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明日晴れたら (2/10)

父がどう行った経緯で
このチケットを手に入れたのかはわからない
受け取った時も半信半疑で本物かどうかを疑った
仕事関係でもらったグッズかおもちゃかと思った

ただ記憶の端っこに微かに残る出来事がある

山の中にある木造の丸い建物
中央には大きな望遠鏡が空に向けて置かれていて
天井は開閉式になっていた

そこが父の仕事場で
よく遊びに行っては走り回って邪魔をして
でも怒られたことは一度も無かった

その日もいつものように
部屋の端っこで遊ぶ私に父は言った

「他の星に友達が出来るかもしれないぞ」

望遠鏡とパソコンを交互に見ながら
父はそこに映し出されたランダムに点滅する光を
数字やアルファベットに置き換えていた
それはまるでパズルのようだった

当時の私にはそれが何なのかはもちろんわからない
宇宙に関連した遊びだと思った

せわしなく手を動かしていた父は
行き詰ったのか頭を抱え
「ここまでかな」と残念そうにため息を吐いた

後ろからその様子を、モニターを覗いていた私は
その光の羅列を指でさしながら言ったらしい

「おいで、って書いてあるよ」

その時本当に読めたのかただの偶然かはわからない
ただそれが当たっていたみたいで

私のその言葉をきっかけに父はまた手を動かし始め
今度はため息では無い大きな息をひとつ吐くと
痛いくらいに私を抱きしめて持ち上げ喜んだ

その翌日、仕事場に泊まった朝に
父は珍しく早起きをして毛布にくるまる私に
「すぐに戻って来るから」と耳元で囁いた

「どこに行くの?お仕事?」
「何か渡したい物があるらしい」
「誰か来てるの?」
「大丈夫、遠くには行かないから」

その時の私は、心の中で不安が広がっていた
このまま一人残されるのではないか
母親みたいにいなくなってしまうのではないかと

その恐怖が鮮明な記憶として
今でも残っている原因かもしれない

でも父は家を出て五分も経たずに戻って来た
その間眠れなかった私は、窓から外を見ていて
まだ肌寒い、白けた空は吸い込まれるようで
隙間風がどこからか吹き込んでいた

一瞬強烈な閃光が走ったのを覚えている
音の無い雷のような、でも優しい光

おそらくその時に父は、誰かから、何者かから
外の世界へと行けるチケットを受け取ったのだろう

起きていた私に毛布をかぶせながら
七色に光るチケットを見せた父は興奮気味に
「なんだと思う?」と聞いた

「乗り物の切符かな?」
「そう、宇宙への切符だよ」
「宇宙に行けるの?」
「みたいだね、そう言われたんだ」
「誰に?なんて?」
「新しい世界を見たくないかって」
「宇宙人と話したの?」
「脳に直接ってやつかな、姿は見えなかったな」
「宇宙には何があるんだろ?」
「きっと何でも、全部あるんだろうな。
知らない星も同じような星だって、こんなに広いんだから」

「お母さんもいるかな?」

何も考えず、つい口にした私の言葉に
父は口ごもって、でもすぐに微笑んで
大きな手を私の頭に乗せて言った

「もしかしたらお母さんがいる世界にも
繋がってる星があるかもしれないね」

父の大きな手はいつも温かい
軽く目を潤ませた瞳の意味が今ならわかる
私の軽はずみな言葉で
淡い希望を抱いてしまったのだろう

父は嘘をつかない人だった
だから疑う事無くその言葉を話を全て信じた
もちろん今も

その日の朝食は目玉焼きが三つもあって
大きくてトロトロで皿や口を汚しながら食べたっけ


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