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still life 夜を乗り越える

自分にとって大金だと感じる額のお金を溶かした。

自分の考えなしの行動によるものだけど、最近のことなのでそのときの選択や意思決定があまりにも鮮明に思い出せてしまい、なんともツライ。
あちゃ〜〜。である。
選択肢をできるだけ多く長く持っていたいという悪いクセが裏目に出た。今後の自分、どうか気をつけろよ。

それが判明してから36時間ほど経過したいま、
脳裏に浮かんだことと行動を徒然なるままに

帰り道に親に電話した。予期せぬことがあるとまず親に電話してむしゃくしゃする気持ちを吐き出してしまう、そしてそのあと、自分も親も無意味な時間を過ごしたことにさらに腹が立ってしまう。これは良くない。
普段お金をできるだけ使わず、生活を工夫することを苦にせず楽しんでいたつもりだったのに、節約とお金に固執するモンスターと化して泣いた。ちまちまと、こっそりと生活している自分の口座からそんな大金を掠めていくなんて理不尽じゃないかと絶望した(被害者ヅラもいいとこである!!!)。
うまく自分の感情をコントロールできないまま電話を切り、シャワーを浴びてエスニック焼きそばを作って食べた。ずっと前に開けたナンプラーのせいか、ニラの効果か、少しお腹を下した。

以前友だちに教えてもらった又吉さんの近大卒業式のスピーチを見た。まず又吉さんの顔を見た瞬間心が凪いだ。仏だろうか。あの姿を前にして腹を立て続けるのは難しい。仏だ。社会に出たことがない学生に対して、おとなについて話していた。正直自分が卒業生の席に座っていても、当時はしっくりこなかったと思う。そして今後もあのスピーチが刺さらない人生を歩む学生はいると思う。わたしはあれが刺さるおとなになった。想像していたよりずっと情けなく、揺らぎやすく、人間臭く、ちいさく、不器用だ。それを咀嚼するしかない。

溶かしたお金に対するスタンスが決まった。住民税のように、払わなければならないものだったということで折り合いをつけ、そのことから一旦目を背けることとする。

朝。出勤しながら「still life」という単語が浮かんだ。西淑さんのポストカード集のタイトルで、静かな空気に満ちていて、なんともおしゃれなニオイがするので好きである。「だが、生活は続く」ってことかなあ〜と思った。どうしても生きていて、すべてを飲みこんで生活は続く。どんなに悲しくてもうれしくても。悲喜こもごも。わたしたちはいつだって、「その後」を生きている──。ストップストップ。調べたら、still lifeは「静物」という意味だった。いいねえ、still lifeで静物なんて・・。意味がわかってからもこの単語すきだ。そしてわたしの解釈も、別にそのままでいいことにしよう。

夜、疲れた帰り道。何事もなく終わったー、何かをしていると気が紛れていいなァ。ふーん、いつも通りじゃないか。わたしの生活は口座の残高に依らない。その日が何事もなく穏やかに終わることの喜びは何にも代えられない。少し残業をして、連勤最終日だったのでスーパーでアイスを買って帰った。

二度目の朝。still lifeのポストカードを探していたら、わたしが小さいときから親が積み立てておいてくれた口座の通帳が出てきた。あまりよく見たことはなかったけど、日付を見る限り、本当に小さいときからお金が出たり入ったりしている。そんな昔から、将来を見越して、わたしは育てられていたんだなあと実感する。そして通帳にある自分の名前を眺めた。わたしは「結子(ゆいこ)」という名前だが、・・渋い。すごく気に入っている。けれど、よく小さな赤ちゃんにこの名前をつけたなあとも思う。生まれてくる前に、きっと何度も、ゆいこゆいこと呟いたのだろうかと思うと、──。この駄文を読んでくれている人がいたら、どんな感情になるか、想像してください、自分で試してみてください。名前とはその人が親からもらう最初のプレゼントで、詩だと言う人がいた。

夜を乗り越える
自分をやり過ごす
その方法はその時々によって違うし、特効薬のようなものがあればいいのにそれはきっと見つからず、手探りのまま。生活は続く。



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