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今日の夕飯2 (ラーメン)


「ただいま」と家の扉を開けると
玄関で正座をする嫁が出迎えた

キュウリを丸ごと一本
口に咥えながら

もごもごと、でも器用に
「おかえりなさい」
そう言って顔を真っ直ぐに見上げて来る

「今日もおつかれさまです」

手元にはお出かけ用のバッグに家と車の鍵
他の部屋の電気は消されていて真っ暗で

なるほど今日はそんな日かと瞬時に悟った

外食か、外食したいんだな!?

我が家ではたまにある光景
素直に言えばいいものを…

ただ少しはこの芝居に乗ってあげなきゃと

「何か、あった?」と聞いたら
不安そうに、秘密を打ち明けるように
出来る限りの迫真の演技で
振り絞るような声でこう言った

「私…実はカッパなのかもしれません」

両手に持ったキュウリをフリフリさせて
頭にはお皿を乗っけている
緑色のエプロンはいつの間に用意してたのか

口にはまだキュウリを咥えたままなので
実際はもっと聞き取りずらい

「このまま完全に
 カッパになったらどうしましょう?」

真顔でそう訴えかけられ
きっとこのセリフも何度も練習したんだろう

「そのカッパ化は、どうしたら止められるの?」
と求められているであろうセリフを言うと嫁は

「人間の食事を取らなければ!美味しいのを!」

意味はわからないが言いたいことははっきり伝わる

玄関に居座っているので
まだ一歩も中にも入れていない
靴さえ脱ぐ隙も与えさせてくれない

こうなるともう
あの言葉を言わなければ終わらないだろう
斜め下から突き刺さる眼光が鋭くて痛い

さてどう言おうか?と少し考えて

「そう言えば、近所にラーメン屋が新しく…」
「よし行こう!」

待ってましたと言わんばかりに
返事も食い気味に返事をするカッパ

キュウリをエプロンのポケットに詰め込み
立ち上がろうとするが足がしびれていたのだろう
よろけて頭に乗っけた皿がゆっくりと落下し
パリンと割れた

一瞬だけ時が止まった

ちょっと泣きそうな目で
申し訳なさげにゆっくりと僕の方を見る
それが演技かどうかは見抜けなかった

「片付け…帰ってからでいい…?」

この家で食器が割れるのには慣れている
「いいよ」とうなずくと
そそくさと破片をスリッパで端に寄せた

玄関にカバンを置いてネクタイだけ緩め
家の中に入ることなくそのまま外食へ

エプロンを取ると出かける準備も漫然の嫁は
まだしびれが解けない足で
小鹿のように鳴きながら靴を履こうとするが

さすがに止めた

「え?」と不思議がる嫁に

「先に顔洗って来ようか?」

本人もすっかり忘れていたのだろう
あえてそこに触れなかったのも悪いが

緑色に塗られた顔のままで
一緒に出歩くのはさすがに恥ずかしい


カフェで書いたりもするのでコーヒー代とかネタ探しのお散歩費用にさせていただきますね。