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芸術一般

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芸術について、なんでも書きます。はじめはヨーロッパ絵画をかなり題材にしていましたが、現在は映画評論・芸術論・文学論などが多くなっています。
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#書評

<書評>『ラスコーの壁画』

<書評>『ラスコーの壁画』

『ラスコーの壁画 La Peinture Prehistorique Lascaux ou La Naissance de L’Art』 ジョルジュ・バタイユ Georges Bataille 出口裕弘訳 二見書房 1975年 原書はGeneve, Suisse 1955年

 原題を直訳すれば「芸術の誕生であるラスコーの原始絵画」。20世紀のフランスの哲学者であるジョルジュ・バタイユの名著の一つ

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<書評・芸術一般>『デュシャンの世界』芸術とは生きること

<書評・芸術一般>『デュシャンの世界』芸術とは生きること

 『デュシャンの世界 Entretiens avec Marcel Duchamp(フランス語原題を直訳すれば、「デュシャンとの談話」)』Marcel Duchamp マルセル・デュシャン、 Pierre Cabanne ピエール・カバンヌ、Pierre Belfond ピエール・ベルフォン 1967年 Paris パリ。日本語版は、岩佐鉄男及び小林康夫訳 朝日出版社1978年。

 20世紀最高

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<書評>『パウル・クレー 造形思考への道』

<書評>『パウル・クレー 造形思考への道』

 『パウル・クレー 造形思考への道』 ウェルネール・ハフトマン著 西田秀穂・元木幸一訳 美術出版社 1982年(原著は1957年)

 20世紀に登場した数々の前衛芸術家の中で、コンポジション(構成、造形)と称される抽象絵画を中心に活躍したクレーについての研究書。クレーはまた、まるで書家のような筆使いの、一種プリミティヴな作品も晩年に多く残している。

 本書はクレーの芸術家としての歴史を追ってい

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<書評>『錬金術 タロットと愚者の旅』

<書評>『錬金術 タロットと愚者の旅』

『錬金術 タロットと愚者の旅』 ルドルフ・ベルヌーリ著 種村季弘訳 青土社 1972年

 錬金術及びタロットについての研究書。訳者は、日本でこの分野の研究をしている第一人者で澁澤龍彦と並ぶ研究者。澁澤がフランス語なら、種村はドイツ語を基本にしていることが二人の相違になっているが、内容はかなり重複しているように思う。

 一方、錬金術という言葉や概念は、私が中学の歴史の教科書に書かれていた記述を未

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<書評>『裸体の森へ』

<書評>『裸体の森へ』

『裸体の森へ』伊藤俊治著 筑摩書房 1985年

 現代美術及び写真評論を主としている著者曰く、「二十世紀の裸体」というテーマで、「『ヌードとは我々が何者かであること―それも我々自身にすらまったくなじみのない何者かであること』を我々に気づかせてくれるものなのだ。本書はその何者かであることを探すひとつの試みである」として、1984年に各種雑誌に寄稿した論考を集めたもの。

 私にはナチスドイツの時代

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<書評・芸術一般>『Duchamp love and death, even(デュシャン 愛と死、さえも)』

<書評・芸術一般>『Duchamp love and death, even(デュシャン 愛と死、さえも)』

『Duchamp love and death, even(デュシャン 愛と死、さえも)』 Juan Antonio Ramirez ファン・アントニオ・ラミレス著 1998年 Reaktion Book Ltd. London 原著は1993年にスペイン語で発行され、1998年に英訳が発行された。

 20世紀を代表する芸術家マルセル・デュシャンの研究書。Henri Robert Marcel

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<書評・芸術一般>『Stanley Kubrick ,Director(スタンリー・キューブリック、映画監督)』Alexander Walker, Sybil Taylor, Ulrich Ruchti

<書評・芸術一般>『Stanley Kubrick ,Director(スタンリー・キューブリック、映画監督)』Alexander Walker, Sybil Taylor, Ulrich Ruchti

『Stanley Kubrick ,Director(スタンリー・キューブリック、映画監督)』Alexander Walker, Sybil Taylor, Ulrich Ruchti 共著
 W.W. Norton & Company, New York /London 1999 再版・拡大版

 私が個人的に最高の映画監督だと思っている、スタンリー・キューブリックの研究書で、1971年に「Pa

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<書評>『定本 種田山頭火句集』

<書評>『定本 種田山頭火句集』

『定本 種田山頭火句集』 彌生書房 1971(昭和46)年初版 (購入は、1980年頃か?)

俳人の種田山頭火の経歴等については、私はあまり詳しくないので、以下のウィキペディアを参照願います。

 私が、物質的(貧窮)にも精神的(自分自身が見えない)にも苦悩していた、19~20歳の頃、なにか「救い」を求めて、この山頭火の句集を買い求めたが、当然のことながら、そこには「救い」はなく、むしろさらに気

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<書評>『なぜベケットか』

<書評>『なぜベケットか』

『なぜベケットか』 イノック・ブレイター著 安達まみ訳 1990年白水社 原書は、1989年にロンドンのThames and Hudson社より出版。

 ベケットは1906年にダブリンのプロテスタントの上流階級に生まれ、1989年にパリで亡くなった、『ゴドーを待ちながら』で著名な劇作家・映像作家・小説家・詩人であり、1969年にノーベル文学賞を受賞したが、授賞式への出席やインタビューは断っている

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<書評>『イタリア・ルネサンスの文化』

<書評>『イタリア・ルネサンスの文化』

『イタリア・ルネサンスの文化』ヤーコブ・ブルクハルト著 柴田治三郎訳 中公文庫
原本は1860年、文庫は1974年。

1.普通の書評として

 著者は、歴史を勉強するものにとっては、いわずとしれた大家である。また、フリードリッヒ・ニーチェとも親交のあった学者で、19世紀末のキリスト教思想に対する批判精神を持っている。そうした雰囲気は、本書の対象であるイタリア・ルネサンスの文化の担い手であった、当

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<閑話休題>ゲーテ『ファウスト』の名セリフから

<閑話休題>ゲーテ『ファウスト』の名セリフから

 ゲーテ『ファウスト』は、小説ではなくてれっきした舞台を必要とする戯曲だが、そのセリフは抒情詩のような高雅な香りと、講談のような社会風刺に満ちた人生訓に満ちている。

 先日、終活の一環として、学生時代に読んで感動した手塚富雄訳(中公文庫)の『ファウスト』を、実家から自宅に持ってきたところ、ページの端を折っている箇所がたくさんあることを見つけた。それは、当時(21歳頃)の僕が感動した名セリフがある

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<芸術一般及び書評>『チャタレイ夫人の恋人』とD.H.ローレンス

<芸術一般及び書評>『チャタレイ夫人の恋人』とD.H.ローレンス

 昔、英文科の学生がD.H.ローレンスを「ド・エッチ・ロレンス」と呼んでいたごとく、D.H.ローレンスは、たんなるセンセーショナルな性を描いた作家と間違われている(ただし、21世紀に入ってからは、この作品に対する研究成果を反映した人文科学的見地から作成された映画が出ており、ローレンスに対する認識はようやく正常なものになってきた感がある)。

 もしローレンスが性的であるというなら、ローレンスの後に

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<書評>『ロバート・キャパ写真集』

<書評>『ロバート・キャパ写真集』

2017年 ICPロバート・キャパ・アーカイブ編 岩波文庫

 世界で歴史上初めて有名になった、報道写真家・戦争写真家ロバート・キャパ、本名エンドレ・フリードマンという、ユダヤ系ハンガリー人で後にアメリカ市民権を得た「キャパ」の写真集である。

 そこには、スペイン内戦、日中戦争、第二次世界大戦、戦後のヨーロッパやソ連の風景、イスラエル独立(第一次中東戦争)、ヘミングウェイ等の友人たち、戦後の日本

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<書評>『古寺巡礼』

<書評>『古寺巡礼』



『古寺巡礼』 和辻哲郎著 岩波文庫 1979年 初版は1919(大正8)年 1947(昭和22)年再版

 大正7(1918)年に,奈良の古寺と古仏を尋ねた時のエッセイだが,今読んでもまったく古びていない。ついこの間,奈良を周遊してきたようなイメージが湧いてくる。

 私にとって,京都・奈良の神社仏閣を人生で初めて見たのは,中学3年の修学旅行だった。東京駅から初めて新幹線に乗り,沿線から見える

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