へびのあしあと

「日常にファンタジーを。物語のような毎日を。」 詩のような短編のような。脳内に上映され…

へびのあしあと

「日常にファンタジーを。物語のような毎日を。」 詩のような短編のような。脳内に上映される映像を言葉にしています。

マガジン

  • カザリ

    この世界では人に影響を与えられる人と そうで無い人がいる 一生のうちで深く関われる人は 生まれた時にすでに決まっているんだ。 それ以外の人たちを 彼は「カザリ」と呼んだ。    (序章0〜終章14)

  • 朗読してもらったお話しまとめ

    読んでもらった記事をくるっとまとめてみました。 朗読してくれる方いましたら いつでもお声がけください。

  • 真夜中のASMR

    丑三つ時に繋がった、 ある幽霊のお喋りは、 いつしか事件の真実へと近づいて行く。 全五話。

  • 短編「今日の夕飯」

    家に帰ると玄関で出迎える嫁がいる。 「今日の夕飯、どうします?」

  • 明日晴れたら

    明日晴れたら宇宙へ行こう。

最近の記事

出来損ないの穴たち (B-side)

ドーナツが大好物な私は 栄養が偏るのも承知の上で 朝昼晩と三食ドーナツ生活を もう何か月も続けていた 友達からは「よく飽きないね」と言われるけど 美味しいし腹持ちもいいし種類も豊富だし なにより自分が満足なのだから仕方がない 小さい頃はドーナツは たまにしか食べられないご褒美で 母が気まぐれに買って来るドーナツを見つけては 学校帰りの私は飛び跳ねて喜んだっけ 口の周りを汚しながらかぶりつく私に母は 「ちゃんと穴まで食べるのよ」 よくそう言われて怒られていたっけ おそら

    • わすれものとかくしごと

      「ねぇ、見せてもらっていい?」 そう言われて お互いの机をくっつけて 僕の教科書を真ん中に置いた 筆箱も忘れたと言う君は らしくないなと思いながらも 鉛筆を貸して消しゴムを共有する 急に体を寄せて来て 僕のノートを覗き込みながら 「意外と字綺麗なんだね」と言うから 「見るなよ」とノートを腕で隠した 先生が黒板にいろいろと書いている中 今日はやたらとちょっかいを出して来て 見つかって怒られないかとヒヤヒヤものだ 行ったり来たりする消しゴムのカバーを外し 「ここに私の

      • キスで変わる世界線

        また知らない世界へと送られた いわゆる並行世界とかパラレルワールドとか その類の物だとは思うのだけど ある事をするとそこへと飛ばされてしまう 僕はそんな特異体質である ただ別の世界に飛ばされたと言っても おそらく0.0001ミリほどしか移動してはいなくて 生活に影響する事は今の所はほとんど無く 周りを見渡して前と変わった所と言えば 水の色がほんのり青くなった事くらいだろうか 毎度移動する度に めんどくさい能力を授かったと自分でも思う 別の世界に行くと、その先では必

        • 金曜日の小夜曲

          駅前から住宅地へと抜ける商店街 角のゲームセンターが 大きな音を響かせてシャッターを閉めた 昼間は人でごった返しているこの場所も さすがに夜遅くともなると人はまばらで 少し別世界にでも来たようなこの空間が好きだ まだお酒が軽く残っていて視界は霞み シャッターの前に一人座り込むと 鞄から出したペットボトルの水を飲んだ たまにその前を通り過ぎて行くのは バイト帰りの学生や、千鳥足のサラリーマン コンビニ帰りのラフな服装の人に 散歩するおじさんなどなど 遠くから轟いて来る

        出来損ないの穴たち (B-side)

        マガジン

        • カザリ
          15本
        • 朗読してもらったお話しまとめ
          10本
        • 真夜中のASMR
          5本
        • 短編「今日の夕飯」
          10本
        • 明日晴れたら
          10本
        • 短編「ニンゲン」
          4本

        記事

          ストロボ

          ストロボを浴びる瞬間が好きだ 全身が光に包まれる0コンマ何秒が 私を焼き付けて特別な気分にさせた 小さな個人撮影会の帰り道 今日は頑張ったと自分へのご褒美に ずっと我慢をしていたラーメン屋に入ったら 早くも今日撮ってくれたカメラマンから 数枚の写真が送られて来た 綺麗なスタジオにかわいい衣装 完璧な照明にテンプレートの構図の写真を眺めながら ポーズのバリエーションをもっと増やさないとと 反省しながらお礼の言葉を送る たまに写真が上手な人に撮られると思う事がある あまりに

          親切な本

          「 12ページと55ページ 87ページに177ページ 最後のページはどちらでも ここだけ読めば この本の伝えたい事がわかります 私が語りたい事がわかります 理解されるかどうかはわかりません 共感されるかどうかもわかりません ひとつの考えとしてお受け取り下さい 加えて遊びを楽しみたい方は エンターテインメントが好きな方は 全て読むもよし もしくは 凶器は 35ページの2行目 動機は 108ページの12行目 犯人は 211ページの8行目 時間が無い方は ここをどうぞ

          まつわる林檎

          電球を見ていた でも見ているのは電球じゃなかった 半分寝ぼけながらのうつろな目で 鳴る前の目覚ましを止める 裸電球が林檎になっていた 少なくともそう見えていた 畳の上の万年床に仰向けのまま まだ夢を見ているのかと目を凝らすけど 余計に霞んで視界はボヤける 薄暗い部屋の中に 赤く艶やかな林檎がひとつ おそらくそこにぶらさがっていた 隣接する大通りを通るダンプカーのせいで アパートごと微かに揺れたそれに あっぷる、と 今日の第一声、何気なく声に出して言ったら 学生の

          思い出すのは未来の恋路

          なんとなく、昔の写真を見返していたら とある映画館の前 当時流行っていた作品のチケットを持って ポスターの前で手元だけ写した二人の写真を見つけた 日付を見るとそれはもう十年前で でもこの時の事ははっきりと覚えているのは 当時付き合っていた彼女との最後のデートだから その人とはそれ以来一度も会っていない 共通の友達もいないから その後も、今何をしているのかも全くわからない お互いに十年ずつ歳を取って 新しいパートナーを見つけて、別れて もしかしたら家族を持って子供もいるか

          思い出すのは未来の恋路

          出来損ないの穴たち

          ドーナツの穴を袋詰めするバイトを始めた 客からは見えないドーナツ屋の端っこで 出来立てのドーナツから穴の部分だけを 取っては詰めて、取っては詰めて 三つ入れたら袋をとじる、そんな仕事 12パックでワンケース、1パック90円 そんな単純作業は嫌いじゃなくて それをしている時の自分は 何からも解き放されて無心になれた 店内に漂う甘い匂いも気にならず お腹が空くのもどこへやら 先の見えない未来からも逃避が出来る ひたすらに手だけは動いてはいるけど 脳はほぼ停止状態で 静かに

          出来損ないの穴たち

          三日坊主さん

          自炊を始めたのは良いものの めんどくさくなって三日でやめた フランス語でも勉強しようかと思い 本を買ったけどそれも四日ともたなかった ダイエットは三日で諦め、筋トレもそこそこで 日記も書く事が無くて続かなくて 毎日映画を見ようとしてアニメに逃げた 三日坊主がいくつも重なって 三日経ってはまた違う事を始める そんな三日坊主の三日坊主が何か月も続いていた これはこれで誉めて欲しいと思うんだ 三日坊主をずっと続けているのだから もはや継続していると言っても過言じゃ無い さ

          極上の恋

          私はすぐに恋をする コンビニの店員にも部活の先輩にも 近所のお兄さんや塾の先生にだって 少し優しくされると、微笑みかけられると 心がキュッとなってキュンてなって 良いなと思って恋をしてしまうんだ 今日も昨日もその前も 毎日沢山の恋をして満たされる私の心 でも行動には移さない その想いを伝える事はない きっと恋に恋しているのが楽しいだけなんだ 私は一方的に恋をして来た 勝手に片想いをして他の人にも恋をする 今同時にいる好きな人の数を数えたなら 手が何本あっても足りない

          一番星

          特に良くも悪くも何も無かった いつもと同じ、平凡な日の帰り道 蒸し暑い夏前の夕暮れ時に じんわりと汗が滲んでネクタイを少し緩めた 陽が長くなったと感じながら 空を見上げると見つけた一番星 えいやと手を伸ばして捕まえると 子供の頃に虫を捕まえた時のように 両手で優しくフタをして家へと急いだ 昔はよくやったっけ 毎日星を捕まえて家に持って帰っては 小瓶に入れて眺めていたっけ そんな事を考えていたら 周りは生まれた街の景色に変わり 走る子供たちの声が薄汚れた団地に響いた

          魔法のステッキ

          何か欲しい物があると 僕はそれを絵に描いた 素直に「これが欲しい」と言えない子だった 「いらないでしょ?」「だめだめ」 一度も言われた事も無いのに断られるのが怖かった だから絵だけ描いて部屋に放置して 親がそれを見て察してくれるのを待った もちろん上手くは描けないから 何度も何度も書き直して細かく観察をして 誰が見てもそれがそれであると 見てわかるくらいの物が描けた時 決まって親は話を切り出して買ってくれた気がする 物心つく前からそんな事をしていたから 欲しい物は絵

          魔法のステッキ

          丁寧に頭を下げて 「ごゆっくりどうぞ」と言った店員の その何でもない言葉に、いや声に 心臓が締め付けられたのは 忘れかけていた人の声によく似ていたから 顔はちゃんと見ていなかった こんな所にいるはずはないから 本人でないのは確実ではあるけれど 声が似ている人は顔も似ていたりするのだろうか? 振り返って見てみようか? いやなんだか不自然すぎるか 周りを見渡すフリをして その声の主を盗み見た 接客中のその店員の後ろ姿は 身長や髪型、サイズ感まで かつて愛した人とそっくりで

          風下

          ハナウタを歌うように 君に告白をした ずっと言えなかった 心の底に重く沈んでいた言葉が 呟くようにサラリと口からこぼれ出た でも君の耳には届かなかった 急な突風がその言葉を反対側へと運んで行き 何ごともなかったように 「なんか言った?」と いつもの調子で返される 同時に僕とは違う人が 反対側から君に思いを告げた 同じくらいの声の大きさで いや僕よりも小さかったかもしれない それに対して君は 「うん」とひとつ頷いた まるで先に告白した方に 選ぶのを決めていたみたい

          コイ・ウィルス

          脳内にウィルスが侵入していた それに気づいていながらも 僕にはそれを振り払うだけの 抵抗力も免疫力も持ち合わせてはいない 食欲は湧かず何も手に着かず 熱の無い微熱が身体を火照らせて ふわふわとした感覚が常につき纏った もしこの症状に効く薬があったとしても それは一時的でまたすぐにぶり返すのだろう 時が解決してくれるのを待つしかないんだ もしこれがコンピューターウィルスの類なら この特定のウィルスをピンポイントに ガード出来るソフトがあるとしたなら その時は僕は迷わず

          コイ・ウィルス