「発達」の是非 【読書日記】

発達障害「グレーゾーン」 岡田尊司 (SB新書)

「近年、発達の特性は、障害ではなくニューロダイバーシティ(神経多様性)として理解されるようになってきている。それは、それぞれの人がもつ脳の特性であり、個性である。それを、わずか数個の診断カテゴリーで区切ろうとすることは、自然の多様性を、人間の決めた数本の境界ラインで区切るようなものである」
(p.220より引用)

たとえば、衝動的で判断を誤りがちな人も、短時間であれば作業的な課題を支障なくやりこなせる。軽率な判断をしてしまいやすい人はむしろ処理が手早いということも多い。
また、ADHDを症状だけでスクリーニングした場合、頭の回転が早くて早い処理ができるタイプも該当すると判定してしまいやすく、優れた特性を障害と判定してしまう危険がある。そのため、現在行われている検査だけでは、本当の問題が見つけられない、と著者は言う。

このように、症状から障害名や診断名をつけるだけでは、本人の困りごとを理解することはできない。検査結果のみでその人の能力を決めつけてしまうことも、(ある程度の能力の偏りはわかったとしても)生活上の困りごとへの対処法の解答にはならない。
本来大切なのは一人ひとりの生きにくさをどうするか、ということであり、診断名をつけることではない。
にもかかわらず、診断名を御神託のように求めて、ありがたがっている風潮はあると思う。

ラベリングすることで安心できるような人間の習性があるのだろう。
そうやって名前をつけて「わかったつもり」にならないと、不安でしょうがない気持ちもわかる。
名前をつけないと医療や福祉の支援対象にしにくい、という側面もあるだろうし。
もしかしたら、全体を一括りにしてものごとを決めようとする、学校教育の影響もあるのかもしれない。

わからないことや雑多でややこしいことに、じっくり向き合って理解していこうとすると、とても労力を使う。
一方で、それらを一括りにして名前をつければ、なんとなくわかった気持ちになって安心する。
それは結局、「わかったつもり」になっているだけだし、その状態で意見を述べることは、不安がっている人間の安定剤でしかないのだが。

冒頭に述べたように、本来は診断名ではなく、一人ひとりの苦手にフォーカスして支えていくべきなのだ。

しかし。
ここまで書いてみて、苦手なことを克服することや成長していくことは果たしてそんなに重要なのだろうか、とも思ってしまった。
「こういうところを伸ばしていきましょう」という姿勢はつまり、「人は成長しなければならない」という考え方に支配されている。

なんかもう、どうでもいいや、と思うこともある。
冒頭に引用したように、いろんな特徴をもつ人たちがいてそれぞれに得意なことがあるからこそ、支え合い補い合って人間社会は発展してきたはずなのに。
そのまま適当に、その人がその人らしく生きていてはいけないのかな、と。

だけど、社会の価値観を変えることはなかなか難しい。そんな社会でのびのびとした心で生きていけるようになるためには、やはりそれぞれに必要なことを育んでいったほうがいいのかもしれない。
ある程度、融通が利く状態になれればきっと、生きにくい社会でものびのびと生きていけるのではないかと思う。

そんなことを、ぼくは科学館で考えていた。
子どもが学校の行事で行って、はぐれたりしたけどなんとかみんなについてまわったらしい科学館。
行く前の日に「明日は学校から行くから、自分の興味優先じゃなくてグループ行動する練習をしてきてね。そのあと、パパと2人で行って好きなところを好きなだけ見ていいから」とお話ししたから。
そうやって、子どもが宇宙の放射線に関する文章をノートに書き写しているあいだ、ぼくも考えていることを文章にしていた。

本書にあるように、発達障害(的な要素)があると、失敗と叱責の積み重ねから自信が打ち砕かれ、コンプレックスと自己否定を植えつけられてしまう。そうなると、できるはずのこともできなくなってしまう。
それには親が何とかいうことを聞かせようとして悪循環を生じていることも多いとのこと。

そんなふうに打ち砕かれた自信を取り戻すには、本人が得意なことや好きなことに取り組ませ、そこで達成感や成果を味わわせることが大事らしい。
自分のやりたいことを追求しているうちに、天性の才能が開花し、大化けすることもある、と。

「天性の才能」があるかどうかは別としても、自分の好きなことをしていてまわりから白い目で見られるのはかわいそうだと思ってしまう。
できるだけ好きなことを伸ばしていきつつ、できないことが少しでもできるようになれば、無駄に自尊心を傷つけられることも減るのかもしれない。

ということで、うちの子のためにが取り組めたらいいことも、本書も参考にしつつ考えていきたい。

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