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#超短編小説
今日の夕飯 10(シチュー)
「ただいま」と家に帰ると
悪魔のコスプレを着た嫁が出迎えた
いや、玄関に座ってカボチャと格闘をしていた
「カボチャが固くて彫れないんです」
眉間にしわをよせながら
包丁で真剣に穴を開けようとしている
それは見るからにあぶなっかしくて
慌てて包丁を取り上げた
帰る時間がもう少し遅れていたら
血のりではない本物の血が
床一面を染めていたんじゃないだろうか?
部屋に移動してカボチャにマジックで
今日の夕飯9 (焼きそば)
仕事から帰ると
浴衣姿の嫁が出迎えた
「おかえりなさい。今日はお祭りですよ」
楽しみにしていた地元の祭りが
台風の接近で中止と聞かされた週末
我が家では即席の、小さなお祭りが始まった
「祭りの日は大人も童心に帰って許されるのです」
箸に刺したリンゴを持ちながらそう言う嫁は
去年おみくじで当てたおもちゃの機関銃を肩に担ぎ
アンパンマンのお面をつけている
久しぶりに出した机の上のホットプレ
今日の夕飯8(おでん)
どこから持って来たのか用意したのか
食卓にはフルフェイスのヘルメットをかぶる嫁と
沢山の具材で埋もれたおでんの鍋が置かれていた
「気を付けて下さい甘く見るとケガしますから」
顔が見えないので表情は読み取れないが
緊張感が伝わって来そうな言い方をする
「おでん、だよね?」
向かいの席に座りそう聞いた
「こやつらに『お』なんて敬う言葉はいりません!
『でん』でいいんです!」
「『でん』…か、わ
今日の夕飯7 (パスタ)
いつもより、少し早めに帰って来たら
甘い香りが家中に充満していた
ほんのりと焦げた匂いも混じっていた
「ただいま」と呼び掛けても探しても
嫁の姿は見当たらなくて
たまにある、唐突なかくれんぼでは無さそうだ
よほど慌てて出かけたのだろうか
嫁のスリッパがあさっての方向へと散らばり
雪予報の態勢のまま玄関に放置されている
台所を見ると皿や鍋が
計量カップなどのもろもろが無造作に置かれていて
五分
今日の夕飯6 (おせち)
視線の先、台所に目をやると
サンタのコスプレをした嫁が
スマホと睨めっこしながらおせちを作っていた
クリスマスに合わせて頼んだはずのサンタの衣装
でも届いたのは年末で、大晦日で
「今年はサンタで年を越します!」
と嫁はそう言い張った
今年はお互いの実家に帰るのは年明けにしたし
どうせ二人きりで誰も見てないからいいんだけど
クリスマスの装飾もまだ仕舞えなくなり
テレビの脇では小さなツリーがか
今日の夕飯5 (肉じゃが)
「さぁ、早く手を洗って着替えてキタマエ!」
家に帰るなり「ただいま」も言う前に
玄関で腕組みをして仁王立ちで立つ嫁はそう言った
靴を脱ぐのに手間取っていると
「何をしているこのウスノロめ!」と
急にSっ気でも開花したか?と言わんばかりに
「着替えたら夕飯ゾ!食卓に来るように!」
言いなれてない命令口調に戸惑いながらも
言われるがままに従ってみる
何があった?それっぽいドラマでも見たか?
今日の夕飯4 (カレー)
「ただいま」と家に帰ると
玄関に座ってジャガイモの皮をむく嫁が出迎えた
「おかえりなさい今日はカレーですよ」
なんだか機嫌が良さそうな
でも何故ここでやっているのか
「宅配がなかなか来ないのです」
そう言えば先日買った圧力鍋が
今日届くんだと言ってたっけ
待ちきれずにここにいるわけか
「台所にいるとチャイム聞こえない時があるので」
玄関を陣取る嫁の脇をくぐり抜け
ひとまず部屋着に着替
今日の夕飯3 (魚)
立派な釣り竿だけを小脇に抱え
何も釣れないままノコノコと家に帰ってきたら
夕飯のおかずを期待していたんだろう
玄関で座って出迎える嫁がいた
「おかえりなさい、何が釣れましたか?」
溢れんばかりのワクワク顔でそう聞くから
手ブラなんて正直に言いにくく
「魚は釣れなかったけど
途中で足を釣っちゃって痛かったよー!」
勢いとテンションで乗り切れると思ったが
嫁の顔はわかりやすく変わって行く