中山りの

ふたつの仕事をしたり読書をしたりしているなかで、子どもたちに向けた言葉をどこかに置いて…

中山りの

ふたつの仕事をしたり読書をしたりしているなかで、子どもたちに向けた言葉をどこかに置いておきたいと思いnoteをはじめました。 それがひと段落し、読書で考えたことを置いていきたいと思っています。 読書メーターでは読んだ本のメモを、noteでは長文になってしまったものを。

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  • 遺言

    noteをはじめた理由。遺言。

記事一覧

まだまだ考えていかないと[読書日記]

相模原事件・裁判傍聴記 雨宮処凛 著 (太田出版) 今までいくつかの相模原事件に関する書物を読んできた。 そのたびに感じていた、植松への違和感。 それについて、著…

中山りの
1か月前
3

ただただ、好みの作品に出逢える奇跡【読書日記】

20世紀の幽霊たち ジョー・ヒル 白石朗 他[訳] (小学館文庫) 原著が発行されたのは、およそ20年前。 読んでみて、おそろしい、と思った。著者の才能を。 ホラー…

中山りの
1か月前
5

子どもの選択【読書日記】

メメンとモリ ヨシタケシンスケ(KADOKAWA) 先日本屋で、「一冊、マンガとか絵本じゃない本を買ってあげるから、好きなのを選んで」と、子どもにぼくは言った。 子ども…

中山りの
1か月前
4

普通を疑う。 【読書日記】

普通をずらして生きる ニューロダイバーシティ入門  伊藤穰一、松本理寿輝 著(プレジデント社)  ニューロダイバーシティ、脳神経の多様性。  それは、マジョリティ…

中山りの
2か月前
6

「発達」の是非 【読書日記】

発達障害「グレーゾーン」 岡田尊司 (SB新書) 「近年、発達の特性は、障害ではなくニューロダイバーシティ(神経多様性)として理解されるようになってきている。それ…

中山りの
6か月前
4

お酒でサンタクロース【読書日記】

世界音痴 穂村 弘 (小学館文庫)  普段、家でお酒を飲むのは僕だけだ。  週に3、4日ほど、晩御飯どきにビールやウイスキーを飲み、アニメを観る子どもたちの横顔を…

中山りの
7か月前
11

書くことについて思ったこと[読書日記]

発注いただきました! 朝井リョウ (集英社文庫)  企業等からの発注があり、それぞれテーマや設定があってそれに答えるかたちで書いた文章の本。  テーマや設定があ…

中山りの
7か月前
3

細部と世界[読書日記]

彼女の体とその他の断片 カルメン・マリア・マチャド 著 小澤英実ら訳 (エトセトラブックス) ときどき、読み進めるのに時間がかかる小説がある。 それはただ読みにく…

中山りの
8か月前
8

掘り起こして磨く[読書日記]

第2図書係補佐 又吉直樹 著 (幻冬舎よしもと文庫)  又吉直樹さんによる本の紹介文。しかし一般的な書評のようなものではない。というか、ほぼエッセイだ。本の紹介は…

中山りの
8か月前
8

予測不能の世界の縮図[読書日記]

カード師 中村文則 著 (朝日文庫)  「合理的でない」「科学的ではない」とされるものが、人間の生活には深く根ざしている。もちろん、それらには良い面も悪い面もあ…

中山りの
9か月前
2

日々精進(ゆるやかに)[読書日記]

奴隷の哲学者エピクテトスの人生の授業 荻野弘之 著 かおり&ゆかり 漫画 (ダイヤモンド社)  漫画と文章とのバランスが良く、どんどん読み進められる。また、漫画の…

中山りの
9か月前
3

正しさを求めることと多様性[読書日記]

正欲 朝井リョウ 著 (新潮文庫)  食欲、睡眠欲、性欲、物欲。それらの正しいかたちを求める。なぜなら人間には、自分は正しいと思いたい欲求があるから。正しさを求…

中山りの
9か月前
4

架空と現実と物語[読書日記]

侍女の物語 マーガレット・アトウッド 著 斎藤英治 訳 (ハヤカワepi文庫)  出生率低下の危惧から性を統制して、「産む機械」としての女性を設けるようになった国。…

中山りの
9か月前
3

価値観の認識と再構築[読書日記]

友だち幻想 菅野 仁 著 (ちくまプリマー新書)  「人は1人でも生きていけるからこそ、人とのつながりを大切にしなければならない」「ムラ的な伝統的作法のような同質…

中山りの
10か月前
3

子ども、大人?[読書日記]

ハックルベリー・フィンの冒けん マーク・トウェイン著 柴田元幸 訳 (研究社) まず、翻訳がすばらしいと思う。 ハックの語りが絶妙に子どもらしく、かつ物語に入り込…

中山りの
1年前
7

本とは、あり難きもの[読書日記]

その本は ヨシタケシンスケ・又吉直樹 著 ポプラ社 この本は、「本」を探す旅に出た二人から、それぞれの報告がされるかたちで、イタロ・カルヴィーノの「見えない都市」…

中山りの
1年前
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まだまだ考えていかないと[読書日記]

相模原事件・裁判傍聴記 雨宮処凛 著 (太田出版)

今までいくつかの相模原事件に関する書物を読んできた。
そのたびに感じていた、植松への違和感。
それについて、著者のあとがきを読んで、腑に落ちる部分があった。
「何よりも人格に深みがない。少なくとも障害者のありように関して真摯に考えてきたとは到底思えないのだ。たまたま知った『気になる言葉』を拾い集め、自分流に解釈し、つなぎ合わせただけ。彼の信念や

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ただただ、好みの作品に出逢える奇跡【読書日記】

20世紀の幽霊たち ジョー・ヒル 白石朗 他[訳] (小学館文庫)

原著が発行されたのは、およそ20年前。

読んでみて、おそろしい、と思った。著者の才能を。

ホラー的な物語も、ファンタジー的な物語も、純文学的な物語もあったが、それらの分類に意味があるとは思えない。本書のなかのすべての物語は、ジョー・ヒル的な物語だ。

特に、子どもの内面、その不可思議さや自由さの描写がすばらしい。そしてそこに

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子どもの選択【読書日記】

メメンとモリ ヨシタケシンスケ(KADOKAWA)

先日本屋で、「一冊、マンガとか絵本じゃない本を買ってあげるから、好きなのを選んで」と、子どもにぼくは言った。
子どもはそれでもマンガ的な本ばかり探していたから、ぼくは耐えかねて「これ、いいと思うよ」って勧めた本。
まあ、こちらも存分に(すてきな)絵が置かれていたんだけど。

で、この本を子どもが立ち読みしたあとも、「これもいいんじゃないか」「こ

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普通を疑う。 【読書日記】

普通をずらして生きる ニューロダイバーシティ入門  伊藤穰一、松本理寿輝 著(プレジデント社)

 ニューロダイバーシティ、脳神経の多様性。
 それは、マジョリティ(ティピカル、定型発達)が「マイノリティ(ダイバージェント、非定型発達)にやさしく」と上から押しつけるようなものではなく、すべての人々が多様な在り方をしているという前提に立ち、誰もが生きやすい仕組みを提唱するものだ。
 なお、マジョリテ

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「発達」の是非 【読書日記】

発達障害「グレーゾーン」 岡田尊司 (SB新書)

「近年、発達の特性は、障害ではなくニューロダイバーシティ(神経多様性)として理解されるようになってきている。それは、それぞれの人がもつ脳の特性であり、個性である。それを、わずか数個の診断カテゴリーで区切ろうとすることは、自然の多様性を、人間の決めた数本の境界ラインで区切るようなものである」
(p.220より引用)

たとえば、衝動的で判断を誤りが

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お酒でサンタクロース【読書日記】

世界音痴 穂村 弘 (小学館文庫)

 普段、家でお酒を飲むのは僕だけだ。
 週に3、4日ほど、晩御飯どきにビールやウイスキーを飲み、アニメを観る子どもたちの横顔を見ていたりする。一緒にわーきゃー言うこともある。
 漫画を読んでいる子どもたちと同じ空間で本を読んでいたりもする。同じく、子どもたちの姿をちら見しながら。

 穂村弘の「世界音痴」も、そうやって読み進めた本だ。
 読みながら、「この人め

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書くことについて思ったこと[読書日記]

発注いただきました! 朝井リョウ (集英社文庫)

 企業等からの発注があり、それぞれテーマや設定があってそれに答えるかたちで書いた文章の本。

 テーマや設定があるときは、それを前面に出して書くよりも、ちょっと後ろに隠れているくらいがおもしろいと感じた。
 イメージとしては、テーマを地下に置いておき、一階部分から上は別のものを置いていく。そのなかで物語が展開するうちに、テーマが現れてくるかたちの

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細部と世界[読書日記]

彼女の体とその他の断片 カルメン・マリア・マチャド 著 小澤英実ら訳 (エトセトラブックス)

ときどき、読み進めるのに時間がかかる小説がある。
それはただ読みにくくて面白くない小説かもしれないし、実はとてつもないことが書かれていて今の自分では消化できない小説なのかもしれない。

本書は後者だったようだ。

性的マイノリティや女性蔑視への抗いについてが強調されがちな作品だとは思う。やっぱりそこは、

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掘り起こして磨く[読書日記]

第2図書係補佐 又吉直樹 著 (幻冬舎よしもと文庫)

 又吉直樹さんによる本の紹介文。しかし一般的な書評のようなものではない。というか、ほぼエッセイだ。本の紹介はほんの少し。
 そして、こんな本の紹介の仕方があったんだ!と圧倒された。

 まず、エピソードがおもしろい。だから、その流れで紹介されている本に、自然に興味が湧く。
 著者が考えたり感じたりしたこと、それを表す文章力がおもしろいからこそ

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予測不能の世界の縮図[読書日記]

カード師 中村文則 著 (朝日文庫)

 「合理的でない」「科学的ではない」とされるものが、人間の生活には深く根ざしている。もちろん、それらには良い面も悪い面もある。
 そのようなものが蠢く世界でこの物語は進行し、実際に起こった事件も描写されながら語られる。様々な素材が絡み合って存在している物語で、力作だと思う。

 事故や天災など、何が起こるか予測できない世界で人間は意味を求めながら生きている。

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日々精進(ゆるやかに)[読書日記]

奴隷の哲学者エピクテトスの人生の授業 荻野弘之 著 かおり&ゆかり 漫画 (ダイヤモンド社)

 漫画と文章とのバランスが良く、どんどん読み進められる。また、漫画の後に背景が黒いページが挟まれて、本全体のデザインも良くて集中して読み進められた。

 端的にまとめてしまえば、まずは自己の内面をしっかりと見つめ、外的な要因など変えられないものはあきらめて生きていこうということか。
 ぼく自身は内向型の

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正しさを求めることと多様性[読書日記]

正欲 朝井リョウ 著 (新潮文庫)

 食欲、睡眠欲、性欲、物欲。それらの正しいかたちを求める。なぜなら人間には、自分は正しいと思いたい欲求があるから。正しさを求める欲が。

 ある児童ポルノ事件を報じる記事が置かれ、さまざまな登場人物の視点から語られる生活。そこに蔓延している「正しい性」の圧力。「正しさ」の圧力。それに苦しむ、「正しくない」性のありかたをする人々の物語。
 「普通」の押しつけをい

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架空と現実と物語[読書日記]

侍女の物語 マーガレット・アトウッド 著 斎藤英治 訳 (ハヤカワepi文庫)

 出生率低下の危惧から性を統制して、「産む機械」としての女性を設けるようになった国。そこで「産む機会」として扱われている、1人の女性の視点から語られる物語。

 しかし、はじめはどんな世界の話なのかわかりにくい。状況の説明は徐々になされていく。少しずつ主人公が今とらわれている世界や過去の出来事が語られていく。
 だか

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価値観の認識と再構築[読書日記]

友だち幻想 菅野 仁 著 (ちくまプリマー新書)

 「人は1人でも生きていけるからこそ、人とのつながりを大切にしなければならない」「ムラ的な伝統的作法のような同質性を前提とする共同体の作法から、自覚的に脱却しなければならない」など、著者の主張はこれまでの学校教育で当たり前とされてきた考え方(「友達100人できるかな?」的発想)を突き放す。その主張は正しいと思うし、ぼくにはとてもしっくりくる。

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子ども、大人?[読書日記]

ハックルベリー・フィンの冒けん マーク・トウェイン著 柴田元幸 訳 (研究社)

まず、翻訳がすばらしいと思う。
ハックの語りが絶妙に子どもらしく、かつ物語に入り込みやすい文章になっている。
しかしそれでも、原作の意図的な誤りを日本語に訳すのは難しいらしい(訳者解説より)。
日本語のほうがお行儀が良いのかもしれない。
そして、日本語にはもっと自由な言語的表記ができるようになる余地がある、ということ

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本とは、あり難きもの[読書日記]

その本は ヨシタケシンスケ・又吉直樹 著 ポプラ社
この本は、「本」を探す旅に出た二人から、それぞれの報告がされるかたちで、イタロ・カルヴィーノの「見えない都市」に似ていると思った。
もっと言えば、千夜一夜物語に。
つまり、王に見てきた世界の話をきかせるかたち。

そこには短くてくすりと笑える本の話もあれば、長くて物悲しい本の話もある。
ふざけた突飛な空想的挿話も、豊かな想像力からなる絵物語も、真

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