1999 You Blue I

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最近の記事

お疲れさまコンプレックス

いつからさようならとこんばんはを言わなくなったか。 お疲れさまですという言葉が苦手だ。 なぜ大人になると、便利な挨拶としてお疲れさまと言うのだろうか。 仕事終わりに言うのはまだわかる。けれど、そんなに疲れていない時に、自分より疲れているであろう相手にお疲れさまと言われると、いたたまれなくなるのだ。いやそんな疲れてないよ、頑張れていないよと、自分にも相手にも面倒でしかない訂正をしたくなってしまう。そういう意味で言っているのではないことはわかっている。 慰めの言葉も、そうだ。お

    • レモンの木 給食のにおい

      レモンの木 実家には祖父母が世話をしていた畑がある。今は母が面倒を見ていると思う。 10年以上前の四月か五月のある日。地元で毎年開かれる植木祭りで、祖母がレモンの木を買ってくれた。何かのプレゼントという名目だった。 わたしはレモンが好きで、すいかが嫌いな子供だった。というか今となっては考えられないが食に興味がなく(小さい頃なら当たり前か)、好きな食べ物があまりなかったのだと思う。強いて言うならという感じでレモンが好きだったのだろうし、好きとはいえそんなに量を食べられるわけで

      • 喫茶の唄

        カフェに行く。下から本、本、手帳、けーたい、と重ねて、手帳を開き、本を開き、集中が切れたら次の本を開き、気づくとけーたいが一番下になっているのを見ると落ち着く。心との距離がはっきりと、しっかりと、適切に遠ざかる。 蕪木 いつもコーヒーカップを鼻に近づけるときが一番ドキドキするし、はああ、鼻腔が喜んでるな〜と思う。冷めたコーヒーは、ほんとに夢から覚めたみたいな(ギャグではない)気持ちにさせられて、思ったより時間が経っていたことを知り、あ、もう立ち上がらないと、と思わされる。

        • 当方極めてケチであるが、印象派展2024

          絵の前に立つと、重く、静かだった。目の前の睡蓮を描いているようで、とても遠くのもののように感じた。この色が好きだったのだろうなあ、好きな色をたくさん使えてよかったね、と慰めたくなるような、合掌したくなるような。そういえばこの展示が始まってから、ふと、画家の目に入るものすべてが描かれているわけではない、という当たり前のことをやたら強く意識したのを覚えている。というか初めて気づいた。絵画というのは、つまり、そういうことなのか。戸外で描くことが手法として取り入れられたのが印象派の特

        お疲れさまコンプレックス

          ちゃんと恐れることと、PERFECT DAYSについて

          一章が、一文が、一語が特別だった。 とびきり濃く苦いチョコレートをひとつぶ。 長田弘さんのエッセイ。 詩人として知られる長田弘さん。わたしの好きな詩は、『最初の質問』や『世界はうつくしいと』。ぜひ読んでみてほしい。安らかで、静かで、易しく、平凡な言葉でも、長田さんが使うとその深度が違った。本の重みが、余白が、透けるような紙の薄さが、字体が、やたらうつくしかった。いままで詩しか読んでこなかったけれど、エッセイを読んではじめてわかったことがある。この人は本の中ですごくおしゃべり

          ちゃんと恐れることと、PERFECT DAYSについて

          本を読むために仕事を辞めたし、カフェに行くために上京した

          言葉のスペシャリストみたいな人を社長にもつ会社で、フルタイムのアルバイトとして働いている。社内には当然、言葉やコンテンツと呼ばれるものに造詣が深い方ばかり。そこにいて、凄まじいスピードで移りゆく「なんかおもろそうなこと」を垣間見る日々。 最近、会社の上司?みたいな人と面談した。若いころには演劇をやっていて、きっといろいろあって社長とも距離が近く、いろいろあって社会的にも少し影響力が強い人に分類されるであろう人。その人がいるだけで少し緊張する人。みんな(勝手にみんなにしてごめん

          本を読むために仕事を辞めたし、カフェに行くために上京した

          歯医者にて

          歯を中心に回っていた。 ある朝、目が覚めると歯が痛かった。寝ているときの体勢によって体のどこかが痛くなるのはよくあることなので、放っておこうと思い出勤することにする。お恥ずかしながら、わたしは歯医者が大の苦手なのだ。年単位で行っていない。けれど痛みは増していき、なんだか熱を帯びてくるような気がするし、口の中で変な味がするような気がする。その日は早上がりだったので、退勤後診てもらおうといくつかの歯医者に連絡したが、当日はなかなか受け入れてもらえなかった。しかし明日からは泊りの旅

          歯医者にて

          だからなんだ

          そんなことばかり。 🌞 太陽は言いました。 「地球はいいな。水があって、人間が暮らせて。 ぼくは熱すぎて、生き物は暮らせない」 太陽が地球を見ました。 太陽は知っているだろうか。 夜のあいだ、月が光を借りていること。 世界の背景は白色ではなく透明でもなく、空色であること。 日の出と日の入りは正直見分けがつかないこと。 夕焼けはとてもうつくしいこと。 太陽のおかげで、月とか、夜とか、精神を深くするテーマが共有されていること。 🌕 「一秒が一秒であることを確かめて過ごした」

          だからなんだ

          うつくしいものの話をしよう

          うつくしいと感じる心がはずかしい。 うつくしいという言葉が簡単に浮かんで、発してしまう自分がはずかしい。 小さい頃は頭が良いことがはずかしかった。 名前を間違えて呼ばれることがはずかしかった。 今は自炊していることがはずかしかったりする。 人より何かが少しうまくできたり、 人と違って気まずいことや自分の大切なことに焦点が当たることを、 はずかしいことだと感じるようにできているのだろうと思う。 土がうつくしいんですよ 年明けにインスタで見て一目惚れした郡司製陶所のオーバル

          うつくしいものの話をしよう

          こっそりね、ズルするのがいちばん。

          年始、よく働いた。年末には、新年の自分が何にでもなれる無敵の存在のように感じられたけれど実際そんなことはなく、むしろやる気が起こらなかったり、物欲だけが増したりした。税金や光熱費の支払いと追いかけっこするためだけに働いているわけではないので、買った。今後の自分が必ず、大切にしていってくれる服と皿。 ここのところ、意図的に、自覚的に優しくなりたいと、よく考えている。人生を、優しくなることに捧げられるだろうか。何をするにも、動機は優しくなることがいい〜(藤井風さんの曲にこんな歌

          こっそりね、ズルするのがいちばん。

          still life 夜を乗り越える

          自分にとって大金だと感じる額のお金を溶かした。 自分の考えなしの行動によるものだけど、最近のことなのでそのときの選択や意思決定があまりにも鮮明に思い出せてしまい、なんともツライ。 あちゃ〜〜。である。 選択肢をできるだけ多く長く持っていたいという悪いクセが裏目に出た。今後の自分、どうか気をつけろよ。 それが判明してから36時間ほど経過したいま、 脳裏に浮かんだことと行動を徒然なるままに 帰り道に親に電話した。予期せぬことがあるとまず親に電話してむしゃくしゃする気持ちを吐

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          人生最良の日の翌日

          「死ぬまでにやりたいことリスト」 それは誰もが一度は考えたことがある夢のリスト。わたしも最近考えた。全然思いつかなかった。なんでもいいからやりたいことでいいんだよ!と自分を励ましてみたものの、独自性があり、かつ面白みのある回答を求められるのはいちばんの苦手分野である(注・今回は誰に求められるでもなくすべて自分の頭の中で起こっている)。このことからも、わたしが大金持ちになってはいけないことがわかる。大金を絶対に持て余す。なれないけど。そうこうしているうちにやっとわたしは二つの行

          人生最良の日の翌日

          ひつようなことば

          ネットの誰かのことば 「自分のからだがあたたかく柔らかくなっていくのを感じた」 2年ほど前、うまく食事が取れなくて、何をどうすれば良いかわからなくて、真っ暗闇にいたときがあった。自分の病気について調べ、自分はひとりじゃないと思いつつ、治りたいけれど治りたくない、もっと深刻になればいいと思っていたとき。わたしの人生はある時期を境に「それ以前/以後」と認識するくらい世界が変わった。正直それ以前の記憶は曖昧だけど、このことばは「/」にあって鮮明だ。なんて美しいことばだろうと思った。

          ひつようなことば

          無題(幸せ・教団X)

          幸せです。なんて幸せでしょう。 わたしはブランド品にほとんど興味がありません。いただいたらありがたく使います。自分では手に取りません。それを持っていてもわたしは輝かないし、わたしが持っていてもそれは輝かないと思うからです。わたしはレモンの刺繍が入った黄色いトートバッグを持っています。幸せです。ブランドに詳しく、よく似合うあの子も、幸せであることをわたしは知っています。 わたしにはパートナーがいません。必要とも不要とも思いません。「ある状態」がないのではなく、「ない状態」がある

          無題(幸せ・教団X)

          焼きたてのシフォンケーキの香りはいくら

          飲食店で働いていた時、閉店作業の一つに窓拭きがあった。窓についた子供の手形。触らないでおくれよと不満タラタラに窓を拭きつつ、料理代には材料費だけでなく人件費、場所代、そしてその場を汚す代が含まれているのだと思い至った。料理を頼んだときから、窓ガラスを汚す権利が付与される。それなら汚したモン勝ちである。そんなことを思い出したカフェでのひととき、ここにいれば焼きたてのシフォンケーキの香りを嗅ぎながらコーヒーを飲むことができる。お菓子作りが奏でる音楽を聴くことができる。隣で作業する

          焼きたてのシフォンケーキの香りはいくら

          誰も押したとは言ってない

          押しボタンを押して信号が変わるのを待つ。ボタンの上にある「おまちください」は押す前からずっと点灯していて、しっかり押せているのか、もっと強く押すべきなのかわからない。道路を挟んだ向こう側にもわたしの側にも、信号が変わるのを待つ人が足を止めている。その人たちはわたしが押したものと思ってただ足を止めるだけで、ボタンを押しはしない。信号が変わらないので不安になる。ここではわたしが責任者だ。代表だ。押せていないなんてあってはならない。しばらく経って車道の信号が黄色に変わる。ほっと胸を

          誰も押したとは言ってない