本とは、あり難きもの[読書日記]

その本は ヨシタケシンスケ・又吉直樹 著 ポプラ社


この本は、「本」を探す旅に出た二人から、それぞれの報告がされるかたちで、イタロ・カルヴィーノの「見えない都市」に似ていると思った。
もっと言えば、千夜一夜物語に。
つまり、王に見てきた世界の話をきかせるかたち。

そこには短くてくすりと笑える本の話もあれば、長くて物悲しい本の話もある。
ふざけた突飛な空想的挿話も、豊かな想像力からなる絵物語も、真っ直ぐな物語も。

それらは伝聞の形式で語られるから、どんな世界でも許容しうる。「こうだったらしい」と言えば、「そんなものかも」と、人は思うから。
そしてそれこそがおそらく、物語の存在理由のひとつだと思う。
さまざまな世界のありようを規定しうる力こそが。

さて、個人的に好きだったのは(ネタバレ的要素も含む)
・ヨシタケさんの1歳の息子に破られた本を「この状態こそが、こののこ真実の姿のような気がして」という描写。
・又吉さんの「ほかの本はピカピカで、その本だけがボロボロだった。だけど、その本はとても幸せだった。その本は、そこに書かれている物語とはまたべつの、もう一つの物語を持っていた」という話。
・ヨシタケさんの「どんな人も、自分自身を救うことはできない。できるのは、自分以外の誰かを救うことだけなのだ。
だからこそ、誰かを救う努力をしなければいけないのだ。他の誰かに、自分を救ってもらうために」という言葉。
・又吉さんの転校生との日々を「その本は、誰も死なない」と語った物語。
・ヨシタケさんの「ヒーローが負ける話」が「一緒に地の底を歩いてくれている仲間のように思えたのだ」という語り。
だ。

それ以外にもたくさんの本についての物語を集めたこの本は、ぼくに多様な体験をさせてくれた。
そうやって物語を体験できるのが、本の存在理由のひとつだと思う。そしてそれだからこそ、本は人を救う。

本とはつくられたものであり、つくられている途中のものでもあり、つくろうと思っているだけのものでもある。

それらをすべて含めた上で、「想像力の無敵さ」を本書ではあらわすことがてきていたのではないかと思う。

それを成し遂げてくれた作者(ふたりとも)の想像力や創造力のおかげで、ぼくはとりあえずいま生きていてよかったと思うことができた。

すばらしい本でした。

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