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一番星

特に良くも悪くも何も無かった
いつもと同じ、平凡な日の帰り道

蒸し暑い夏前の夕暮れ時に
じんわりと汗が滲んでネクタイを少し緩めた

陽が長くなったと感じながら
空を見上げると見つけた一番星

えいやと手を伸ばして捕まえると
子供の頃に虫を捕まえた時のように
両手で優しくフタをして家へと急いだ

昔はよくやったっけ
毎日星を捕まえて家に持って帰っては
小瓶に入れて眺めていたっけ

そんな事を考えていたら
周りは生まれた街の景色に変わり
走る子供たちの声が薄汚れた団地に響いた
どこからか夕飯の匂いが漂って
カラスの鳴き声に導かれる

手の隙間からこぼれる光
朝には光を失うこの星も
誰かに見つけてもらう事で存在しているはず

だから今日は僕のために
わがままのためにつき合ってもらおうか

僕が一番星を奪い去ったから
他の人が見る一番星は偽物になる
みんな二番星を一番星と勘違いするんだ

でもそれに気づく人なんていないし
知った所でどうなるわけでもない

気づけば空には二番どころか
何百番もの星が空のあちこちで瞬いていた

部屋の電気を消して
暗闇の中でそっと星を浮かべる

淡い光に包み込まれて気がついた
ああ、誰かに先を越されたか、と

一番星ならもっと淀みのない
澄み切った光を放つはずで
これは一番ではない何番目かの星の光

でも明るすぎないその光が僕には丁度良くて

誰かにとっての何番星も
僕にとっての一番星

同じように星を集めている人がいるのなら
居心地の良い光を求めていたのなら

今頃、間違えて一番星を捕まえてしまった
なんて思っているのかもしれない




カフェで書いたりもするのでコーヒー代とかネタ探しのお散歩費用にさせていただきますね。