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明日晴れたら (7/10)

雑居ビルの裏口の壁に寄り掛かり
酔ったサラリーマンが行き交うのを眺めながら
もう来る事は無いと思っていた場所を訪れていた

彼の働いていた小さなバー
その裏手の細い路地

別れてから一年弱は経っているから
彼がまだここにいる保証は無い
辞めている可能性の方が高いかもしれない

こうやってよく仕事が終わるのを待っていたっけ
ここもまた私の数少ない想い出の場所だ

ガタガタと音を立てて回る隣の店の換気扇からは
飲食店特有のいろんな匂いが入り混じった匂いが
排出されてはその付近に充満した

私は何をしているんだろう?
きっと心の中につっかえている過去を整理中
もう一度換気扇が止まったら動き出したら
この曖昧な感情はここに放置しておうちに帰ろう

でもこんな都会の闇みたいな場所なのに
何故か居心地が良くて足がなかなか動かない

何度か点滅を繰り返した後で
バーの裏口の灯りがついて
重たそうな扉がゆっくりと開いた

黒いエプロンをした人が姿を見せる
何度も見た光景だった
元彼だった

両手に持っていたゴミ袋を壁際に置くと
ポケットから出したタバコに火をつけて
空に向かって真っ白な煙をひとつ吐く

風邪の無い夜、煙は時間が止まったように
同じ場所に漂ってモヤを作った

そのモヤの先にいる私に、ようやく気づいた彼
目が合って、驚いた表情をして少しの間が流れ

それを切り裂くように私から声をかけた

「久しぶり」
と先週会ったかのように言ったら
「おう」
と以前と変わらない返事をした

「まだここで働いてたんだ?」
「ああ、店長が良くしてくれるしね」

緊張も気まずさも一切無く
なんだか時間が戻ったようだった
びっくりするくらいに自然だった

たばこを一本もらって私も白い煙を漂わせる
吸ったのは半年ぶりくらいだろうか
美味しいとも不味いとも言えない味
ただ意識的に呼吸していると言う実感を得た

頭上の煙は薄い雲を作って
でもその雲には雨を降らせる力は無い


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