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追悼シンポジウム「坂本龍一の京都」を聴いて/福永信
坂本龍一の没後もっとも大規模なイベントが、縁の深かった京都で2023年6月18日に開催された(ICA京都+京都芸術大学舞台芸術研究センター主催)。四十年来の友人である浅田彰と、長年にわたり多くの作品でコラボレーションしてきた高谷史郎が坂本のこれまでの活動を振り返った。常時壇上にいるのはこの二人(と司会の小崎哲哉)だが、その時々に八人のゲストが登場し、思い出を語った。渡邊守章演出《マラルメ・プロジ
もっとみるゴダールとストローブ=ユイレの新しさ/蓮實重彦+浅田彰
人類はまだ見ることを知らない
浅田 東京の日仏学院で開かれた「カイエ・デュ・シネマ週間」(2005年1月7日~2月6日)で、「カイエ」編集長ジャン=ミシェル・フロドンと蓮實さんの対談に先立ってジャン=リュック・ゴダールの新作『ノートル・ミュジック(われらの音楽)』(2004)が日本初上映された。芥川賞受賞決定直後の阿部和重をはじめ、青山真治、黒沢清、中原昌也と、蓮實スクールの出席率のよさに感心し
黒人の正典を定義する――ヴァージル・アブロー最後のロングインタビュー
2018年に黒人として初めて〈ルイ・ヴィトン〉メンズウェアのアーティスティック・ディレクターに就任したヴァージル・アブローが、2021年11月28日に心臓血管肉腫で急逝した。アーティストのカニエ・ウェストの盟友としても知られ、自身が立ち上げたファッションレーベル〈Off-White オフホワイト〉は日本でも展開しておりご存知の方も多いだろう。41歳という若さでこの世を去ったアブローは、ファッショ
もっとみる蛸狩り/エリイ(Chim↑Pom)
眼球が押しつぶされて楕円になり、わずかに開いた隙間に先端が触れる。かすかに膜を張っていた水分がパイルに吸収されていく。「オキテクダサイ、オキャクサン」。カーテンの向こう側から投げかけられたその言葉はこれが二度や三度目ではないだろう。オキャクサンとは私のことだと、走り込む光によって涅色に浸っていた脳がずるりと這い出す。うつ伏せのまま鼻と口で呼吸出来るように穴が空いている枕の上のパイルの輪状のループ
もっとみる村上―チェーホフ―濱口の三つ巴 ――『ドライブ・マイ・カー』の勝利 /沼野充義
濱口竜介監督の新作映画『ドライブ・マイ・カー』は、村上春樹の同名の短篇小説を原作としている。というか、村上作品の映画化であることが話題を盛り上げる一要素になっていることは否定できないだろう。しかし、映画を観ると、村上春樹に負けないくらい、もう一人の作家の存在感がこの映画の中では強烈であることが分かる。それはロシアのアントン・チェーホフだ。ただし、村上とチェーホフという強力な二人の作家の「おかげ」
もっとみる「詩」というもの/谷川俊太郎
僕が小学校に行ってた頃ね、日本は戦争してたでしょ、戦地の兵隊さんに手紙を書きましょうなんて宿題が出るわけ、僕は何書いていいかわからないんだ、母にそう言うと、自分のことを書けばいいのよと言われる、そこでまた困っちゃうんだ、自分のことって何書けばいいのって言うと、遊んだことでも、勉強したことでもなんでもいいのよと母は言う、そうすると頭に浮かぶのは、朝起きて顔を洗って朝ごはんを食べてみたいなこと、子供
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