1999 You Blue I

1999 You Blue I

記事一覧

鳥を掬う

いつだっただろう、受験のとき。受験なんて人生で二回しかしていないから、どちらかというと高校受験だろう。いや、定期テストかもしれない。 なにかしらのテストが始まる…

結
6日前
15

タオルが落ちていた

隣の部屋のベランダにわたしのタオルが落ちていた。 なぜ気づいたのか。後ろめたい気持ちを抱えつつそっと覗き込んだのだ。たくさん洗濯バサミがついているタイプのプラス…

結
3週間前
9

就活をめぐる冒険

渦に呑まれるようにはじまり、やがて没頭し、もう終わりにしてくれと願った就活。そこで得たいちばん大切なもののひとつは、街のちいさな古びたホテルからの一通のメッセー…

結
1か月前
44

紫陽花の咲く

紫陽花の咲く木を見て、これは紫陽花の木だったのだと知る。 紫陽花が好きだ。紫陽花は咲くのにたくさんの水を必要とするそうだが、それがわかるような、水性の色。じゅわ…

結
2か月前
15

昨日と今日の日記

🐻‍❄️ 地球儀にタブレットをかざすと、ホッキョクグマが表示された。「常同行動しない子ですね」。 ─常同行動ってなんですか。 ─動物園の熊が、一点でぐるぐるしたり…

結
2か月前
10

目覚めたのはどの朝だ

目覚めたのはどの朝だ 夜だったことなんて忘れてしまったような、けろりとした顔色の空。傘を持っておらず、小雨に濡れながら帰ったのは本当に数時間前のことか。すれ違う…

結
3か月前
25

あいうえお、の並び替え🎵

あいうえお、あいうえお、あいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえお ここから書くことは、あいうえお、と、なんら変…

結
3か月前
3

お疲れさまコンプレックス

いつからさようならとこんばんはを言わなくなったか。 お疲れさまですという言葉が苦手だ。 なぜ大人になると、便利な挨拶としてお疲れさまと言うのだろうか。 仕事終わり…

結
4か月前
6

レモンの木 給食のにおい

レモンの木 実家には祖父母が世話をしていた畑がある。今は母が面倒を見ていると思う。 10年以上前の四月か五月のある日。地元で毎年開かれる植木祭りで、祖母がレモンの…

結
4か月前
25

喫茶の唄

カフェに行く。下から本、本、手帳、けーたい、と重ねて、手帳を開き、本を開き、集中が切れたら次の本を開き、気づくとけーたいが一番下になっているのを見ると落ち着く。…

結
4か月前
13

当方極めてケチであるが、印象派展2024

絵の前に立つと、重く、静かだった。目の前の睡蓮を描いているようで、とても遠くのもののように感じた。この色が好きだったのだろうなあ、好きな色をたくさん使えてよかっ…

結
5か月前
1

ちゃんと恐れることと、PERFECT DAYSについて

一章が、一文が、一語が特別だった。 とびきり濃く苦いチョコレートをひとつぶ。 長田弘さんのエッセイ。 詩人として知られる長田弘さん。わたしの好きな詩は、『最初の質…

結
5か月前
17

本を読むために仕事を辞めたし、カフェに行くために上京した

言葉のスペシャリストみたいな人を社長にもつ会社で、フルタイムのアルバイトとして働いている。社内には当然、言葉やコンテンツと呼ばれるものに造詣が深い方ばかり。そこ…

結
5か月前
43

歯医者にて

歯を中心に回っていた。 ある朝、目が覚めると歯が痛かった。寝ているときの体勢によって体のどこかが痛くなるのはよくあることなので、放っておこうと思い出勤することに…

結
5か月前
20

だからなんだ

そんなことばかり。 🌞 太陽は言いました。 「地球はいいな。水があって、人間が暮らせて。 ぼくは熱すぎて、生き物は暮らせない」 太陽が地球を見ました。 太陽は知って…

結
6か月前
3

うつくしいものの話をしよう

うつくしいと感じる心がはずかしい。 うつくしいという言葉が簡単に浮かんで、発してしまう自分がはずかしい。 小さい頃は頭が良いことがはずかしかった。 名前を間違えて…

結
7か月前
9
鳥を掬う

鳥を掬う

いつだっただろう、受験のとき。受験なんて人生で二回しかしていないから、どちらかというと高校受験だろう。いや、定期テストかもしれない。
なにかしらのテストが始まる直前、勉強道具をしまう前に最後の悪あがきをする時間。そこで、わたしは秘密兵器として一つの漢字を覚えた。ごまんとあるなかで、その漢字がわたしに合図した。こいつ、ぜったい、出るぞ。この漢字を読めるかどうか、書けるかどうかが勝敗につながるだろう。

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タオルが落ちていた

タオルが落ちていた

隣の部屋のベランダにわたしのタオルが落ちていた。
なぜ気づいたのか。後ろめたい気持ちを抱えつつそっと覗き込んだのだ。たくさん洗濯バサミがついているタイプのプラスチックのハンガーには、タオルを二枚干せるクリップもついており、その挟み方が甘かったのか、隣の部屋のベランダの室外機の上に着地していた。手を伸ばせるような隙間はない。どうしよう。インターホンを鳴らして、タオルが飛んでいってしまったんですけど、

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就活をめぐる冒険

就活をめぐる冒険

渦に呑まれるようにはじまり、やがて没頭し、もう終わりにしてくれと願った就活。そこで得たいちばん大切なもののひとつは、街のちいさな古びたホテルからの一通のメッセージだった。

はじめに

こんにちは!
今日は就活を終えたわたしからこれからみなさんに、絶対にやっておいた方がいいことを五つ、紹介したいと思います〜!ぜひひとつでも実践してみてくださいね。
なんていうテンションで始まる文章では、もちろんない

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紫陽花の咲く

紫陽花の咲く

紫陽花の咲く木を見て、これは紫陽花の木だったのだと知る。
紫陽花が好きだ。紫陽花は咲くのにたくさんの水を必要とするそうだが、それがわかるような、水性の色。じゅわりと分厚い花びら。花の影が花火のように、葉に濃く落ちる。紫陽花が咲くのはちょうど雲の白さがつよまる頃で、そうだったそうだった、夏はこんな風に暑いのだと思い出す。
それはそうと、最近気づいたことがある。
春は桜、初夏はツツジ、梅雨は紫陽花、夏

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昨日と今日の日記

昨日と今日の日記

🐻‍❄️
地球儀にタブレットをかざすと、ホッキョクグマが表示された。「常同行動しない子ですね」。
─常同行動ってなんですか。
─動物園の熊が、一点でぐるぐるしたりしますよね、本来であれば北極みたいな、なにもない広いところにいたはずの子が動物園に連れてこられると、そういうことをするんです。言ってしまえば異常な状態ってことですよね。二世はなりにくいけど、連れてこられた子はなりやすいみたいです。サーカ

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目覚めたのはどの朝だ

目覚めたのはどの朝だ

目覚めたのはどの朝だ

夜だったことなんて忘れてしまったような、けろりとした顔色の空。傘を持っておらず、小雨に濡れながら帰ったのは本当に数時間前のことか。すれ違う人が傘を持っているとイライラし、横断しようとした車が止まって、なんなら少しバックして道を譲ってくれると、雨に打たれる可哀想な子として映っているのか悪くないなと、気分が良かった夜。
起きる直前は一瞬、ぐわんとした引力で眠りの最深部まで吸い込

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あいうえお、の並び替え🎵

あいうえお、の並び替え🎵

あいうえお、あいうえお、あいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえお

ここから書くことは、あいうえお、と、なんら変わらない。ただのあいうえおの羅列だ。並べ替えだ。
わたしがここになんと書こうと、届かず、響かず、変わらず、意味がない。
それなら書かないほうが効率的と言えるか?生きる上で省エネか?小説でも映画でも、本筋に関わる部分だけでよいのなら、始まっ

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お疲れさまコンプレックス

お疲れさまコンプレックス

いつからさようならとこんばんはを言わなくなったか。

お疲れさまですという言葉が苦手だ。
なぜ大人になると、便利な挨拶としてお疲れさまと言うのだろうか。
仕事終わりに言うのはまだわかる。けれど、そんなに疲れていない時に、自分より疲れているであろう相手にお疲れさまと言われると、いたたまれなくなるのだ。いやそんな疲れてないよ、頑張れていないよと、自分にも相手にも面倒でしかない訂正をしたくなってしまう。

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レモンの木 給食のにおい

レモンの木 給食のにおい

レモンの木

実家には祖父母が世話をしていた畑がある。今は母が面倒を見ていると思う。
10年以上前の四月か五月のある日。地元で毎年開かれる植木祭りで、祖母がレモンの木を買ってくれた。何かのプレゼントという名目だった。
わたしはレモンが好きで、すいかが嫌いな子供だった。というか今となっては考えられないが食に興味がなく(小さい頃なら当たり前か)、好きな食べ物があまりなかったのだと思う。強いて言うならと

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喫茶の唄

喫茶の唄

カフェに行く。下から本、本、手帳、けーたい、と重ねて、手帳を開き、本を開き、集中が切れたら次の本を開き、気づくとけーたいが一番下になっているのを見ると落ち着く。心との距離がはっきりと、しっかりと、適切に遠ざかる。

蕪木

いつもコーヒーカップを鼻に近づけるときが一番ドキドキするし、はああ、鼻腔が喜んでるな〜と思う。冷めたコーヒーは、ほんとに夢から覚めたみたいな(ギャグではない)気持ちにさせられて

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当方極めてケチであるが、印象派展2024

当方極めてケチであるが、印象派展2024

絵の前に立つと、重く、静かだった。目の前の睡蓮を描いているようで、とても遠くのもののように感じた。この色が好きだったのだろうなあ、好きな色をたくさん使えてよかったね、と慰めたくなるような、合掌したくなるような。そういえばこの展示が始まってから、ふと、画家の目に入るものすべてが描かれているわけではない、という当たり前のことをやたら強く意識したのを覚えている。というか初めて気づいた。絵画というのは、つ

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ちゃんと恐れることと、PERFECT DAYSについて

ちゃんと恐れることと、PERFECT DAYSについて

一章が、一文が、一語が特別だった。
とびきり濃く苦いチョコレートをひとつぶ。
長田弘さんのエッセイ。

詩人として知られる長田弘さん。わたしの好きな詩は、『最初の質問』や『世界はうつくしいと』。ぜひ読んでみてほしい。安らかで、静かで、易しく、平凡な言葉でも、長田さんが使うとその深度が違った。本の重みが、余白が、透けるような紙の薄さが、字体が、やたらうつくしかった。いままで詩しか読んでこなかったけれ

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本を読むために仕事を辞めたし、カフェに行くために上京した

本を読むために仕事を辞めたし、カフェに行くために上京した

言葉のスペシャリストみたいな人を社長にもつ会社で、フルタイムのアルバイトとして働いている。社内には当然、言葉やコンテンツと呼ばれるものに造詣が深い方ばかり。そこにいて、凄まじいスピードで移りゆく「なんかおもろそうなこと」を垣間見る日々。
最近、会社の上司?みたいな人と面談した。若いころには演劇をやっていて、きっといろいろあって社長とも距離が近く、いろいろあって社会的にも少し影響力が強い人に分類され

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歯医者にて

歯医者にて

歯を中心に回っていた。
ある朝、目が覚めると歯が痛かった。寝ているときの体勢によって体のどこかが痛くなるのはよくあることなので、放っておこうと思い出勤することにする。お恥ずかしながら、わたしは歯医者が大の苦手なのだ。年単位で行っていない。けれど痛みは増していき、なんだか熱を帯びてくるような気がするし、口の中で変な味がするような気がする。その日は早上がりだったので、退勤後診てもらおうといくつかの歯医

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だからなんだ

だからなんだ

そんなことばかり。

🌞
太陽は言いました。
「地球はいいな。水があって、人間が暮らせて。
ぼくは熱すぎて、生き物は暮らせない」
太陽が地球を見ました。
太陽は知っているだろうか。
夜のあいだ、月が光を借りていること。
世界の背景は白色ではなく透明でもなく、空色であること。
日の出と日の入りは正直見分けがつかないこと。
夕焼けはとてもうつくしいこと。
太陽のおかげで、月とか、夜とか、精神を深くす

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うつくしいものの話をしよう

うつくしいものの話をしよう

うつくしいと感じる心がはずかしい。
うつくしいという言葉が簡単に浮かんで、発してしまう自分がはずかしい。

小さい頃は頭が良いことがはずかしかった。
名前を間違えて呼ばれることがはずかしかった。
今は自炊していることがはずかしかったりする。
人より何かが少しうまくできたり、
人と違って気まずいことや自分の大切なことに焦点が当たることを、
はずかしいことだと感じるようにできているのだろうと思う。

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