中山りの

ふたつの仕事をしたり読書をしたりしているなかで、子どもたちに向けた言葉をどこかに置いて…

中山りの

ふたつの仕事をしたり読書をしたりしているなかで、子どもたちに向けた言葉をどこかに置いておきたいと思いnoteをはじめました。 それがひと段落し、読書で考えたことを置いていきたいと思っています。 読書メーターでは読んだ本のメモを、noteでは長文になってしまったものを。

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  • 遺言

    noteをはじめた理由。遺言。

最近の記事

「発達」の是非 【読書日記】

発達障害「グレーゾーン」 岡田尊司 (SB新書) 「近年、発達の特性は、障害ではなくニューロダイバーシティ(神経多様性)として理解されるようになってきている。それは、それぞれの人がもつ脳の特性であり、個性である。それを、わずか数個の診断カテゴリーで区切ろうとすることは、自然の多様性を、人間の決めた数本の境界ラインで区切るようなものである」 (p.220より引用) たとえば、衝動的で判断を誤りがちな人も、短時間であれば作業的な課題を支障なくやりこなせる。軽率な判断をしてしま

    • お酒でサンタクロース【読書日記】

      世界音痴 穂村 弘 (小学館文庫)  普段、家でお酒を飲むのは僕だけだ。  週に3、4日ほど、晩御飯どきにビールやウイスキーを飲み、アニメを観る子どもたちの横顔を見ていたりする。一緒にわーきゃー言うこともある。  漫画を読んでいる子どもたちと同じ空間で本を読んでいたりもする。同じく、子どもたちの姿をちら見しながら。  穂村弘の「世界音痴」も、そうやって読み進めた本だ。  読みながら、「この人めんどくさいな」と思った。著者の思考は、自己のなかをうねうねぐるぐると掘り続けてい

      • 書くことについて思ったこと[読書日記]

        発注いただきました! 朝井リョウ (集英社文庫)  企業等からの発注があり、それぞれテーマや設定があってそれに答えるかたちで書いた文章の本。  テーマや設定があるときは、それを前面に出して書くよりも、ちょっと後ろに隠れているくらいがおもしろいと感じた。  イメージとしては、テーマを地下に置いておき、一階部分から上は別のものを置いていく。そのなかで物語が展開するうちに、テーマが現れてくるかたちの物語のほうが、読んでいて惹き込まれる、という印象だ。  ただしエッセイの場合は、

        • 細部と世界[読書日記]

          彼女の体とその他の断片 カルメン・マリア・マチャド 著 小澤英実ら訳 (エトセトラブックス) ときどき、読み進めるのに時間がかかる小説がある。 それはただ読みにくくて面白くない小説かもしれないし、実はとてつもないことが書かれていて今の自分では消化できない小説なのかもしれない。 本書は後者だったようだ。 性的マイノリティや女性蔑視への抗いについてが強調されがちな作品だとは思う。やっぱりそこは、読んでいて目立つ部分ではあるから。 だけど作者がすごいのは、自己の内面を見つめる

        「発達」の是非 【読書日記】

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          50本

        記事

          掘り起こして磨く[読書日記]

          第2図書係補佐 又吉直樹 著 (幻冬舎よしもと文庫)  又吉直樹さんによる本の紹介文。しかし一般的な書評のようなものではない。というか、ほぼエッセイだ。本の紹介はほんの少し。  そして、こんな本の紹介の仕方があったんだ!と圧倒された。  まず、エピソードがおもしろい。だから、その流れで紹介されている本に、自然に興味が湧く。  著者が考えたり感じたりしたこと、それを表す文章力がおもしろいからこそなせる技だとも思う。  そして僕は、著者の感じていることも文章も好きだ。彼が文

          掘り起こして磨く[読書日記]

          予測不能の世界の縮図[読書日記]

          カード師 中村文則 著 (朝日文庫)  「合理的でない」「科学的ではない」とされるものが、人間の生活には深く根ざしている。もちろん、それらには良い面も悪い面もある。  そのようなものが蠢く世界でこの物語は進行し、実際に起こった事件も描写されながら語られる。様々な素材が絡み合って存在している物語で、力作だと思う。  事故や天災など、何が起こるか予測できない世界で人間は意味を求めながら生きている。そんな心理に入り込めるもののひとつに占いや宗教があるのだろう。もしかしたら、ゲー

          予測不能の世界の縮図[読書日記]

          日々精進(ゆるやかに)[読書日記]

          奴隷の哲学者エピクテトスの人生の授業 荻野弘之 著 かおり&ゆかり 漫画 (ダイヤモンド社)  漫画と文章とのバランスが良く、どんどん読み進められる。また、漫画の後に背景が黒いページが挟まれて、本全体のデザインも良くて集中して読み進められた。  端的にまとめてしまえば、まずは自己の内面をしっかりと見つめ、外的な要因など変えられないものはあきらめて生きていこうということか。  ぼく自身は内向型の人間なので、自分の内面に興味関心が向くことの重要さ、心地よさは腑に落ちる。だから

          日々精進(ゆるやかに)[読書日記]

          正しさを求めることと多様性[読書日記]

          正欲 朝井リョウ 著 (新潮文庫)  食欲、睡眠欲、性欲、物欲。それらの正しいかたちを求める。なぜなら人間には、自分は正しいと思いたい欲求があるから。正しさを求める欲が。  ある児童ポルノ事件を報じる記事が置かれ、さまざまな登場人物の視点から語られる生活。そこに蔓延している「正しい性」の圧力。「正しさ」の圧力。それに苦しむ、「正しくない」性のありかたをする人々の物語。  「普通」の押しつけをいつも不快に思うぼくのような人間に、とてもフィットした物語で、きっと読書なんか趣味

          正しさを求めることと多様性[読書日記]

          架空と現実と物語[読書日記]

          侍女の物語 マーガレット・アトウッド 著 斎藤英治 訳 (ハヤカワepi文庫)  出生率低下の危惧から性を統制して、「産む機械」としての女性を設けるようになった国。そこで「産む機会」として扱われている、1人の女性の視点から語られる物語。  しかし、はじめはどんな世界の話なのかわかりにくい。状況の説明は徐々になされていく。少しずつ主人公が今とらわれている世界や過去の出来事が語られていく。  だから気になって読み進めていき、気づいたらその世界に入り込んでいる。  風景が静か

          架空と現実と物語[読書日記]

          価値観の認識と再構築[読書日記]

          友だち幻想 菅野 仁 著 (ちくまプリマー新書)  「人は1人でも生きていけるからこそ、人とのつながりを大切にしなければならない」「ムラ的な伝統的作法のような同質性を前提とする共同体の作法から、自覚的に脱却しなければならない」など、著者の主張はこれまでの学校教育で当たり前とされてきた考え方(「友達100人できるかな?」的発想)を突き放す。その主張は正しいと思うし、ぼくにはとてもしっくりくる。  今のぼくは比較的人付き合いが良く、(おそらく)そんなに人から嫌われないタイプだ

          価値観の認識と再構築[読書日記]

          子ども、大人?[読書日記]

          ハックルベリー・フィンの冒けん マーク・トウェイン著 柴田元幸 訳 (研究社) まず、翻訳がすばらしいと思う。 ハックの語りが絶妙に子どもらしく、かつ物語に入り込みやすい文章になっている。 しかしそれでも、原作の意図的な誤りを日本語に訳すのは難しいらしい(訳者解説より)。 日本語のほうがお行儀が良いのかもしれない。 そして、日本語にはもっと自由な言語的表記ができるようになる余地がある、ということなのかもしれない。 さて、ハックの話。 彼は不自由ない暮らしを「未ぼう人」の家

          子ども、大人?[読書日記]

          本とは、あり難きもの[読書日記]

          その本は ヨシタケシンスケ・又吉直樹 著 ポプラ社 この本は、「本」を探す旅に出た二人から、それぞれの報告がされるかたちで、イタロ・カルヴィーノの「見えない都市」に似ていると思った。 もっと言えば、千夜一夜物語に。 つまり、王に見てきた世界の話をきかせるかたち。 そこには短くてくすりと笑える本の話もあれば、長くて物悲しい本の話もある。 ふざけた突飛な空想的挿話も、豊かな想像力からなる絵物語も、真っ直ぐな物語も。 それらは伝聞の形式で語られるから、どんな世界でも許容しうる。

          本とは、あり難きもの[読書日記]

          流されていくこと、その先にあるもの。[読書日記]

          「マウス アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語」Ⅰ,Ⅱ アート・スピーゲルマン 著  ‎(晶文社) アウシュビッツを体験した父から聞いた話を漫画にした作品。 ユダヤ人はネズミ、ドイツ人はネコ、ポーランド人はブタで描かれている。 そのため人物の特徴は最小限まで削ぎ落とされており、作中では文字による対話で登場人物の思考が、描かれた絵で設定や場面などの枠組みが表現されている。 そして、出てくる人々はすべて「凡人」だ。 ゆえに、この作品は漫画と文学のあいだにあると思う。 そんな

          流されていくこと、その先にあるもの。[読書日記]

          コーヒー牛乳と多様性 [読書日記にかえて]

           息子がコーヒー牛乳をこぼしたのは、海洋新海水のお風呂上がり、せっかく身体をきれいにしたのにうっすらと汗をかきながら座っていたときだった。  そこに至るまでに、ぼくたちはとある漁村の街並みを歩き、その成り立ちに関するレクチャーを受け、目の前に広がる海の緑に感動していた。  その漁村はどこか懐かしく、にも関わらず異国感があって、いろんな印象がないまぜになった感情を体験していた。そして同時に、それは複数名の集団行動だったため、のびのびしているんだかまわりを気にした結果なのかわか

          コーヒー牛乳と多様性 [読書日記にかえて]

          勉強とは、学校とは、生き方とは?[読書日記]

          「勉強するのは何のため?」 苫野一徳 著 日本評論社 「勉強はなんのためにするのか?」という問いをきっかけに、学校とはどうあるべきか、まで語られる。 しかしぼくとしては、それらをこえて、人が生きていく世界のことについて語られていると感じられた。 人は自己の経験を一般化して考えてしまいがちだという話や、「あちらとこちら、どちらが正しいか?」と問われるとどちらかが正しいと思ってしまう傾向があるという話があったが、それらの「ワナ」に気づけずに生きている人のなんと多いことか。 い

          勉強とは、学校とは、生き方とは?[読書日記]

          安全圏からの放言[読書日記]

          兎の眼 灰谷健次郎 著 角川つばさ文庫 舞台は戦後のおそらく高度成長期ごろ、ゴミ処理所がある街。 その街と小学校で起きる出来事は、現在からすると少し想像しにくかったり刺激的なものであったりはするのだが、ノスタルジーも伴ってとてもリアルに読み手に迫ってくる。 なによりも、本書で取り上げられているテーマは今こそ読むべきものだと思う。 学校における教育のあり方、いや、人が育つとはどういうことか、について語られているから。 表面を見ているだけではわからない、一人ひとりの可能性を

          安全圏からの放言[読書日記]