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明日晴れたら

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明日晴れたら宇宙へ行こう。
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明日晴れたら (10/10)

明日晴れたら (10/10)

そよ風を浴びながら鼻歌を口ずさみ
好き放題に伸びる自由な草を大地を
一歩一歩しっかりと踏みしめる

この感触をしっかりと体に焼き付けていた数分前

チケットを切る直前に私を現実へと引き戻したのは
自然しか無いこの場所には不釣り合いな電子音
元彼からの電話の着信だった

何の用だろう?全く予想が出来なくて
少し迷いながら電話に出た

「おはよう」と少し緊張した声で
でも昨晩と同じ距離感で言われる

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明日晴れたら (9/10)

明日晴れたら (9/10)

地球での最後の夜は
好きな映画を流しながら音楽をかけ
布団に丸まって眠れないまま夜を明かした

夜中に軽く雨の降る音が聴こえたけれど
すぐに止んだようで窓の外は明るくて
カーテンを開ければ綺麗な朝焼けが部屋に入り込み
私の目を脳をはっきりと覚ましてくれるだろう

電車が動き出す前に最後の身支度を済ませ
住み慣れた空っぽの部屋に背を向けた

鳥のさえずりが私を出迎え
少しずつ薄く青く染まる空
前を通

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明日晴れたら (8/10)

明日晴れたら (8/10)

空は分厚い雲で覆われていて
頭上では薄く白い煙が漂っていて
大通りを歩く人の話し声に混じって
どこかのお店から賑やかな音楽が聴こえて来る

そんなよくある天気のよくある場所
ただいつもと違うのは宇宙に行く前日と言う事だけ
そして久しぶりに会う元彼が目の前にいる

「元気そうじゃん」と彼
「まぁ、それなりにね」と私

たぶん私の事をよく知っている彼だから
彼の事をわかっているつもりの私だから
躊躇す

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明日晴れたら (7/10)

明日晴れたら (7/10)

雑居ビルの裏口の壁に寄り掛かり
酔ったサラリーマンが行き交うのを眺めながら
もう来る事は無いと思っていた場所を訪れていた

彼の働いていた小さなバー
その裏手の細い路地

別れてから一年弱は経っているから
彼がまだここにいる保証は無い
辞めている可能性の方が高いかもしれない

こうやってよく仕事が終わるのを待っていたっけ
ここもまた私の数少ない想い出の場所だ

ガタガタと音を立てて回る隣の店の換気

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明日晴れたら (6/10)

明日晴れたら (6/10)

軽くお酒も入って良い感じで酔いも回って
でも帰りの電車にはまだ乗りたくなくて
見送った先輩の背中に手を振りながら思う

短い期間でも濃い絆は生まれて
もしこの先会えないとしても
大事な人としてずっと心の中に残るんだろうと

夜の街を一人歩きたくなった

暗くなるとさらに主張の激しくなる観覧車を迂回し
自然と足はある場所へと向かっていた
元彼と一度行った事のある場所
この街が一望出来る見晴らしの良い

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明日晴れたら (5/10)

明日晴れたら (5/10)

晴れていれば空は赤く染まり始める時刻に
先月で辞めた職場の先輩から連絡が来た
私を妹のように可愛がってくれて
唯一気軽に話せた人

「今からご飯でもどう?」って

たまたま目に入った街頭掲示板の天気予報には
昨日は無かった晴れマークが小さく表示されていて

最後かもしれない地球での一日
それを締めくくるには最高のお誘いだと思い
すぐに「いいよ!」と返事をする

駅前で待ち合わせて小走りで改札を出て

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明日晴れたら (4/10)

明日晴れたら (4/10)

宇宙に行くために必要な物が他に無いかと
私は思い出のある街へと足を運んだ

駅を降りると目に入る大きな観覧車は
月日が過ぎても変わる事無く
動いているのか止まっているのかわからない速度で
静かにゆっくりと回っている

一年ほど前に別れた彼とよく来た場所だった

綺麗とは言えない海を眺めたり
小洒落た小さな店を見て回りながら
つい欲しくなる小物やバッグをぐっと我慢する

いるのか会えるのかもわからな

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明日晴れたら (3/10)

明日晴れたら (3/10)

もともと物が少ない部屋だから
荷物をまとめるのは簡単だった
でも何が必要で何が必要じゃないのかがわからない

宇宙向けの旅行案内でもあれば参考に出来るのに
なんて思いながらスーツケースに詰め込むと
意外と持っていく物は少なくガラガラで
少し大きめのリュックへと入れ替えた

傘は必要だろうか?宇宙でも雨は降るのだろうか?
名も無い星で振る雨は水だとは限らない
差した傘もすぐに溶けてしまうかもしれない

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明日晴れたら (2/10)

明日晴れたら (2/10)

父がどう行った経緯で
このチケットを手に入れたのかはわからない
受け取った時も半信半疑で本物かどうかを疑った
仕事関係でもらったグッズかおもちゃかと思った

ただ記憶の端っこに微かに残る出来事がある

山の中にある木造の丸い建物
中央には大きな望遠鏡が空に向けて置かれていて
天井は開閉式になっていた

そこが父の仕事場で
よく遊びに行っては走り回って邪魔をして
でも怒られたことは一度も無かった

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明日晴れたら (1/10)

明日晴れたら (1/10)

父親が星を見る仕事をしていた影響で
私は幼い頃から宇宙に憧れを抱いていた

父は毎晩寝る前に私の枕元で
想像すら出来ないような宇宙の話を沢山してくれて
まだ解明されない謎を想像しては追いかけていた

そんな最愛の父が未知の病気に侵されて
この世から旅立ったのは私が中学に入った頃

運命は私よりも母の方を父に選んだ
私が生まれると同時に亡くなった
顔も知らない母の方を

都会から田舎の祖父母の元へと

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