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今日の夕飯3 (魚)

立派な釣り竿だけを小脇に抱え
何も釣れないままノコノコと家に帰ってきたら

夕飯のおかずを期待していたんだろう
玄関で座って出迎える嫁がいた

「おかえりなさい、何が釣れましたか?」

溢れんばかりのワクワク顔でそう聞くから
手ブラなんて正直に言いにくく

「魚は釣れなかったけど
 途中で足を釣っちゃって痛かったよー!」

勢いとテンションで乗り切れると思ったが
嫁の顔はわかりやすく変わって行く


表情が無くなり能面になり
なんの前触れも無く玄関の電球が割れた


見通しが甘かった
嘘でも魚屋に寄って何か買って帰るんだった

嫁は抑揚の無い静かな声のトーンでサラッと言った

「ではそのイタズラな足をカラッと揚げましょうかね」

薄暗くなった玄関には
今にも包丁片手に肉片を削ぎ落とされそうな
そんな空気感が漂った

「右足ですか?左足ですか?」

と、こちらの言い分には聞く耳も持たず
間髪入れずに畳み込んで来る

素直に釣れなかったと言えばよかったところを
ふざけてしまった自分を
過去に戻ってぶん殴りたくなった

なんとかお怒りを鎮めようと
これ以上ご機嫌を損ねないようそっと聞いてみる

「何か食べたい物とかありますでしょうか?」

嫁は澄んだ目をして少しの沈黙の後

「回ってるお寿司とか良きですな」

「よろしければそちらへ向かいましょうか?」
「うむ、では支度をするから数分時間をくれ」

嫁はダッシュで部屋着から余所行きの服へと着替え
早送りのように化粧を済ませた

そして廊下を滑るように玄関へと戻ると
「おまたせし申した」と言って靴を履いた

そんな嫁を見つつ
ひとつ選択を間違えれば食卓に並ぶ自分のもも肉が

それを美味しそうに食らいつく夫婦の光景
別の世界線があったかもと
そう思うと全身鳥肌と身震いがした

釣りがこんなに命がけだと初めて知った
一緒に行った友人は無事だろうか?

刺身にされて活き造りにされ
新鮮なままピチピチと跳ねてはいないかと心配した


嫁は鍵をジャラジャラと鳴らしながら
「では参ろうか」
とドアを開けて振り返りこちらを見て一言

「別に、回ってなくてもいいんだからねっ!」

と、急なツンデレモードを見せる

いつもの嫁だと少し胸を撫で下ろしたものの
釣りに行くのはこれっきりにしようと固く誓った


カフェで書いたりもするのでコーヒー代とかネタ探しのお散歩費用にさせていただきますね。