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映画ラブ

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素人の映画感想文的な何かです。
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#エッセイ

映画に浸る

映画に浸る

 言うまでもなく、私が映画を見るのは情報を得るためでは無い。でも、これ、敢えて言った方が良い時代になっていそうな気がする。
 映画だけは倍速再生をしたり飛ばしながらの視聴スタイルにこの前まで否定的だった人が、最近はそうでも無いと言い始めたりしているからだ。

 ストーリー情報は倍速や飛ばし見することでは損なわれない。だから、どんな話なのかを追いかけるだけなら、2時間の映画を観るのに2時間費やすのは

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映画『愛なのに』

映画『愛なのに』

 愛なのになんだというのだろうか。
 
 古本屋を舞台にした恋愛映画かと思いきや、話はそう単純ではない。
 主人公の浩司(瀬戸康史)は、営む古本屋の奥で日がな一日、本を読んでいる。年寄相手の商売では女っ気は無く、案の定30歳を過ぎて彼女もいない。しかし彼女を作らない理由は、どうやら捨てきれない過去の恋心にあるようだ。
 
 ある日そんな古びた店にやってきた女子高生(河合優実)が一冊の文庫本を手にす

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Netflix映画『パレード』

Netflix映画『パレード』

 心残り無しに死ぬわけにはいかないと思っていても、人生そう上手くいくことばかりではない。もしあの時に別の選択をしていれば、と後悔することは幾らでもあるし、見ることの出来なかった結末が気になったとしても知るすべはない。人生は一方通行のパレードだ。

 映画というよりも芝居を見ている感覚に陥ったのは、劇中劇のような構成だからだろうか。生きている人たちの世界と死んでしまった人たちの世界がクロスして、でも

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映画かドラマか

映画かドラマか

 映画かドラマかで言えば私は断然映画派だ。なぜだろうかと考えてみると、ドラマよりも映画の方が非日常感があるからだと思う。話の舞台設定だけを見てもドラマは日常に近いところにある。時代劇にしても頭の中で変換されるのか、あまり非日常感を抱かない。来週につづくというのも、日常と並走している様な錯覚を生むというか、日常のスケジュールに組み込まれる感覚がある。もっともこれは、日本のテレビドラマの場合だ。

 

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映画『BABYLON』

映画『BABYLON』

 その時には目の前のことに夢中で分からない。時代の変遷の荒波の只中にいることを思い知った時、自分の時代が終わったことに愕然とするだろう。押し寄せる新しい波は得体が知れず理解不能で、自分たちが忘れ去られていくことに恐怖さえ覚えるだろう。
 第一線からも第二線からも遠ざかり、残り物を充てがわれるようになってもしがみついていれば、気づくものも気づかないままに、道を見失うこともある。

 あの時を振り返る

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映画『星の子』

映画『星の子』

 親がとある宗教に熱心な、いわゆる二世がどんな心境で生きているのか。勿論それはどんな宗教かに寄るし、家庭によっても様々だろう。自分が生まれる前から既に信者だったという親が多いのかも知れないが、親が入信した切っ掛けが子の病気を何とかしたいということだったとすれば、その子供にとっては複雑な心境だ。しかもその宗教のお陰で病が良くなったとすれば。
 この映画は、そうした家族が舞台だ。

 とかく宗教の場合

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『君たちはどう生きるか』現象考

『君たちはどう生きるか』現象考

 私に続いて劇場に見に行った知人に感想を聞いた。一言、つまらなかったと言った。でも見に行って後悔はしていないという。なぜなら、見てもいないのに批判する訳にはいかないからと。その知人曰く、この映画は誰にもお勧めしないし、もう一度と見たいとは思わないと言った。それが分かっただけでも収穫だと。
 私の抱いた感想と違いすぎて戸惑いを感じた。

 今は、あらすじやストーリーを追えば内容が理解できる映画が好ま

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映画『君たちはどう生きるか』

映画『君たちはどう生きるか』

 映画館を出ると世界が違って見えるのは映画の醍醐味の一つ。
 何でも無い壁の染みや差し込む陽の光までもが愛おしく感じる。忙しなく行き交う人々の険しい表情も穏やかに受け止められる。

 それは言わば遺言だった。 
 もうこの世界に触れられないのだと思うと、込み上げてくるものがある。残念ながら私はこの年になってもそれを受け継ぐ準備は出来ていなかった。だからこそ、伝えておかなければならないという思いに彼

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NETFLIX『THE DAYS』

NETFLIX『THE DAYS』

 わたしたちの平和な毎日があるのは、いろんな誰かのお陰だと分かっているつもりで生きている。
 だからと言って、小腹がすいてつまんだナッツを誰が育て、誰が運び、誰が加工して、最終的に我が家に運ばれて私が口にするまでの間にどんな人々が関わったのか具体的なことは何も知らない。私の生活を支えてくれている人々のうち、顔が見えているのは、ほんの僅かな人たちだけだ。
 それは都市や社会が複雑化したからだし、便利

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Netflix『サンクチュアリ -聖域-』

Netflix『サンクチュアリ -聖域-』

 サンクチュアリ。法律の力の及ばない聖域。

 コンプライアンスやハラスメントが強く叫ばれている現代では、仕来りや伝統を重んじる世界が槍玉に挙げられがちだ。もちろん法令遵守は当たり前だし、ハラスメントがあってはならないが、これらの用語はその守備範囲の広さから拡大解釈される危険性も孕んでいる。
 閉鎖的な世界で生じ易い様々な問題ごとと、伝統的なルールや方法論の問題は分けて考えるべきで、「古臭い考え方

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残響と余韻

残響と余韻

 最初の出会いは一枚のパンフレットだった。
 それはYAMAHAのサラウンドプロセッサーに関するものだった。DSP(Digital Surround Processer)と呼ばれるそれは、実際の劇場で測定したデータを元にして信号処理を加えて家庭でも臨場感のあるサラウンドを実現出来るというものだった。
 当時まだ高校生だった自分にはとても手が届かない製品だったが、強い印象とともに憧れを抱いたものだ。

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感情の一歩手前から

感情の一歩手前から

 喜怒哀楽と表される人の感情。
 そうした感情は、生理現象や身体的な感覚を起点とし情動を経て身体的な動作となることで表出される。
 何かを感じてから、それが例えば表情という顔の筋肉運動として表れるまでには複雑なプロセスと複数のステップを踏んでいるということだ。悲しいときに悲しそうな顔をするのは、考えてやろうとすると案外難しい。だからこそ俳優という職業が成り立つ。

 感情が湧き起こる発端となる部分

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映画『グリーンランド ―地球最後の2日間―』

映画『グリーンランド ―地球最後の2日間―』

 万が一にも起こる可能性が無いと思われることが起きたとしたらどうするか。
 それを考えて対策をしておくのが本当のリスク・マネジメントだ。
 今まで遭遇したことが無いから自分の身にそんなことは起こらないと人は思いがちだが、これまで遭遇したことが無い分だけ、あなたにとってみれば、これから遭遇する確率は上がっているのだとも言える。もし、それがいつかは起こることなのだとしたらだ。

 いわゆるディザスタ

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『トップガン マーヴェリック』はトム・クルーズによるアメリカ映画のオマージュだった、と思った。

『トップガン マーヴェリック』はトム・クルーズによるアメリカ映画のオマージュだった、と思った。

 エンドクレジットを見ていて、トム・クルーズという人の映画に対する絶大なる愛を感じた。それは愛という言葉でも足りないくらいで、言えば映画は彼そのもの、彼は映画そのものだ。
 今後トム・クルーズのような映画人は現れないだろうなあ。流れるスタッフロールを呆然と見ながら、私は映画の内容よりもトム・クルーズという人の人生に思い耽っている自分に気付いた。彼とは比較的年齢が近い私の映画人生に常に彼がいたからか

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