へびのあしあと

「日常にファンタジーを。物語のような毎日を。」 詩のような短編のような。脳内に上映され…

へびのあしあと

「日常にファンタジーを。物語のような毎日を。」 詩のような短編のような。脳内に上映される映像を言葉にしています。

マガジン

  • カザリ

    この世界では人に影響を与えられる人と そうで無い人がいる 一生のうちで深く関われる人は 生まれた時にすでに決まっているんだ。 それ以外の人たちを 彼は「カザリ」と呼んだ。    (序章0〜終章14)

  • 朗読してもらったお話しまとめ

    読んでもらった記事をくるっとまとめてみました。 朗読してくれる方いましたら いつでもお声がけください。

  • 真夜中のASMR

    丑三つ時に繋がった、 ある幽霊のお喋りは、 いつしか事件の真実へと近づいて行く。 全五話。

  • 短編「今日の夕飯」

    家に帰ると玄関で出迎える嫁がいる。 「今日の夕飯、どうします?」

  • 明日晴れたら

    明日晴れたら宇宙へ行こう。

最近の記事

出来損ないの穴たち

ドーナツの穴を袋詰めするバイトを始めた 客からは見えないドーナツ屋の端っこで 出来立てのドーナツから穴の部分だけを 取っては詰めて、取っては詰めて 三つ入れたら袋をとじる、そんな仕事 12パックでワンケース、1パック90円 そんな単純作業は嫌いじゃなくて それをしている時の自分は 何からも解き放されて無心になれた 店内に漂う甘い匂いも気にならず お腹が空くのもどこへやら 先の見えない未来からも逃避が出来る ひたすらに手だけは動いてはいるけど 脳はほぼ停止状態で 静かに

    • 三日坊主さん

      自炊を始めたのは良いものの めんどくさくなって三日でやめた フランス語でも勉強しようかと思い 本を買ったけどそれも四日ともたなかった ダイエットは三日で諦め、筋トレもそこそこで 日記も書く事が無くて続かなくて 毎日映画を見ようとしてアニメに逃げた 三日坊主がいくつも重なって 三日経ってはまた違う事を始める そんな三日坊主の三日坊主が何か月も続いていた これはこれで誉めて欲しいと思うんだ 三日坊主をずっと続けているのだから もはや継続していると言っても過言じゃ無い さ

      • 極上の恋

        私はすぐに恋をする コンビニの店員にも部活の先輩にも 近所のお兄さんや塾の先生にだって 少し優しくされると、微笑みかけられると 心がキュッとなってキュンてなって 良いなと思って恋をしてしまうんだ 今日も昨日もその前も 毎日沢山の恋をして満たされる私の心 でも行動には移さない その想いを伝える事はない きっと恋に恋しているのが楽しいだけなんだ 私は一方的に恋をして来た 勝手に片想いをして他の人にも恋をする 今同時にいる好きな人の数を数えたなら 手が何本あっても足りない

        • 一番星

          特に良くも悪くも何も無かった いつもと同じ、平凡な日の帰り道 蒸し暑い夏前の夕暮れ時に じんわりと汗が滲んでネクタイを少し緩めた 陽が長くなったと感じながら 空を見上げると見つけた一番星 えいやと手を伸ばして捕まえると 子供の頃に虫を捕まえた時のように 両手で優しくフタをして家へと急いだ 昔はよくやったっけ 毎日星を捕まえて家に持って帰っては 小瓶に入れて眺めていたっけ そんな事を考えていたら 周りは生まれた街の景色に変わり 走る子供たちの声が薄汚れた団地に響いた

        マガジン

        • カザリ
          15本
        • 朗読してもらったお話しまとめ
          10本
        • 真夜中のASMR
          5本
        • 短編「今日の夕飯」
          10本
        • 明日晴れたら
          10本
        • 短編「ニンゲン」
          4本

        記事

          魔法のステッキ

          何か欲しい物があると 僕はそれを絵に描いた 素直に「これが欲しい」と言えない子だった 「いらないでしょ?」「だめだめ」 一度も言われた事も無いのに断られるのが怖かった だから絵だけ描いて部屋に放置して 親がそれを見て察してくれるのを待った もちろん上手くは描けないから 何度も何度も書き直して細かく観察をして 誰が見てもそれがそれであると 見てわかるくらいの物が描けた時 決まって親は話を切り出して買ってくれた気がする 物心つく前からそんな事をしていたから 欲しい物は絵

          魔法のステッキ

          丁寧に頭を下げて 「ごゆっくりどうぞ」と言った店員の その何でもない言葉に、いや声に 心臓が締め付けられたのは 忘れかけていた人の声によく似ていたから 顔はちゃんと見ていなかった こんな所にいるはずはないから 本人でないのは確実ではあるけれど 声が似ている人は顔も似ていたりするのだろうか? 振り返って見てみようか? いやなんだか不自然すぎるか 周りを見渡すフリをして その声の主を盗み見た 接客中のその店員の後ろ姿は 身長や髪型、サイズ感まで かつて愛した人とそっくりで

          風下

          ハナウタを歌うように 君に告白をした ずっと言えなかった 心の底に重く沈んでいた言葉が 呟くようにサラリと口からこぼれ出た でも君の耳には届かなかった 急な突風がその言葉を反対側へと運んで行き 何ごともなかったように 「なんか言った?」と いつもの調子で返される 同時に僕とは違う人が 反対側から君に思いを告げた 同じくらいの声の大きさで いや僕よりも小さかったかもしれない それに対して君は 「うん」とひとつ頷いた まるで先に告白した方に 選ぶのを決めていたみたい

          コイ・ウィルス

          脳内にウィルスが侵入していた それに気づいていながらも 僕にはそれを振り払うだけの 抵抗力も免疫力も持ち合わせてはいない 食欲は湧かず何も手に着かず 熱の無い微熱が身体を火照らせて ふわふわとした感覚が常につき纏った もしこの症状に効く薬があったとしても それは一時的でまたすぐにぶり返すのだろう 時が解決してくれるのを待つしかないんだ もしこれがコンピューターウィルスの類なら この特定のウィルスをピンポイントに ガード出来るソフトがあるとしたなら その時は僕は迷わず

          コイ・ウィルス

          先輩と飲んだ夜2

          二つ上のバイトの先輩に うちで飲まないかと誘われた 家が近くて大学が同じと言う共通点はあっても 特に仲が良いと言うわけでもないのだが シフトではたまに一緒になる事はあるけれど またこうしてお呼ばれされるのは半年ぶりくらいか? バイト内では無愛想で無口でよくわからない 変わった人だと思われている先輩だけど プライベートに土足で踏み込んだり 自分の価値感を押し付けたりするような そんな人では無い分気を使わなくていい人ではある バイトが終わり、前回以来に通る道を歩き 十分も

          先輩と飲んだ夜2

          ヒーローの休日

          ヒーロースーツを洗濯した日に限って 街は事件で溢れかえった パトカーのサイレンが鳴り響き 女性の叫び声がこだまする 中には僕の名前を呼んで助けを求める人もいた ごめんよ、今日は何も出来ないんだ 勇気と力を与えてくれるヒーロースーツは 水を滴り落としながらベランダにぶら下がっている 先日から乾燥機の調子が悪くて ついに今朝動かなくなって 不定期な仕事の安月給では そう簡単に買い替えるのも難しく ヒーローと言うボランティアも そろそろ潮時かなと思い始めていた 先代か

          ヒーローの休日

          同じ匂いがする

          あの子は私と同じ匂いがした だからずっと気になっていた - 知らない人だらけの高校生活の初日 既に友達を作り話に盛り上がる人もいて きっと何かきっかけがあれば すぐにでも誰かと笑い合えるんだろうが 自分から話しかける勇気もなかなか出ずに このまま三年間ずっと一人だったらと不安になる 右も左もわからずに、流されるままに始まったのは 新しい環境になると決まってやらされる自己紹介 それが私は大の苦手で 自分の順番が回って来るまでの緊張感 何を話していいのかわからず声も上

          同じ匂いがする

          名前を呼んで

          自分の名前が嫌いだった そのせいで軽くいじめられた過去もあったから あまり口に出して言いたくなかった だからここでも伏せておこうと思う しいて言うなら有名人や漫画のキャラと似ていて それがあまり印象のよくない人だから 安易にからかわれてしまう、とそんな感じ でも生きていると名前を言わなきゃいけない状況は 普通に生活しているだけでもいくらでもあって そんな時僕は、公式な場所でもない限り その場の思いつきで本名を偽った 目についた看板を文字ったり友達の名を借りたり だから僕

          今日もUFO日和

          ただ黙々と、もぐもぐと ほうれん草を食べていた 溢れんばかりのお皿いっぱいの緑を前に 必至に口をに動かしていた 昔から筋の多い食べ物が苦手で なかなか嚙み切れなくて飲み込めなくて 口の中に溜まっては意を決して飲み込んだ 今年も実家から沢山のほうれん草が送られて来た 美味しいから、体に良いから どうせ野菜なんて食べてないんでしょ?と そう言う問題じゃないのに ポパイでも飽きるほどの量が まだたんまりと部屋の隅に控えていた ただひたすらにもぐもぐしている時 脳は停止状

          今日もUFO日和

          ほっぺたのソテー

          一週間頑張った自分へのご褒美にと 巷で話題のレストランで ほっぺたのソテーを食べたら あまりの美味しさに 私のほっぺが落ちてしまった 落ちたほっぺは店に回収され 下処理をされ調理され味付けをされて 次に食べる人のほっぺたのソテーになる 「このほっぺたはどんな方のほっぺただったのですか?」 そうシェフに聞いてみた 「当店では若くて張りのある女性のほっぺしか使っておりませんのでご安心を」 さすがに怖くてそれ以上聞くことが出来なかった 私のほっぺは食材として通用しますか

          ほっぺたのソテー

          人狼ゲーム

          朝になりました 「今日の被害者はいません 村人側が上手く防いだようです 残り数日頑張ってください」 突然始まった人狼ゲーム 本当の死が待っているリアルなやつ 随所に設置されたカメラの先から眺める人たちは 私たちを賭けの対象にしか見ていない 予言者の人どうだった? 何でその人を守ったんだろう? 実は私は霊媒師なんだ じゃあ人狼はお前だな それも嘘かもしれないじゃん 誰も真実を言っている保証は無く 初めて会った人たちの素性もわからず 疑いの目でしか見れなくなっている 「

          桜道中記

          大名行列のように 春を振り撒きながら 北へ北へと闊歩して行く 桜たちを眺めながら 季節の移ろいを 始まりと終わりを感じていた 同じように沿道で見守っていた 沢山の人達からは 暖かい拍手や歓声が上がる 「また来年も頼むな!」 ワンカップ片手にそう叫ぶ男の声に 桜たちは枝の手を高く上げてそれに応えた 桜たちが歩いた後には 道に埋め尽くされた花びらの絨毯が 祭りの後のような寂しさを残す 湿った強い風が 漂っていた春を吹き飛ばしながら 次の季節の準備を始めていた