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浜辺でいろいろと拾った。

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ノートで拾ったお気に入りを置いておきます。
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#小説

砂場で眠る

砂場で眠る

 砂場で眠る。私は手をつないでもらっている。
 目の前は星空ばかりで、月は見当たらなかった。でも空がぼんやりと明るいからきっとどこかに隠れているのかもしれない。
 月光が漏れ出ている空が、ジャングルジムの影を私の体に薄く這わせている。その交錯する影の直線が亀裂のようだとぼんやりと思った。つないでいる手は私を何かと繋ぎ止めてくれているもので、きっと今手を離したら、私の身体はこの亀裂から裂けてバラバラ

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短編小説「沼津干物のアジーB」

短編小説「沼津干物のアジーB」

短編小説「沼津干物のアジーB」オープニングテーマ
opening theme : karappo_no_seikatsu / note-sann

ノートさんの「空っぽの生活」です。
本小説はこの曲を聴きながらお楽しみ下さい。

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短編小説「沼津干物のアジーB」
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短編小説「鉄鋼人間 上山田一郎、ダウン・ザ・リバー」

上山田一郎君。
と、薄暗い官舎の。
煤けた受付窓口の硬化プラスチックの向こう側から名前を呼ばれて上山田一郎は「はい」と返事をした。

壁に据えられた長椅子は積年の埃と手垢で木目が黒く褪せていたし、何より照明が天井から提がった裸電球一つでは暗すぎる。窓口を仕切るプラスチックは担当官の吐き出すヤニに劣化して穢色に霞んでいる。窓口の向こう側にいる官吏は裸電球の下で顔色悪く、眼窩の陰が屍人に見える。屍人が

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どないもならへん

どないもならへん

天気予報では今日の降水確率は50%だといっていたのにすっかり忘れて家を出た。エイジと待ち合わせている鶴橋駅のセブンイレブンで黒い折畳み傘を税込1,100円で買った。「PayPayで」ミカはスマホを店員に向けてから「やっぱし現金で」と言い直した。財布に2枚あった一万円札のうち1枚を出す。

「ただいま五千円札を切らしておりまして」 返ってきたのは千円札が8枚と五百円玉1枚、百円玉4枚。ミカの小さな三

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未来

未来

 人間の書いた小説が50年ぶりに芥川ゴンクール賞を獲った。小説は既に工業製品と化し、実質異業種の、パナソニック新潮、文春ケミカル、講談社製薬、トタル集英社、そしてnote化学の5強で市場が独占されていた。審査はその年に最高評価を獲得したプログラムで行われ、今年はニシダ50のマインドフィールドだった。
 世間は未だに小説を書いている人間がいたのかと驚き、そしてそれがマインドフィールドを通過したことに

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この空気は、けっこうきつい

この空気は、けっこうきつい

 小説を書いていることを、周囲にほとんどいっていない。それで、とりたてて不便でもないし、問題も起こらない。
 だが、たまにそとに出て、そのことをいわなければならない場合がある。
 どちらかといえば、そちらのほうが、面倒くさい。
 その日、読書会に出た。主催者に呼ばれたのである。
 といって、対象の本は、私の作品ではない。高名な作家の、高名な作品である。
 私を呼んでくれたひとは、私が小説を書いてい

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本当に知ってほしい自分の価値観とは?

「無名のド素人が小説を5000冊売る」プロジェクトを開始してから、今日でちょうど2週間が過ぎました。たった2週間なのに、ずいぶん長い時間が流れたような気がしています。意外な方から協力のオファーを頂いたり、無理かなと思っていた方が快諾してくださったり、これまでの自分の視野の半径が広がったようでもあり、本当に感謝しています。

「寿司ロールで乾杯!」が本になるまで頑張ります!

なかでも、私にいつも的

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さよならの都

もう長いこと憑かれている夢がある。
でもそれももう終わる、終わってしまうのだと思う。

もとは中学の頃に友人が見た夢の話で、私に聞かせてくれたのだった。
なのに何度も繰り返し思い出しているせいで、今ではもう自分が見た夢だったような気さえする。
この頃はもうどこまでが友人の見た夢で、どこからが私が勝手に作り出したものなのかも、よくわからなくなってしまった。

あれからずいぶん時間が経ってしまった。

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一生消えなくてもいいくらいの言葉にはまだ出会っていない

一生消えなくてもいいくらいの言葉にはまだ出会っていない

小学生の頃、私の父となった人には刺青が入っていた。両肩から二の腕にかけて丸々と太った朱と藍の鯉、背中にはなぜか河童。当時の彫り師の腕が相当立ったのか。本来なら滑稽にもなりかねないはずの河童が実に雄々しく男前に描かれていた。素肌に直接色とりどりの装飾を纏ったその男が誰のお父さんとも違うことは子供の目にも明らかだった。

新しい父との生活は緊張の連続であった。どうにかしてこの男に取り入らなければ日々お

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霧の中で

霧の中で

 ここは雨ばかり降る。

 水滴が落ちてきて、蒸発して、それが白いもやもやとなって、彼女の周りを覆っている。

 「フォグおいで」

 彼女が私の名前を呼ぶとき、私はすでに彼女の膝の上にきちんといる。それでも、時々不安になるのか、彼女は私の名前を呼ぶ。

 もうしばらく開かれていないカーテンを眺めながら、彼女はいつもぼうっとしている。薄い緑色のカーテンは、淡い光を透かし、彼女の素足を柔らかく照らし

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折本(ネットプリント)の新作ができました!

折本(ネットプリント)の新作ができました!

noteにアップした「写真俳句」と「140文字の幻想奇譚 ― 懐中小話」をまとめた折本の新作ができたので、今回もセブンイレブンのシステムを使って配信します。

セブンイレブンのマルチコピー機のタッチパネルで「ネットプリント」を選択して、以下のプリント予約番号(8ケタの英数字)を入れ、あとはガイドに従って操作すれば簡単にプリントできます。

サイズはいずれもA3で、プリント代は写真俳句(カラー)が1

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かいぶつ が あらわれた

かいぶつ が あらわれた

一時非公開とさせていただきます(そのうち元に戻します)

2022/03/03