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#文学

蝿が死んでいる。

蝿が死んでいる。

ベンチに座った時だった。
札幌の大通公園のベンチでよく休憩をする。
仕事の合間に。

詰めれば4人は座れるベンチに
1人で座って、視線を落とす。

蝿が死んでいた。1匹。
裏返って。ポツネンと。

「蝿が死んでいる」

頭の中でそう唱えた。するとなんだか面白くて、これは「自由律俳句」っぽいなと。種田山頭火的であり尾崎放哉的だなと。

「蝿が死んでいる」

なんか情景が浮かぶ。
蝿が死んでるんだろう

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【読書コラム】ラスト1行が衝撃過ぎて、思わず「あっ!」と声が漏れてしまった「忘れえぬ人々」 - 『武蔵野』国木田独歩(著)

【読書コラム】ラスト1行が衝撃過ぎて、思わず「あっ!」と声が漏れてしまった「忘れえぬ人々」 - 『武蔵野』国木田独歩(著)

 今度、日本の自然主義文学について話す機会があるので、いろいろと代表的な作品を読み込んでいる。議論の運びとしては島崎藤村『破戒』と田山花袋『蒲団』を中心にまとめ、後々、私小説というガラパゴスな進化を遂げたという方針を立てている。

 残り時間はあと10日ほど。まだスライドは作っていないけれど、私小説とプライバシーの問題に触れるなど、いくらでも話題はあるだろうなぁと楽観している。だから、せっかくだし

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ドストエフスキー作品を「わざとSF小説だと勘違いして」読んでみる至高の読書体験について

ドストエフスキー作品を「わざとSF小説だと勘違いして」読んでみる至高の読書体験について

これまでnoteの上でもさんざん、「現代ロシアという国に言いたいことは山とあるが、ロシア文学は、純粋に、大好き」と公言してきた私。

そんなロシア文学の歴史の中で、

とりわけ好きな作家となると?

これまでもさんざん、トルストイ、ゴーゴリ、ブルガーコフへの敬愛をnoteで語ってきた私ですが、

※たとえばnoteでも何度もしつこく推していてスイマセンが、大好きな、コレとかね↓

しかし、↑こうい

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SF小説家の先祖とみなした場合のルキアノス—その「西洋らしくなさ」について

SF小説家の先祖とみなした場合のルキアノス—その「西洋らしくなさ」について

フランスのジャック・サトゥールという方の書いたSFの歴史についての本で、

SFの元祖といえる作家として、サモサテのルキアノスのことを紹介していますが、これは我が意を得たりな導入でした。

古代ギリシャローマ文学といえば、現代の日本ではソクラテス、プラトン、ソフォクレス、キケロといった大御所ならばともかく、ルキアノスとなるとほとんど知名度がないかもしれません。

ただし現代思想好きな方なら、ロシア

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しなやかな私の言葉 -ホイットマンの詩の魅力

しなやかな私の言葉 -ホイットマンの詩の魅力

【水曜日は文学の日】
 
 
詩には東洋、西洋を問わず、韻律や形式の複雑な規則があります。でも、その規則を破って自分独自の世界を築き上げた人もいます。
 
アメリカの詩人、ホイットマンは、そんな独特な世界観の詩人の一人です。

ウォルト・ホイットマンは1918年、ニューヨーク州ロングアイランド生まれ。父親は大工で、十代の頃から新聞社で働き、ジャーナリストとして活動。19歳で自分の新聞を創刊したりし

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幻想を報告せよ -公務員カフカの冒険

幻想を報告せよ -公務員カフカの冒険

 
【水曜日は文学の日】
 
 
ある朝、普通のサラリーマンが毒虫になってしまう小説『変身』で名高い小説家フランツ・カフカは、本当に不思議な「ありよう」の作家です。
 
個人的に興味深い作品は何個かあれど、なぜここまで研究者から読者まで、惹きつけてやまないのか、ちょっと驚くようなところがあります。
 
私が今興味があるのは、彼の「生き方」と「書き方」です。
 
それは、一見新奇なようでいて、実は、

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「芥川龍之介『おぎん』を読んでの考察と感想」・其の一

(これはあくまで、少なくとも、この文章を発表する段階では、
未だ「少々、文章作家の経験のある者の、ごく個人的な感想と意見」、
極端に言えば「独断と偏見」に留まるものであり、

日本文学研究の成果でも何でもないことをお断りしておきます)

物語を一編読み通すことができた。今日は佳き日であった…。(←北原尚彦氏「風」の詠嘆)

『青空文庫』にて…で恐縮ですが、芥川龍之介の『おぎん』を読みました。

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「ロスト・ジェネレーション文学」の入口~ヘミングウェイとフィッツジェラルド・ふたつの切ない短編小説(改訂)

「ロスト・ジェネレーション文学」の入口~ヘミングウェイとフィッツジェラルド・ふたつの切ない短編小説(改訂)

ロスト・ジェネレーション

1920年代から世に出たヘミングウェイらの世代は、「ロスト・ジェネレーション」と呼ばれています。「迷子の世代」あるいは「喪失の世代」などの訳になります。

彼らはまた、「貧乏くじ世代」とも呼ばれています。
この時代には、いくつかの大きな災いが起きました。その中で最も衝撃的だったのが、彼らが青年期の時に起きた第一戦世界大戦(1914~1918)でした。

かつてない規模の

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