今日の夕飯5 (肉じゃが)
「さぁ、早く手を洗って着替えてキタマエ!」
家に帰るなり「ただいま」も言う前に
玄関で腕組みをして仁王立ちで立つ嫁はそう言った
靴を脱ぐのに手間取っていると
「何をしているこのウスノロめ!」と
急にSっ気でも開花したか?と言わんばかりに
「着替えたら夕飯ゾ!食卓に来るように!」
言いなれてない命令口調に戸惑いながらも
言われるがままに従ってみる
何があった?それっぽいドラマでも見たか?
食卓には美味しそうな匂いが充満していた
「座ってもよろしいですか?」
「うむ、よきにはからえ!」
エプロンを外しながら常に斜め上から目線で言う嫁
食卓には大量の肉じゃがが鍋ごと置かれていて
おもわず腹の虫が大きく鳴ると
「くいしんぼうな太っ腹め!」と一喝される
ご飯をよそった嫁は向かいではなく隣の席に着き
険しい顔をぶつかる寸前の距離に近づけられながら
帰ってからずっと圧をかけてくる
何か気に触るようなことしたっけ?と考えつつ
心当たりもないので普段通りにしていようと
「いただきます」と手を合わせた
皿に取り分けられた肉じゃがを
箸でつつこうとすると
「ちょっと待てい!」と止められる
そして嫁は頭の上にまとめられた
小さなお団子頭を指さして
「押せ!」と命令する
「ここを押せばよろしいのでしょうか?」
「そうだ、引っ張ってもいいぞ」
軽くそのお団子頭を押してみると
急に嫁は謎の擬音を発し始めた
「シューーーーーー!!!」
長く、息の続く限り言い終わると
一転いつもの、柔らかい表情を見せて
「さぁ、いただきましょうか」と
さっきまでの圧は無くなり
Sっ気は消えて本来のMよりの嫁に戻っていた
「何が、起こったのかな?」
「圧力を抜いたのです」
「頭のボタンで?」
「はい、今日初めて圧力鍋を使ってみたのです」
その言葉で全てを理解する
ずっと上から目線だったのも
一気に息を吐きだしたのも
圧力鍋を再現していたわけか…
改めて「いただきます」と手を合わせ
大きく切られたじゃがいもを頬張ると
確かにいつもよりホクホクとしていて
「おー!」と二人で歓声を上げる
「美味!」と一言で片づけた嫁に
「御意!」と返した
幸せそうにほおばる嫁を見ながら
圧力モードもたまには悪くない、と思ったり
その視線に気づいた嫁は
「何か変でした?」
と何事もなかったように聞いて来て
「この鍋使う時は毎回こんな感じになるのかな?」
そう聞くと嫁はうーんと少し考えてから
「お望みならば、いつでも」
と微妙ににやついて言うから
少し戸惑ってしまい
ごはんを口いっぱいに頬張りながら
「おいしいねぇ」
と話を誤魔化す自分がいる
カフェで書いたりもするのでコーヒー代とかネタ探しのお散歩費用にさせていただきますね。