裏切るかもしれないし、そいつが突然貧乏になるかもしれないし、第一その金はそいつのモノであって、そんな金は、人の通帳を眺めているのと変わるまい」
「いや、でも」
「確かに、そうそうそんなことは無いかもしれない・・・・・・だが、そんな不安定で、かつ人の、それもどうでも良い人間の意志で左右されてしまっては、元の木阿弥だろう」
だから、私は「運命」を「克服」したい。
なにがどう足掻いても「敗北」するのが私の宿命ならば、それを都合の良い形に改竄したい。運命が味方すれば、それこそ、世の成金共がそうであるように、なにをどう足掻いても、「成功」し「勝利」する。そうではないのか?
最も、それが出来れば苦労はしないが。
いずれにせよ、金を持つ人間は多くいるが、金が凄いのであって、当人は小さい奴が多い。
「価値があるのはあくまで「金」だ。金を持つから偉いのではない。金そのものが、「偉さみたいなもの」を購入する力を、持っているだけだ」
最も、それはまやかしも良いところだが、金が在れば、実利が伴えば物の真贋など、気にする人間は少ないだろう。
そして。
「家族だと? 確かにいるな。父も母も、あるいはあまりよく知らないが、親戚もいるのだろうさ・・・・・・私は面と向かって会話はしないし、誕生日すら知らないが・・・・・・」
「え?」
呆然とされた。私には普通だったのだが。
まぁ、どうでもいいが。
それも何万年昔の噺か、分かったものではないしな。流石に、もう存命していないだろう。
「えっと、家族、なんですよね?」
「お前、家族について、いやお前の考える「家族」というものは愛に溢れ、苦しいときに助けてくれる存在なのかもしれないが、しかし私にとっては死んだら保険がおり、その金を貰えれば上等くらいの、そんなものでしかない」
「えーと、何か嫌な思い出でもあったりします」「ふむ」
考える。
基本的に家族? に限らず、幼少の頃から罵声と暴力と、差別と偏見とまぁ色々あったが、しかし、そんなことはどうでもいいことだ。
金にならない。
私は虐められっ子だったので、良く泣いていたものだ・・・・・・まぁ、面倒になってきてからは「そうだ、原因の人間を殺せばいいんだ」と短絡的な行動に走り、体が成長してからは「効率的に」かつ、「恐怖を植え付け、逆らえないように」する方法を覚え始めていたから、在る意味、彼等が私を虐めていたおかげで、私は人間のいたぶり方を学んだ、と言えなくもない。
つまり私は被害者だ。
子供同士のやりとりに面倒になってつい、殺してしまおうと、いや実際頭をトマトケチャップにしかけたこともあったが、運良くそれらが実行はされなかった。どうでも良い人間を始末し、無駄な時間を送らなくてすんだ、とそういうことにしておこう。
何の話だったか。
「嫌な思い出か。ふん。私は忘れっぽいからな・・・・・・比喩でなく、そういうことがあったこと、は覚えてはいるが、過去に縛られるほどナイーブな性格をしていない」
苛々してついクラスメイトを殺しかけて、目立つのが面倒だから即座に猫を被り、殺そうとして(しかも、ただの勘違いだった)相手と、教師相手に嘘の報告をするような男が、「実は、昔に嫌な思い出があって、それでこんな性格になったのだ」などと、言うわけがあるまい。
それで金になるなら、同情でも何でも引くが・・・・・・いくら何でもあり得ないだろう。
馬鹿馬鹿しい。
「と、いうか関係ないのだ。仮に愛情溢れる素晴らしい人格者だったところで、私はそいつが死んでも、保険金のことくらいしか考えないだろう」 そう言う意味では、もっともらしい理由になるから、「人格者でない親」というのは、個人的には便利な肩書きでしか、なかった。
ないがしろにしても、文句を言われることも無い・・・・・・どころか、それをネタに、女を騙して同情を引き、金に出来そうなくらいだ。そんな頭の悪い女が、いればだが。
いたな。
本当のことを話さなければ良かった・・・・・・馬鹿だから同情して、ここのご飯代金くらいは、いや金は持っていないのだった。
使えない女だ。
「血の繋がった家族なのに、ですか?」
「だから何だ。育ててくれてありがとう。これでいいか? 何にせよ、「育てなのだから感謝しろ」というのは、思うのだが、それが家族愛だというならば、後から金を払えばそれでチャラということなのか? まぁ、私は金を払うつもりもないので、構わないが」
「他人、ということですか?」
「仕方在るまい。そうとしか感じ取れないし、感じ取るつもりもない。思うのだがな、自分達は愛と思いやりに溢れた存在だと、勘違いしながら生きるのは勝手だが、だからって人の考え方に「何か手助けされたら感謝は当たり前」だとか、押し付けるのは止めてもらいたいものだ」
「それは、そうですけど・・・・・・」
「おまえ達は愛と思いやりと、そんなものが私の人生にあったとは思えないが・・・・・・仮にあったとして、そのおかげで私が生きていられるとしよう・・・・・・知るか、馬鹿が。見返りを求めている時点で、やっていることは私と変わるまい。そうでなかったところで、感謝を強要される覚えもない」「なら、どうやって、生きていくつもりですか」「金だよ。親が死んでも、金が在れば人間は生きていけるだろう? 実際、親との愛情を尊ぶのは勝手だが、現実には親子など、たまたま金の繋がりで一緒にいるだけだ。年を取ってしまえば、自分を介護してもらうことを望み、成長すれば親がいなくても金が在れば問題ないことに誰もが気づいて生きている。だから、こうやって金を稼ぐ方法を普段から考えているわけだが、どうも、上手く行かなくて困っているのさ」
「・・・・・・そうですか」
「何だ、道徳的に良くないとか、親のおかげだとか、まだ言いたいことがあるのか?」
仮に、いや正しさなんてものが存在しない以上どちらが正しいってこともないのだが、別に私は間違っているかはあまり気にしない。
どうでもいいのだ。
ただ、私には必要ないし、金の方が役に立ち、家族は金が在れば「いらない」という「事実」から、目を背けて生きる気には、ならない。
なれない。
良心みたいなもの、の為に、私は自分を犠牲にするつもりは、全くない。
結果が全てだ。
「いいえ。ただ、確かに、一理ありますし、究極的には家族は、生きる上ではいらないでしょう」 でも、寂しくないですか?
そう、私に聞くのだった。
そして、私は自信を持ってこう言った。
「生まれたときから、そうだったが? 寂しいもなにも、ない。そも、血が繋がっているだけで、それこそ金にさえなれば、だが・・・・・・別に明日から変わったとしても、あるいは死んだとしても、私には「金があって助かる」という事実しか、存在しまい」
「そんな生き方で」
「そんな生き方、か。血が繋がっているだけで、愛情を強制するのも、相当なものだと思うがな・・・・・・そもそも私の親が私を産んだのは、社会的な体裁からであって、愛情ではあるまい」
「そんなこと」
「わからないわけがあるまい、とりあえず皆がやっているから産んではみたものの、育てるのが面倒になってきて、飽きてきて、放っておいた。そんなところだ。それそのものは、楽な生き方を求める人間である以上、なにも珍しくすらないが・・・・・・そんな適当な理由で行動している奴らに、あれこれ道理を説かれる気にも、ならないな。最もさっきも言ったが・・・・・・愛に溢れた人間であっても、私はやはり、早く死ねば保険金がおりる、位にしか思わないだろうが」
そういう意味では、私が破綻している人間であるのは生まれたときからそうだったのだから、そんなものを、私に求めることそのものが、筋違いも良いところだ。
ペンギンに空を飛ぶのは鳥なら当たり前、だと言っているようなものだ。
勝手なことを言うんじゃない。
一緒にするな。
大体が愛情というのは、家族というのはそんな押しつけがましい善意で、なるものでもあるまいに・・・・・・金を支払ったから、いままで育ててやったから、あるいは無防備な赤子の頃から手間暇かけて育ててやったから。
それだけならば、機械でも良さそうなものだ。 実際、アンドロイドの家政婦サービスは急増している。結局の所、子供は預けてショッピングを楽しむのが、主婦の務めらしかった。
その理屈で行けば金で雇われている状態と変わるまい。いや、やはりというか、彼等彼女らは自分達が如何に立派な人間か、それをアピールしたいだけなのだろうと、私は感じた。
事実として、そうなのだろう。
大体が、その理屈で行くと、多額の寄付をしている私は、貧困地帯の人間達の家族ではないか馬鹿馬鹿しい。一体幾ら払ったと思っているのだ。 水だけでもトン単位で寄付しているのだ。
とはいえ、仲良くはなりたくないし、偽善、というか、ゲン担ぎ程度の気持ちでやっているだけなのだから、そんなでかいことを言う気にはならなかったし、言ったところで誰も聞くまい。
心の繋がりが家族だと聞いていたが、案外私と同じかそれ以上に、人間という奴は心よりも金、愛情よりも社会的な立派さの方が、事実として大事になっているのだろう。
それはいい。
だが、それなら綺麗事は止めて欲しいものだ。 面倒だからな。
「何にせよ、私にはどうでもいいな」
「そうですか」
「お前が何に葛藤しているか知らないが・・・・・・そんな考え方は間違っていると思うのは勝手だが、人間らしさの押し売りは、止めてもらおうか」
「そうします」
しゅん、と落ち込みながらも、しっかりとスイーツには手を出すのだった。
「結局、何が言いたいんだ?」
用がないなら、帰れ。
そう強く思わざるを得まい。
「はぁ。そんな生き方で、いえ、やめます。おせっかいでしたね」
「そう言う奴に限って、道徳の押し売りが好きらしいがな」
「うう。そんなに睨まないでくださいよう。ただ気になっただけです」
「何がだ」
「あなたは、本当に幸せになりたいとは、思えません。いえ、勿論お金は欲しいのでしょうが・・・・・・本当に、心が欲しいですか?」
「いつも言っているだろう。入ればそれで良し。無論可能性は殆どゼロだが」
「本当に?」
「元から無いんだ。何より、私は心の無いまま進みすぎてしまっている。今更あっても邪魔なだけだ。神がいるとすればそいつの不始末で、私は人間の失敗作として生まれたのかもしれないが、今更どうでもいい。なら、金が在れば豊かで」
「もういいです」
本心からで、別に、何か裏側があるわけでは無かったのだが、恐らく、「この人はこんな生き方しかできないんだ可哀想に」とか、勝手に思っているのだろう。
鬱陶しい。
私は、十分現時点での非人間外道生活を十二分に満喫しているのだ。金銭的な豊かさが足りてはいないものの、哀れまれる覚えはない。
最も、いちいち怒ったりはしないが。
一生勘違いしたまま、善人ぶって生きるが良いさ・・・・・・私は人間として、生物としてどれだけ外れていて後ろ指を指されようが、意に介さない。 金と充実、生き甲斐と豊かさをもって、多少強引にでも構わない。「幸福」に「成ってみせる」その上で、心とやらを、金で買ってやろう。
それは愉快な想像だった。
私にしては珍しく、ワクワクするくらいには。 そもそも、私の家族は大昔に死んでいる。私としては長生きしてもらっても構わなかったが、酒と煙草と札束を何回かに分けて送ったところ、欲望を扱いきれずに、自滅したそうだ。
罪悪感など無い。
むしろ、私としては家族に喜んでもらうためにしたかもしれないのだから、被害者だ。などと、心にもないことを言ったりしてな。
いずれにしても、私は罪悪感など持ちはしないが・・・・・・人間に限らず、コミュニティーを道徳的に「無くては成らない」無ければ破綻していると思う馬鹿は多いが、それこそたまさか実利が噛み合うから一緒にいるだけで、家族も恋人も愛人も親友も仲間ですら、結局は「都合」という名前の欲望を満たすだけでしかない。下らないかは知らないが、欲望であることから目をそらし、愛だの何だのと綺麗事を言う人間は、絶えない。
子を産むに、育てさせるのに、あるいは世間体として、あるいは金が手にはいるから、生涯を共にして生きる。それが結婚だ。
打算でなくて何なのだ。
情欲と見栄を満たすため、恋人を作る。
情欲のはけ口として、愛人を作る。
連帯感を得るために、親友を作る。
目的に必要だから、仲間を作る。
自身にとって都合が良いから、あるいは、愛情を持って家族を得たい、と考える人間がいたとして、それは愛情を捧げて家族に尽くす、そんな未来が「欲しい」から人を愛するだけだ。
自身にとって都合の良い未来を欲するから、愛するのだ。それを愛と呼ぶのかは知らないが。
いずれにせよ、私は金さえあればどうでも良い噺だ。そして金はあるので、私としてはそんな人間関係や、人間らしい思想、人との繋がりを持ちそれに感謝するのが人間の正しい在り方だと、そう言うのは勝手だが、それなら金を払え。
五億から談義してやろう。
噺はそれからだ。
所謂、「持っている側の人間」の悩みなど、私には永遠に、理解は出来ても共感は出来まい。持つべきモノを持っているくせに、人間関係だの、罪悪感だの、ありもしないモノで悩む、暇人。
そんなものと一緒にするな。
情報屋は綺麗事を言うのを諦めたのか、資料をスッと取り出し、テーブルの上に置いた。
「これが標的です」
そういって、標的、始末の対象、というか殺害する人間のプロフィールを、女は見せるのだった・・・・・・とはいえ、作家など、皆人殺しのようなモノなので、今更罪悪感もないが。
人を変えること。
それは、人の意志を塗り替えて、その人間の人格を抹消する、とも言える行為だ。
明確な殺人行為だ。
まぁ、だから何だって噺だが・・・・・・私個人にとって都合の良い形に死んでくれるのならば、彼等も本望だろう。そうでなくても死んで貰うが。
私は、私自身のためならば、別に何人死のうがどれだけ憎悪と悲しみが吹き荒れようが構わない・・・・・・どうでもいいしな。
それを、世間的な「道徳みたいなモノ」に従って・・・・・・善人ぶって排斥する小物よりは、人生を楽しめるからな。
落ち着いて、まずはコーヒーを口に含んで、それからリラックスし、一息ついた。
焦るとロクなことがない。
慎重に、資料に目を通しながら、話を伺うことにしよう。
と、その前に。
間違いを正しておいてやるとしよう。
正す、なんて最も私に似つかわしくない言葉だが、しかし、いちいち訂正するのは面倒である。 仕方在るまい。
「それと、言っておくが、私はお前達の言うところの「愛」だとか「大切なもの」だとか「本物」だとか、何にせよ、人が望むモノはおよそ、欲しいとは全く思わない」
「?・・・・・・どういうことですか」
「どうも何も、そのままだ。お前は私のことを、心の底では「愛」だとか、「金で買えない幸福」だとか、あるいは、金で妥協しているだけの人間に見えているのかもしれないが、しかし、残念ながら、慧眼ではあるのだが、外れている」
「なら、何なんですか? 金が欲しいっていつも言ってますけど、それだって」
「ポーズだと? 違うな。そも金は必要であって金そのものは誰だって欲しくない」
現金はただの和紙だし、チップには大量の預金口座のデータが入っているわけであって、当然ながら食べても美味しくはない。
食べる奴も、まさかいないだろうが。
この目の前の馬鹿そうな女くらいだろう。
「金があるということは、自分の都合を通せると言うことだ。ストレスのない生活を求める私からすれば、当然あって欲しい、の損手当然のモノだと言える」
「じゃあ、人並みに生きたいと、思ったことは本当にないんですか?」
「無いな」
実際、無い。
そう言うモノが、「美しい、らしい」ということはわかるが、それに憧れるような人間ならば、こんな人間にはなっていまい。
恐らく、もし、「人並みの生活」に憧れるただのはぐれモノであれば、私は作家になど、成ってはいなかっただろう。
「あれば良い、というのも、実際怪しいものだしな・・・・・・人の不幸は密の味。実際、仮に私を心の底から愛する人間がいたとしよう。その人間と「家族ごっこ」をする事は容易い。だが、私はその人間の脳を、グチャリとつぶしたところで、「また別のを探そう」と、そう思うだろうな」
この女は私が「人間になりたい」と思い悩んでいる人間だと、そんなテンプレートな人間だと思っていたらしいが、そんな人間が面白い物語を書けるわけがないだろう、間抜けが。・・・・・・私が画策品はことごとくが「傑作中の傑作」だと自負している。反論は認めない。
強いて言えば、私が今悩んでいるのは「この女の名前何だったか」と、あとは「この噺を依然した気がするのだが、気のせいだろうか」と言った至極、個人的な悩みである。
また、私はめくっているだけで、あまり資料の内容を精査しているわけでもないので、というか噺ながらだと(言い訳かもしれないが)中身は入りにくいモノではないか。
とりあえず、この女に全部話させるとしよう。 厄介な仕事は、有能な人間に任せるに限る。
「うわ、引きますね」
「お前に食い下がられたところで、一円にもならないから、別にこちらとしては構わないぞ」
「お前じゃありません。蝸牛 くいなです」
変な名前だ。
口には出さないが。
「あー! あなた、忘れていたでしょう!」
何故覚えていて貰って当たり前なのか分からないが・・・・・・男は大抵の出来事は、酒を飲むか眠るかすれば忘れるのだ。記念日だとかを細かく神経質に覚えている女とは、そもそも遺伝子レベルで生物として違う。
というのはそれらしい言い訳で、単純に私に覚える気がないだけだが。
「馬鹿を言うな、当然、覚えているとも。蝸牛 くいな。懐かしい名前だ」
「そんなに長い間、離れてもいませんでしたが・・・・・・・・・・・・」
そうだったか。
どうでもいいことは、すぐ忘れる。
どうでもいい、と認識されると、女は酷く傷つくらしいが・・・・・・その辺にある草に、気を使う人間もいまい、つまりそういうことだ。
「私がいいたいのはだな」
そもそも言いたいことなど特にないのに、適当に自分が今後楽をするためだけに、話しているのでそんな言いたいことなど無いが、在る程度こちらの人間性を、伝えておくことにしよう。
「実はこうだった、とか、その種の期待を私にするなと言うことだ。自分で言うのも何だが、私は正真正銘の化け物だ」
だから何だって噺でもあるが。
人種ほど、どうでも良いモノはない。
金の量に、関係ないしな。
「実はこういう願いがある、だとか、本当は心優しい部分もあるんだ、などと思っているのは勝手だが、私は違う、と断言しておく。・・・・・・比喩や冗談でなくな。お前とは長いつきあいだが」
厳密には「らしい」だが。
まぁいいだろう、
どちらにしても同じことだ。
私には関係ない人間であり、どうでもいいことこの上ない、という点に関しては。
「私は、自分の決断に罪悪感を抱いたり、しないぞ・・・・・・金のためならば、お前が死んでも、何一つとして感想はない」
我ながら優しいものだ。
こんな親切な忠告を行っているのだから金を払って欲しいくらいだったが、でもまぁそもそもが私個人が今後を楽するために、噺をスムーズに進めるためにやっているのだから、あまり大きいことも言えない気もした。
「なので」
「はいはいわかってますよ、薄情ですもんね」
「・・・・・・信じようが信じまいが勝手だが、恨まれても迷惑なのでな。さて、そろそろ本題に入って貰おうか」
説明しろ、と私は催促するのだった。
説明の手間を省くために打算的に自身のパーソナリティーを説明し、それでいて自分があまり気を張って資料を読む気にならないから、説明までさせる。
しかし、このように言い方一つで、まるで違うものだ。
仕事において、舐められないのは必要なことだしな。舐められたところで拭けばいいが、しかし話が進みづらい。
とはいえ、事実でもある。
私は、この女、ええと、蝸牛くいなをこの場でバラバラにしても、何とも思わない。あるいは、それが自身を愛する人間だとしても、同じことだろう。
壊れている、とは思わない。
そんな卑下をして、自分に酔う人間でも無い。 ただ、食い違いは正しておかなければ、後から泣かれても面倒だ。情報には正確性が必要だ。
仮に家族だとか、人並みの幸福を手にしたところで、あっさりと「飽き」て、いらなくなったら捨てて、それでいて正気のまま、人生を楽しんでいけるのだろうことは、昔から知っている。
はずだ。
昔のことなど、忘れているからな・・・・・・まぁ人間性は変わるモノでもない。
いずれにせよ、人間を始末して、あるいは暗闇の中に放り込まれて、あるいは全人類から迫害され、嫌われたとしても、金が在れば、私は人間の不幸を笑いながら、優雅で豊かに生活するだろう・・・・・・在る意味、「人類」のくくりに入らないのだから、集団の中に入らないことへ不安を感じないのも、社会から迫害されても絶望しないのも、あるいは自身の存在が「生まれついて、存在を許されないほどの悪」なのではないかと認識しても平気の平左、いいから金をよこせと請求できるのは、当然のことだった。
迫害されてこうなったのではない。
化け物だから迫害されるのだ。昔は、それこそ幼少時代は何だか知らないがよく絡まれるなぁくらいにしか思わなかったが、よくよく考えればこんな非人間がクラスにいたら、恐ろしいのは当然の気もした。
しかも、それを悲観すらしないのだ。
しないし、真似て、人間らしく振る舞ってみようとしても、出来ない。
金にさえなれば、個人的にはどうでも良かったので、別に構わなかったが。・・・・・・あまり化け物であることで金になっていない以上、正直、下らない被害者意識ではなく、「割に合わない」というのが素直な感想だった。
普通、物語的には何か、秀でたモノがあったり仲間に恵まれたりするモノだが・・・・・・神がいたとして、私に対して「手抜き」をしたのは確かだと意わざるを得まい。まぁ、糾弾したところで、上に立つものと言うのは基本、責任など取りはしないものだが。
それに私の勘違いの可能性もある。
案外、少しばかり人間性が薄いだけで、案外あっさり家庭を持ち、幸せになるかもしれないではないか・・・・・・そういうことにしておこう。
「まず、一枚目を見てください」
噺を聞き逃すところだった。見ると、そこには標的のプロフィールが載っていた。
佐々木 狢
ささき むじな
年齢 38
男
銀河連邦御用達大手商社へ勤務。刺激を求める人間で、彼の周囲では必要以上に人間同士の争いが発生している。これは人為的なモノである可能性が高く、自身が「生きている実感」を掴むために周囲を犠牲にするサイコパスである、という診断が下されている。ただし、この診断結果は情報を多角的に収集した結果であり、表向きは実に優秀な社会人として、信用されている。
「これを見て、どう思いますか?」
「どうもこうも」
まだ一枚しか見ていないぞ。
勝手に二枚目、三枚目を見ると、どうやらあちこちの紛争地帯、あるいはデモの誘発、革命運動に対する遠隔型アンドロイド、それも「企業」ならではの軍用モデルの横流し。
まるで鏡だ。
「ささやかなストレスすら許さない平穏なる生活」を求める私に対して、この男は「どれだけの血と涙も意に介さない適度な刺激ある生活」を求めている。
だから、あんな中途半端な攻撃だったのか。
刺激合る生活のため。
そのために人を殺す。
罪悪感は無い。
やれやれ参った。私としては、そんな面倒な相手は、御免被りたいのだが。
「まるで鏡だ」
「ですね。この男はあなたと同じで、人間を全く意に介さず、それでいて人間を理解しすぎるくらい理解し、暇つぶし感覚で世を乱す、存在そのものが人間の手に余る、化け物です」
羽は生えていなさそうだが。
精神的にどうだかは知らないが、いくら何でも大袈裟すぎる。
「大袈裟だな」
「あなたは、そうでしょうね。でも、私たちからすれば、あなた達は、正直、怖い」
「ふぅん」
怖がられたところで、って気もするが。
とはいえ、話が進まないのは困るので、「それで」と、噺を促してやることにした。
我ながら優しいものだ。
機嫌が悪ければ、つい、この女の精神的矛盾を頼まれてもいないのに暴き出し、精神崩壊へ誘導して、仕事はもういいやと適当に切り上げているところだ。
金がなければ大抵、機嫌は悪いが。
金が在れば、大抵機嫌は良い。
まぁ、今回に関して言えばたまたま眠気と戦っているだけなのだが・・・・・・心が広い人間のフリでもしておこう。小物に見られても困るしな。
そういえば、だ。
私は非人間であることを歌ってきたが、そう言う意味では私は、色恋と言うものですら、本質的には理解する日は永遠にない。理解は出来るが共感は出来まい・・・・・・要約すれば、金目当てか生活を補助してくれる人間目当て、そうでなくても子孫繁栄を望むのなら、代理母で十分なのではないかと、考えてしまう。
必要性だけで言えば、皆無だ。
金や体、あるいは自身の生活の足し、そして心の底から好きだとしても、それは自身にとって都合の良い存在を求めているに過ぎない噺だ。
愛は愛で、自身の「誰かを愛したい」という欲望を満たすために、行うだけだ。
いずれにせよ、女がいい匂いがするとか良く聞くが、それなら芳香剤でも嗅いでいろという噺だと、つまりそういうことだ。
性別が雌である。
私からすれば性別も、人種も、肩書きも、全てどうでも良いものでしかない。そんなどうでもいいことよりも、私はほんの売り上げの方が大事だからな。
女、蝸牛は言った。
「あなたのような、その、外れている人間というのは、常識が通じないから怖いんですよ」
申し訳なさそうに。
そう言うのだった。
すまなさそうにされても、困るが。
「常識だと? 下らん。そんなモノは、結局の所自身にとって都合の良い情報の倉庫でしかない・・・・・・私に脅威を覚えるのは、それは心にやましいことがあるからだろう。私は人間の心の奥、知られたくもない情報にだけは手が届く。自己矛盾から逃げている人間だから、私がそう見える」
自分の心の闇を写す、鏡みたいなものだ。
私の場合、普通の鏡と違うのは、頼まれもしないのに無理矢理見せるところだろう。
大体が常識が通じないと言うが、人間なんて自分勝手な「常識」しか持たないのだから、同じではないか・・・・・・自分の都合を押し付けあい、それでいて権力や暴力、つまり金の力で押し通し、それを心の底から「正義」だと、思いこむ。
私からすれば、その方が恐ろしい。
だから金が欲しいのだ。
下らない馬鹿共の「都合」に、人生を左右されるのは御免だからな・・・・・・いつだかの奴隷惑星の主は自覚的な悪党だったが、大抵の企業、いや人の上に立つ、そういう立場だ、と思いこんでいるだけの人間は、大抵自分の都合でしかないことを「世の中全体の総意」として勝手に解釈し、それを押し付けることに一切の抵抗がない。
それを正しいと信じている。
盲信、している。
狂っていることに無自覚だ。
理不尽を恐れるならば、そういう「大儀みたいなモノ」で、都合を押し付けられ、自身の人生を「大儀みたいなモノ」の為に、生け贄にされる。 それこそが恐怖ではないのか。
「ふん。怖がるのは勝手だが、そんなお前達の心の動きに、私が謝罪する覚えもないな」
あってもしないが。
言うまでもなくな。
嘘つきのハイエンドは「自分を騙すこと」だそうだが、私から言わせれば、自分を騙すことほど容易いことは存在しない。
どうとでも成るではないか。
要は自己中心的な考えで在れば、そんなことは簡単だ・・・・・・自分を騙すことは呼吸よりも容易いことだ。
さて、そこに乗っ取って行くならば、私は「人並みに幸福になれる」と、在る意味騙しているともとれる・・・・・・無論、そんなわけがない。
構わないが。
ともすると騙す騙さないと言うよりは、どちらでも構わないと言うことかもしれない。いずれにせよ金を手に入れそれなりにストレスの無い充実した生活を送る、というのも心が無い以上、そんなモノを感じることは私には不可能なわけだが、まぁその辺りは適当に行こう。
ある、ということにしておこう。
私はそれで十二分に満足でき、それでいて高笑いしながら楽しめる人間だ。
狂っていようと構わない。
面白ければそれでいい。
そのくせ、上を見ろと言われれば下を向き、下を向けと言われれば上を向き、右なら左、やれと言われれば逆らい、やるなと止められれば嫌がる顔を楽しみながらやる。
それでいいではないか。
楽だしな。
在る意味、世界で一番楽な生き方だ・・・・・・そう言う意味では、いままで考えだにしなかったが、私という人間は人生に恵まれているのかもしれなかった。
問題は、物理的にも、つまり金にも恵まれるかどうかだが・・・・・・現実問題、いるモノはいるのだから、そして金が在れば幸福であるというポリシー(あったっけ?)を、曲げるつもりもさらさらないのだ。
面白いではないか。
その方が、面白い。
面白さは、愛にも、人間賛歌にも、友情にも、人間の望むそれらしい「幸福」よりも、勝る。
札束で「人間の幸福」を否定してやるのも、それはそれで面白そうだしな。
的外れ、見当違いな女だ。
全くな。
まぁ、普通なら「生まれてきたことが間違い」みたいな人間は思い悩んで当然、なのかもしれないが、それを押し付けられる覚えもない。
どうでもいい。
間違い、などそれこそ「都合」だろう。仮に、いやかなりの度合いで全面的に私の存在が、存在そのものが世界を、人間を脅かし、何よりも誰にも必要とされない「巨悪」で在る可能性も、残念ながら否めないが、だとしても、知らん。
まぁ、私には関係がないしな。
当人が何を言っているのだという気がしなくもないが、しかし、知るか。私自身がどれだけこの世界に必要とされない邪悪そのものだとしても、私個人はこの世界を楽しめるだけ楽しんで、金を手に出来るだけ手にし、豊かさを欲望のままに舐め啜り、あらゆる人間を犠牲にしても目的を達成して、その結果惑星が滅んでも罪悪感を持つどころかやり遂げた気持ちになって満足し、その行いが悪だとしても、開き直れる人間だ。
たとえ神も悪魔も人間も、あらゆる私以外の全てが私を非難しようが弾圧しようが認めまいが、金が在れば生活は出来る。
例え世界に否定されたところで、気に病む人間でもないしな・・・・・・金はあるのにそういうことに思い悩む人間は後を絶たない。暇そうで実に羨ましい噺だ。
そう言う意味では、愛などいらない。
必要と在れば考え、いらなくなったら捨てるものでしかないのだ。だから心など、人間の幸福など最初から望んではいない。
まさに「最悪の人間」だ。
知らないがな。とにかく、それでもとりあえず「金が在れば幸福」であり、「人間らしい幸福」も、手に入る、それが信念だ。
そういうことにしよう。
そういうことに出来る人間だ。
そしてそれで問題ない。
大体がその他大勢がそれらしい「人間の幸福」のテンプレートを「家族愛」だとかに絞っているだけであって、案外あっさり、人類を滅ぼすことでも人間は幸せになれることがあるかもしれないではないか。無かったところで、知らないが。
金が在れば、幸福だ。
実際、いい気分になれるだろうしな・・・・・・すぐに飽きるかもしれないが、まぁその時は金そのものではなく、金の使い道で遊べばいい。
金があることに飽きることは、理屈の上ではないことになる。何せ、金は手段でしかないからな・・・・・・いくらでも、買い直せばいい。
無論、それだけの金が在ればだが。
「まぁ、それについては、お前個人が心に問題を抱えているからと、言っておこうか。私は完全な鏡ではないが、心の闇、自分に対する誤魔化し、あるいは見られたくもない部分、を写すことにだけは、定評のある男だ」
「嫌な定評ですね」
「そうか?」
意味や価値、在り方と生き方つまりは私のような人間の背負う「宿業」と実利は、やはり別に考えるべきモノなのかもしれない。
だとすれば、我ながらこの女が評するように、「そんな在り方は恐ろしい」と、断じられるのも無理は無いという気がした。
本来、人間が目指すべきモノを、私は逆の順番で手にしている。実利を手にし、目標を構え、生き方を、在り方を構成していく凡俗とは違い、私は生まれたときから宿業を背負い、人生が終わる瞬間にでも考えるべき「魂の在り方」を、ずっと考え続け、「実利が欲しい」と、心ない人間が言うのだ。
確かに恐ろしい、かもしれない。
凡俗と言ったが、どうだろう・・・・・・優劣なんてどうでもいいが、しかし凡俗であった方が、人間的な成長は見込めないかもしれないが、人生をいきる上では楽だろう。
人間的な成長など、くだらない。
遙か高みから偉そうに、神様だか何だかが、上から目線で良くできましたと言うだけだ。
そもそも、私は成長しているのか?
している確信はあるが、そう言う意味では成長は実利とは関係がない。私個人からすればひたすら意味のない、無駄な行動かもしれない。
やれやれ、参った。
前に進んだは良いものの、肝心の実利は、人間の思想や、信念とは、関係がないらしい。
まぁ当然か。
人間の意志が、人間を成功に結びつけるなら、世の金持ちはもう少し上品だろう。どの時代でも「持つ側」に立つ人間は、どこか下品なものだ。 と、いうよりは、「余裕」とか「才能」とか「天運」とか、そういう「便利なモノ」を持つ人間が、成長するわけがないのだ。成長は必然の産物だ。しなくても楽できるのに、進化する生き物などどこにもいない。
必要があるまい。
さっき注文したので運ばれてきたカレーを口に運びつつ(脳が痛むくらいの奴だ)コーヒーを口に含み、コーヒーがもたらす精神的平穏だけが、この世界で不変だなと、感じ入るのだった。
破綻している私だからこそ、分かることもあるのだろう・・・・・・物語については、特に。
物語は夢を見せる。
いつだったか、アンドロイドの女にそんなことを言われた記憶があったが、なんというか、物語を見る、いや「魅せられる」ことで、人間はこの世界に素晴らしいモノがあるのだと、錯覚して夢だの希望だのを、夢見ることが出来る。
麻薬みたいなものだ。
ハイな気分に成るという点では、あまり変わらない・・・・・・それでいて、そういう「気分」に成るだけだ。成るだけで、現実に何一つ役に立つわけではあるまい。
そうだ、聞いてみよう。
人間に聞くのは、あるいは初めてか。
「なぁ、お前」
「蝸牛です」
「ふん、では蝸牛。聞きたいのだが、お前は、物語について、どう思う?」
「どうしました、また突然」
「そうでもないさ。作家なんて言うのはお前の言うとおり、破綻していなければ務まらないものだからな」
務まったから何だって気もするが。
「だから、興味があるんだ・・・・・・私みたいな人間を「恐ろしい」と評するお前が、どう、私のような人間が描く「物語」を捉えているのか、な」
「そんなこと」
「私に似ている人間が標的だというなら、今回の依頼をスムーズに進めるためにも、私の取材には答えた方が良いのではないか?」
「・・・・・・すぐ醒めるものです」
と、彼女は語り出した。しかし、どういう意味だろう?
すぐに醒める。
それは、夢のように、だろうか。
「読んでいるときは幸せになれるけど、終わった後は辛いですね・・・・・・「ああ、やっぱりあれは本の中の世界の噺で、現実には、そうでもないんだなぁ」って思います」
「そこまで分かっていて、何故読むんだ?」
作家の台詞とは思えないが、まぁいいだろう。 気になるのだ。
いくら心に響こうが、何の役にも立たないモノを、そんなガラクタを、人間が「愛する」理由を知っておきたい。
今後の参考になるしな。
「それは、簡単ですよ・・・・・・私の場合は、ですけど」
「構わん」
「ええと、まず、現実には世界って、つまらないじゃないですか」
また随分なことを言う、事実ではあるが。
反対のことを言って混ぜっ返そうかと思ったが、やめておこう。今日はさっさと終わらせてベッドで健やかに眠りたい。
「それで・・・・・・現実がつまらないから、ゲームやマンガ、あるいは物語を・・・・・・慰めの道具として便利だから、ということか?」
「いえ、確かにそうですけど、それだけでもなくて、私は、私たちは、人間は空を飛べません」
「うん?」
意味が分からない。いや、そうか。
疑似的な全能感を味わいたいのか、と思ったが違った。
「だからこそ、夢を見る。それが届か無いものだとしても、見果てぬ夢を見ることは、心の支えになりますから」
また心か。
私には理解しがたい噺だ。
まったくな。
「見果てぬ夢を見て、何になる? 見果てぬ夢は見果てぬ夢だ。叶わないものでしかない」
「きっと、だからこそ、じゃないでしょうか? 現実には夢は、醒めるものです。でも、夢を見続けられたら、それでいて夢に向かう気持ちを共感し続けられたら・・・・・・皆、それを求めているんじゃないでしょうか?」
成るほど、道理ではある。
麻薬と何が違うのか分からないが、健康的に充足感を保ちつつ、ぬるま湯の物語の世界で、安全にスリルを味わい、愉悦を楽しむ。
「それは、何の意味がある? 話を聞いている限りでは、麻薬をやっている患者と変わるまい」
「そんな」
「しかし、事実として「結果」は「同じ」だ」
小綺麗にまとめられたところで、私は誤魔化されはしない。つまりそう言うことではないか。
現実に叶わないから、妥協する。
それの、どこが、素晴らしい?
誰にでも出来る、諦めでしかない。
「・・・・・・元より、嘘八百を書き連ねる作家の物語に、尊さなど求めてはいないが・・・・・・価値も意味も、実利すら薄い、人間の作り上げた下らない宣伝工作用の小道具か」
と、そこまでだった。
さらに苛立ちを言語化し、あれこれケチを(誰につけるのか不明だが)付けようと思っていたのだが、出来なかった。
「そんなことありません!」
と、大声で怒鳴られてしまえば。
怒鳴ればいいってモノでもあるまいに。
「わ、私は色んな本から「勇気」を貰いましたっ・・・・・・それが偽物だなんて、許せません」
「その「勇気」とて、錯覚の思いこみだ。おまえ自身がそう言っただろう」
「ですが、この「想い」は本物です」
偽物だなんて、言わせません。
そう断言するのだった。
どうしようか。
面倒だから適当にうなずいて、それで良しとして、さっさと諦めるって方法もあるが・・・・・・こんな夢見がちな発言で、納得するわけにも行かないだろう。
「想いだと? それこそ、ありもしないモノではないか・・・・・・日が暮れれば忘れるものだ」
「忘れません」
意固地な奴だ。
これではまるで、私が聞き分けがないみたいだ・・・・・・その通りかもしれないが、しかし、そんな下らない理由で納得は出来なかった。
「想いは胸に秘めるものです。忘れたりなんか、しません。忘れそうになっても、また新しい物語が教えてくれます」
「そうか」
説き伏せる自身はあったが、不毛に終わりそうなので、結論だけ聞くことにした。
「では、その「想い」とやらは、いったい何の役に立つんだ? まさか、「想いを抱くことそれ自体が重要」なんて、下らないオチではないだろうな?」
「勿論です」
「では聞かせろ。お前は」
物語から、何を得たんだ?
彼女は、こう言った。
「人生の、楽しみを」
何とも曖昧で、聞くだけ無駄だったと思わなくもなかったが、案外、人生とは、生きて、そして終わりである「死」に向かうことは、「それ」を如何に気楽に行うか?
そんな程度の、至極単純な理由で、我々人間は明日へ向かって生きているのかもしれぬと、しみじみと思うのだった。
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例の記事通り「悪運」だけは天下一だ!! サポートした分、非人間の強さが手に入ると思っておけ!! 差別も迫害も孤立も生死も、全て瑣末な「些事」と知れ!!!