放し飼いの羽ばたきに愛を
最後の出勤をしたのは3月中旬、割合と肌寒い夜だった。
目尻が切れ、荒れた肌。
懸命に化粧品を塗った甲斐なく、出勤してみると金曜の夜だというのにまったくと言っていいほど来客がなかった。
まいったな、という表情の店長から、薄情にも早退の許可を得ると、深夜まで営業している駅前のスーパーマーケットに立ち寄った。
目前の客が自動ドアを通るなりアルコールスプレーを手指に擦り込み始めたので、そうだったとばかりに見よう見真似でなんとなく両の手を揉む。
取り急ぎ何が欲しいということもなく、