ただただ、好みの作品に出逢える奇跡【読書日記】

20世紀の幽霊たち ジョー・ヒル 白石朗 他[訳] (小学館文庫)

原著が発行されたのは、およそ20年前。

読んでみて、おそろしい、と思った。著者の才能を。

ホラー的な物語も、ファンタジー的な物語も、純文学的な物語もあったが、それらの分類に意味があるとは思えない。本書のなかのすべての物語は、ジョー・ヒル的な物語だ。

特に、子どもの内面、その不可思議さや自由さの描写がすばらしい。そしてそこに介入してくる、社会の闇(病)的な存在。
その存在感は(ポップ・アートのように「ありえない」設定だとしても)、身につまされるほどリアルだ。

文学とは、文字による伝達で無限の世界を展開しうる営為だと思っている。
それを著者は至極真っ当に達成している。

文学におけるリアリティとは、現実に起こりうることが書かれているかどうかという水準のものではない。
それは科学的なリアリティとは別で、現実として実感できるかどうか、というところにあるのだと、常々思っている。
たとえばぼくは、霊的な存在を信じてはいないけど、それがありうる世界を文学的に描くことは否定しない。
むしろ、使い方によっては、素晴らしいとさえ思う。

言葉による伝達行為は、例えば映画で特定のシーンを表そうとするときと比べると、はるかに曖昧な行為だ。
そんな曖昧な表現なのに、文学は読み手に(固有の)世界を立ち上げさせるものなのだ。

そしてそれが、ぼくが本を読むことをやめられない理由でもある。


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