細部と世界[読書日記]

彼女の体とその他の断片 カルメン・マリア・マチャド 著 小澤英実ら訳 (エトセトラブックス)

ときどき、読み進めるのに時間がかかる小説がある。
それはただ読みにくくて面白くない小説かもしれないし、実はとてつもないことが書かれていて今の自分では消化できない小説なのかもしれない。

本書は後者だったようだ。

性的マイノリティや女性蔑視への抗いについてが強調されがちな作品だとは思う。やっぱりそこは、読んでいて目立つ部分ではあるから。
だけど作者がすごいのは、自己の内面を見つめる能力と、まわりの世界の細部を見つめる能力だと思う。いや、著者は世界の細部を見ているのではなく、むしろ細部しかない世界を見ている。点々と描かれた細部たちの役割は常識から外れていることもあり、それはきっと「当たり前」を嫌悪する意識から来ている。

描写が細かいことは、ときにぼくにとって好ましくはない。だから読み進めるのが遅くなることもある。しかし、そこにある「当たり前」を打ち砕こうとしている姿勢がみえたとき、一転して読み進めやすくなった。

性的少数者であることの生きづらさを抱えているからと言って、ここまでシビアに自己や他者を表現できることは稀だ。
そもそも著者に繊細な感覚があり、かつ「当たり前」を打ち砕くためにだけ存在しているのではないかというほどの狂気がある。そういったものがあるから、読み手を興奮させる文章が書けるのだろう。
おそらく小説家が小説家として生きていくために、そのような姿勢は欠かせない。そうやって、自分の本来の姿を語り出せることが、小説家たる所以なのだろう。


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