普通を疑う。 【読書日記】

普通をずらして生きる ニューロダイバーシティ入門  伊藤穰一、松本理寿輝 著(プレジデント社)

 ニューロダイバーシティ、脳神経の多様性。
 それは、マジョリティ(ティピカル、定型発達)が「マイノリティ(ダイバージェント、非定型発達)にやさしく」と上から押しつけるようなものではなく、すべての人々が多様な在り方をしているという前提に立ち、誰もが生きやすい仕組みを提唱するものだ。
 なお、マジョリティには才能があるから尊重しよう、と言われることもある。しかし、すべての人々が生きていく前提に、「特別な才能」は必要ないはずだ。
だから、どんな人でも伸び伸びとそのあり方を伸ばしていける環境が必要だと思う。

 しかしこれまでの教育方法は、画一的な価値観や「世界とはこうだ」という固定的な考えを教えることに特化している。
 実際には世界は変化し続けており、そこで生きていくためには創造性を身につける必要があるのに。
 他の見方もできる。
 画一的な問いとその答えのみを提示し続ける教育の結果、人々はゴシップのようなものに群がり、各々の意見を言うようになったのではないか。まさに、学校でしてきたように、提示された問題の答えを出すように。
 もちろん、インターネット環境の進化に伴い、意見を噴出しやすくなったことも関係しているだろうけど。

 だからやはり、学校や地域で多様性を感じられるような場が必要だと思う。そこで、画一的な対応をされないことが重要だ。
 それらを自身の中にもそれを植え付けていくことで、変化に対応でき、柔軟な生き方ができるようになっていくのではないか。
 提示された問題を解くということばかりではなく、自らなにかを生み出していくことが生活に根付き、それにより人は自分らしく生きていいと思えるようになるのではないか。そうすれば、特別な才能なんかなくても、一部の恵まれた人のしくじりを批判的に言わなくても、自分は自分として生きていけるのではないか。

 その方法の一つとして、本書ではDIR(発達段階度個人差を考慮に入れた相互関係に基づくアプローチ)が紹介されていた。今までいくつか育児書を読んできた身としては、まさにこういう視点こそ欠かせない、と感じた。
 育児書たちからどれだけ「こうするべき」という指針をもらったところで、我が子に全て当てはまるわけではなかったから。それでも、それらには参考になる部分もたくさんあり、結局は我が子に合った方法を模索するしかないと考えていたから。

 ただし難しいのは、我が子は一人では育てられない、ということだ。学校に行けばそこのルールやしがらみがあり、彼らはそれに縛られてしまう。
 だからこそぼくは、子どもたちが自分自身が持って生まれたものを、心の底から存分に「それでいい」と思えるような環境をつくっていきたい、と思う。

 そこでポイントとなるのは、本書にある「分離教育で育った子どもは、大人になって意識しないままさらに分離を広げる可能性があるのです。分離教育は社会的なインクルージョン(包摂)をもたらす可能性よりも、むしろ分離を拡大再生産する傾向があることが指摘されています」(p.65/伊藤)という視点だ。
 診断を受けて、「じゃあ、特別な教育を受けさせましょう」と分離だけして満足しようとする大人の、なんと多いことか。
 もちろん、個別の教育方法はとても重要だが、それは別に障害児というレッテルが貼られた子どもに限ったものではない。すべての子どもが、それぞれの存在を肯定的に捉えられるべきなのだ。
 思えば、生まれてきたとき、赤ん坊のときはその存在自体が、ただそれだけで肯定されている。しかし成長するにつれて、彼らは「標準」と比較され、足りない部分を見つけられ、「教育」されていく。
 その延長線上にあるのが、「特別支援教育」という名の分離教育だろう。
 分けないで、いろんな子どもがいるなかで、それをすべて肯定する大人がそばにいて欲しい。

 昨年一年間、我が子がどうやらクラスで「ダメな子」として扱われていた身としては、この本を読んでいて、そんなことを咆哮したくなった。

 そしてさらに、考える。
 「平等」という概念の曲解から来る「不寛容」、「公平」を笠に着た「差別」、それらがちらちらと顔を出している現在、きっと誰もが幼いときから肯定されて育っていけば、むやみに誰かを傷つけるようなことがないのではないか、と。

 「ダイバージェントにとって、つまりすべての人間にとって、最も重要なことは周囲の人から愛され、承認され、その人自身が幸福であることのはずです。愛と承認によって緩やかに形成されるコミュニティは、能力の有無や程度でメンバーシップを与えられる集団ではありません」(p.74/伊藤)

 とすれば、変わるべきは個への教育方法だけではない。
 コミュニティのあり方も、だ。

 だから本書で語られている松本の実践は、我が子が生きていく未来の、叶えられるべき理想だと感じた。

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