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宝物箱

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口下手なので、いつもコメントができないけれど みなさまの書かれる記事が大好きです。 だから、そっと 宝物箱に入れさせてください…*゜
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記事一覧

雨音響く17年

 皆が寝静まってから、スティックタイプのカフェラテを取り出す。さらさらとマグカップに入れ、そこに南部鉄器で沸かしたお湯を注ぎ込む。甘ったるい香りが鼻腔を撫でてゆく。窓の外は大雨。冷え性の冷たい指先が、少しずつ解けてゆく。

 あ。
 はたと気づいて数秒、私の体は停止した。36の私は、今年37になると気づいた。37。37は、あの人の数字だ。

ーー

 20の頃、37の男に焦がれていた。
 17も上

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私はまだ満点を知らない

私はまだ満点を知らない

なぜそんな話をする気になったのかは忘れてしまったけれど、あの時、お店の一番端の通路がよく見える席に座ったことはハッキリ覚えている。レジ上げを終えて報告に行った時、店長はシフト表を広げて翌週のメンバーを書き込んでいた。私に気づくと、来月は多めに入れないかなと言いながら席を立ち、店の奥へ消えていった。

短大の時、商業施設に入っているファミリーレストランでアルバイトをしていた。お世辞にも高いとは言えな

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にんじんの花

にんじんの花

去年からずっと窓辺でなんとなく育てていた人参が、日に日に大きくなって、ついに花を咲かせた。

切ってしまうのが寂しいなぁと思いながらの最後の一枚。

ドライフラワーにしてみたけど、やっぱり形状とサイズの問題で、普通にやるのでは綺麗にならなかったので、押し花と迷ったけど、瓶詰めにしてみる事に。

粉みたいで何だからわからないかな? と思ったけれど、意外と星の砂みたいな可愛さがある。

レジンをやる人

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ゴスを着ていた頃のはなし。

ゴスを着ていた頃のはなし。

今日はまたゴス時代の思い出話を。

バンギャ達が集まってなにをしていたのか、あまり知らない人も多いと思う。

けど、たぶんしていた事そのものは普通の人と変わらない。ちょっとファッションが派手だっただけで。

少し前に編集者さんが他界された時にも、とても懐かしさと寂しさを感じたけれど、当時はKERAの全盛期だった。

KERAショップも各所に出来たりしていて、大手のラバーソールが高くて買えない学生な

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小さな窓のある部屋

小さな窓のある部屋

この部屋にあるのは、
おんぼろな椅子と、体重をかけるたびに軋むうるさいベッド、そして、東側に突き出た小さな出窓が一つ。
それだけ。

日がな一日、
横になるか縦になるかしかない私は
日々その窓の四角の向こうが晴れたり曇ったり雨だったりするのをただただぼんやり眺めてた。

外に出たい、なんて思ったことはない。

だってお外は怖いところなのよってお婆さんが口酸っぱくして何度も何度も何度も言うのだもの。

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ワタシ

ワタシ

バラバラの体が
集まり始める

「部分の総和は全体とは異なる」
ゲシュタルトの老師がつぶやく

私の部分がそれぞれに
それぞれを必要としている

誰かに必要とされるのではなく
私がワタシを必要としている

統合された感覚で
これまでの歴史を俯瞰(ふかん)する

まとめようとしてるでしょ
心の声が聞こえる

大切なものが増えていくよ
失うことが怖くなるよ

でも、それが生きてるということでしょ
価値

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ラッピングペーパー

ラッピングペーパー

だだっ広い駐車場に停めた車内で、彼女の話を聴いている。いつも通り彼女が喋り、私はそれを聴いている。
くるくる回る表情。揺れるたおやかなブラウンヘア。エネルギッシュな口調は、十も離れた私の知らない景色を見せてくれる。か細く青白い私には、彼女の魅力の半分も無い。
なぜ彼女は、私を選んだのだろう。

後部座席に置かれたラッピングペーパーだって、彼女が選んだのはカラフルで賑やかなのに、私のは淡くぼやけた物

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ぼくのツトム君

ぼくのツトム君

今朝のNHK『あさイチ』で、むかし流行った童謡『山口さんちのツトム君』が話題になっていました。1976年『みんなのうた』で放送され、大ヒットした曲です。私はいまでも3番までばっちり歌えるほどこの歌が大好き。なつかしさのあまり当時の映像をネットで探しました。

見つかりました。

衝撃。

なんと、ツトム君のお友だちは、男の子じゃなく女の子だったのです!

うそやん・・・

だって、歌ってたの男の子

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ピクトさん愛に包まれる世界は、きっとやさしい

ピクトさん愛に包まれる世界は、きっとやさしい

前職(東京)での取引先のデザイナーSさんは、非常に個性的な人だった。
初めて会うときに事前に先輩から『癖の強い人だから、好き嫌いがハッキリ分かれると思うけど、あなたは多分、気が合いそう』と言われ、いったいどんな人なんだろうとドキドキした。

実際会ってみると、確かに癖の強い人だった。
非常に腰が低くて、もう、こんなに低姿勢の人は今後も現れないんじゃないかと感じるくらいに低くて。気遣いが過ぎて、こっ

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流れる今を切り取って特別にできるから、写真が好きだ。

流れる今を切り取って特別にできるから、写真が好きだ。

過去の蓄積が今。今の連続が未来。
似たような日々を送っていたとしても、明日の私から見たら、今日の私は過ぎ去ったものだ。いつか命を失う日がくる以上、どんな時もきっとかけがえのない時間なのだと思う。
でも正直なところ「この時は二度とないんだ!」などと、ギラギラ気合を入れていたら疲れてしまうよね。
だから、写真を撮っておくのが好き。

* * *

例えば、仲の良い人と会う時。
取りたてて何をするでもな

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出会いなおせるなら茶色っぽいふわふわで

出会いなおせるなら茶色っぽいふわふわで

黒っぽいより、茶色っぽいほうががいい。
まっすぐより、ふわっとしてる方がいい。

髪の毛の話だ。

私の髪は細くて茶色いクセっ毛。
10代のころ美容師さんに、あなたの髪は枕が擦れても枝毛になると言われたことがある。雨が降るとポソポソになるし、内側にクルンと巻いたはずの前髪は横を向いてベシャっとつぶれ、変なウェーブまでついてしまう。手ぐしOK の固めるスプレーなんてもちろんない時代だから、雨の日はか

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駅貼りのポスターなんてそうそう作れない

駅貼りのポスターなんてそうそう作れない

短大に通っている頃、地下鉄の乗換駅で1枚のポスターを見た。

私は考えごとをしながら電車を待っていて、ボーッと反対側のホームを眺めていたのだけど、線路の向こうの壁に貼ってあった大きな広告に気付いた瞬間、心をわしづかみにされた。

30年くらい前のことだから残念ながら詳しい内容は思い出せない。けれど、全面写真にキャッチコピーが1本というシンプルなデザインのポスターから目が離せなかったあの日、心が大き

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