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散文詩

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#彼女

スカイツリーとウクレレ 《詩》

スカイツリーとウクレレ 《詩》

「スカイツリーとウクレレ」

其の機能は全て 

論理的で倫理的であり

其れに伴う取り扱い説明書と

保証書が添付されている

スカイツリーはいつに無く

高くそびえ立ち

今もなお天高く 

伸び続けている様に見えた

救世主教会の尖塔 

頭頂部には其れが有り

地上の僕等を見下ろしている

街の路地裏は砂利で出来ており 

草すら生えない荒地だった

其処には 
無能、無知、馬鹿や偽善は

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Good Luck 《詩》

Good Luck 《詩》

「Good Luck」

ソファーで猫が眠っている

アメリカンショートヘア

バルコニーから夜の海 

その上に琥珀色の月が輝いて

僕はワインの瓶を静かに開ける 

そんな風景を信号待ちの
サイドミラーの中に描いて

素敵な夜を想像していた

信号は青に変わり

僕はアクセルを踏み込む

時事的で複雑な
定義に溢れた街を走り抜ける

思想性は何処にあるの 

助手席の彼女はそう僕に聞く

多分

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ALL YOU NEED IS LOVE 《詩》

ALL YOU NEED IS LOVE 《詩》

「ALL YOU NEED IS LOVE」

時の海の中にひっそりと漂う

今は無き物質と其の記憶が

長く白い砂浜を音も無く歩き続ける

彼女はまだ僕の中で歩き続けている

確か随分前にも君を見かけたよ

同じ時間に同じ場所で

そう 話しかけたかった

微かな波の音が聴こえた

太陽は動かず時間は止まる

時々僕は彼女に出逢う 

ふとした瞬間に

何処か遠い世界にある場所で僕等は
強く繋が

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Let It Be 《詩》

Let It Be 《詩》

「Let It Be」

時間の座標軸が

少しずつ緩み崩れて行く

濃密な気配を其処に残したまま

深く理不尽な暗闇が

世界を激しく揺さぶる

朝の光と共に眠る

僕は僕の一部を僕自身で発見する

その時を其処で静かに待っている

本棚から取り出した地図には

僕の知らない場所 

行った事の無い街が描かれている 

無個性に似通った現実とは 

そんな夜

テーブルの上には

ケチャップだら

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破滅の淵 《詩》

破滅の淵 《詩》

「破滅の淵」

僕等は先を急いではいない 

時間がかかるなら 

それでも構わない

空をゆっくりと流れる雲は

広い空の中に
自分の居場所を定めている

何処か遠くで

誰かが誰かを呼んでいる

僕等は世界でただひとつの

完結した場所に辿り着く

何処までも孤立し誰も入れない空間

其処には差し出すものも
求めるものも無い

沈黙のうちに過ぎる時 

だけど孤独に染まる事は無い

彼女は僕の

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記憶の庭園 《詩》

記憶の庭園 《詩》

「記憶の庭園」

僕は其処に

ひとつの季節の匂いを感じていた

現実と幻想の境目

僕が死んだのは
もう一度再生する為だ

そうやって全ての事柄は

死に再生する

生命の萌芽を湛えた空が

海に溶け落ちる

其処にはどの様な地点も無く

時間の感覚さえも無い

死の無いところに再生は無い 

そう彼女は静かに囁いた

永遠とは
終わりなく何処までも続く道

僕は記憶の庭園で

彼女と会話を交わ

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方舟と幸せの鐘 《詩》

方舟と幸せの鐘 《詩》

「方舟と幸せの鐘」

心を失くした

深い森の中を彷徨っていた

全ては無音のうちに始まり

邪悪な野獣と

純粋な精霊の吐息を聞いた

不確かな人生の灯りが揺れる

暗い終末の気配を含んだ
湿り気を帯びた風

彼女は方舟…そう一言だけ呟いた

特別な生命の匂いを彼女に感じた

僕等に歌う歌があるとしたなら

僕は漠然とそんな事を考えていた

僕の純粋な仮説が

保留の無い激しい愛を呼ぶ

彼女に

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楽園 《詩》

楽園 《詩》

「楽園」

想像と記憶の中で

静かに彼女と関わりを結んだ

彼女が彼女である事の秘密を
僕は知っていた

語るべきであった言葉 

ほんの少しの勇気

僕の行いの欠如が

僕自身を後悔へと連れ去る

僕の心は

彼女から離れる事が出来ないでいる

同じ過ちは繰り返さないと誓った

彼女は 

僕の身体と心の一部を持ち去り

僕の元に彼女の

身体と心の一部を置いて行った 

目には見えない其の一

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鱗片 《詩》

鱗片 《詩》

「鱗片」

細長いグラスに

注いだ冷えたシャンパン

細かく立ち上がる

気泡の先に見えた淡い光

まばらに点在する 

それらの綺麗な光

ささやかな温もりに似た灯りを
其の中に感じていた

生と死の境界線が微妙に揺れた時

淡い光が僕に囁きかけて来る

真実が連れて来た無制限の孤独

鱗片状の慈愛が剥がれ落ちる

流れる様に艶やかな彼女の髪と

静かに話す言葉の文脈

其の対局にある確かなも

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時間 《詩》

時間 《詩》

「時間」

過ぎ去る時間の中で

沢山の感情と言葉 

多くの迷いと沈黙
多くの約束と秘密 

そして諦めと

決して口に出す事の無い想い

感情の振り子が弧を描き揺れた

僕達の心に傷跡を刻み込みながら

色彩の裏側にある
骨格を指先でなどった

僕が創り出した

異なったふたつの人格には

共通する欠落があった

その共通する失われたものは
形象を持たず

窓から射し込む朝の光の様な

柔らか

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左利きの彼女 《詩》

左利きの彼女 《詩》

「左利きの彼女」

濃密な空気の塊に雨の予感がした

もう時間が無い 

僕は高く茂った 

緑の草を掻き分けて  

綺麗な湖へと向かう 

野生の花の匂いと
幻想的なオルガンの音

ある時点で僕の感覚が

内圧と外圧に押し潰され 

其の接地面にあったはずの感情が

崩れ始め痛みと喜びを失った

綺麗な湖の辺りには
大きな木があって

その下に白いベンチがある

其処に君が居る 

その事だけ

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盲点 《詩》

盲点 《詩》

「盲点」

彼女の瞳の奥に
時間を超えた深い世界を見た

其処にある

意志の煌めきと確かな熱源

僕はその一対の瞳に

激しく心を揺さぶられた

行き先を持たず 

ただ移動する為だけの

移動を繰り返す日々 

そんな僕の心を
静止させる輝きを見つけた

そう思っていた しかし

僕の盲点が何かを見逃している

そして また彼女も同じだった

その何かが
最も大切な事だと知ったのは

ふたりが

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奇術師 《詩》

奇術師 《詩》

「奇術師」

僕は彼女の微笑み方が好きだった 

理由なんてない

本質的な部分で奇形だと

定義された世界の片隅で

彼女の事をずっと見ていた

何かが僕の
記憶の端に引っかかっている

僕自身の古い影と

遠い昔に見た彼女の仕草 

そして ただ曖昧に肯く

過去に知られたくない

不都合の無い
人間なんて何処にもいない

彼女の背後に立つ奇術師が

帽子から鳩や花束を取り出す

ぼんやりと眺

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雨音 《詩》

雨音 《詩》

「雨音」

僕は彼女と交わした

話しの断片を思い出していた

いつの間にか天候は崩れて空は

湿気を含んだ重い雲に覆われていた

僕は傘を持っていない

長く降り続きそうな雨 

ネクタイを緩めた

彼女は不思議な事に
雨の夜にやって来る

もう逢えないかと思ってたよ 

そう言った僕に

貴方は私に逢う度に

同じ事を言うのね 

彼女はそう言って微笑んだ

そして唇を噛んでまた少し笑った

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