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今日の夕飯6 (おせち)

視線の先、台所に目をやると
サンタのコスプレをした嫁が
スマホと睨めっこしながらおせちを作っていた

クリスマスに合わせて頼んだはずのサンタの衣装
でも届いたのは年末で、大晦日で

「今年はサンタで年を越します!」
と嫁はそう言い張った

今年はお互いの実家に帰るのは年明けにしたし
どうせ二人きりで誰も見てないからいいんだけど

クリスマスの装飾もまだ仕舞えなくなり
テレビの脇では小さなツリーがか弱く点滅している

「前にも似たようなことしたじゃないですか」

そう言って嫁は
その時の写真を探そうとパソコンを開いた

まだ付き合ってた頃、軽く遠距離だった僕らは
クリスマスの日に会った時
いつも行っていたラブホが満員になっていて
ようやく見つけたのは純和風の部屋だった

そして年が明け
まだ正月気分の抜けない日にまた会って
あけましておめでとうと言いながら
今度はクリスマスがテーマの部屋に泊まったっけ

サンタ姿はその時以来か

「まだ似合いますかね?」

ずっと一緒にいるから微妙は見た目の変化には
気づかないだけかもしれないが

あの時と同じで、まだ十分に
照れるほどに似合っていた

「スカートミニすぎですね、これ」

少し動くたびにチラチラと見える白いのを
年末番組そっちのけで眺めていたら
急に振り向いて言われる

「あなたもお似合いですよ」

着心地が良くて忘れかけていたけど
自分もトナカイの衣装を着させられていたんだった
ただサンタと違い全身が覆われたトナカイは暖かい

作りかけのおせちの残りや特売のお寿司など
正月らしい夕飯の準備が出来て
ただシャンパンを片手に乾杯の言葉に迷う

「今年もおつかれさま」
「来年もよろしくお願いします」

そう言葉を交わした後に

「メリークリスマス!」

と嫁は胸元に隠していたクラッカーを出して鳴らし
銀テープが食卓を彩った

つけっぱなしのテレビからは演歌が流れていた
年末なのかクリスマスなのか
脳が混乱してしまいそうになる

せっかくだからと写真を撮ることになって
ツリーと鏡餅を持ちながら写真を撮った
これも数年後の思い出話になるんだろう

初詣ではこう願おうと思う
こんな毎日飽きない面白い日常が
ずっと続きますように、と

スマホを出して一枚の写真を嫁に見せた
それはいつかの正月に撮ったサンタ姿
機種を変えても入れ直しているお気に入りの写真

それをまじまじと見て言ったのは
「誰ですかこの美女は?」だと

数年前の自分に嫉妬して
対抗心を燃やしたのか何枚も写真を撮らされ
カメラロールは嫁のサンタだらけになる

「どうです?可愛く撮れました?」
「良い感じに撮れてるよ」
「外で嫌なことがあったらそれ眺めてくださいね」

と、まるで外で嫌なことがあると嫁の写真を見て…
ニヤリと笑う嫁よ、なんで知っているのだ

「あ、おそばの準備しなきゃ!」
気が付けばもうそんな時間になっていた

撮影会なみに撮った写真を順番に見返しながら

「大人の色気が出て来たかもね」と言うと
「さすがにそこは小娘には出せないですから」

と満足げな嫁ではあるが
スカートが短いからかも、なんて言えるはずはなく

ほとんどの写真にチラチラと中が見えているのは
狙いなのかどうなのか
外で見る時は周りに注意しないと…

クリスマスソングを口ずさみながら
そばを食べるサンタと一緒に
トナカイの姿で年を越す大晦日

カウントダウンが始まり
嫁が服に手をかけ身構えた

おそらく新年と同時に服を脱いで
クリスマスを強制終了させるつもりなのだろう

完全にタイミングを失って渡しそびれていた
クリスマスプレゼントは枕元にでも置こうか


カフェで書いたりもするのでコーヒー代とかネタ探しのお散歩費用にさせていただきますね。