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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2023年11月の記事一覧

『父が定年退職した』

『父が定年退職した』

父が定年退職した

聴こえてくる評判だけを信じれば

父は会社でも人柄の良さで

みなさんに親しんで頂いていたらしい

これは娘のわたしも

はばかることなく

誇らしく思っていて

もちろんわたしの息子のことも

とってもかわいがってくれる

息子の方も

じいじじいじと言って

なついているから

ほほえましいのよね

モーレツ仕事人間

そんな言葉が

いちばん似合わないタイプ

年功序列の

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『熱を測れば39℃』

『熱を測れば39℃』

悪寒がする

頭が割れるように痛い

手足の関節は痛み

めまいがしてくる

ロクに立っていられない

熱を測れば39℃

防寒着を纏い

通勤ラッシュめがけて

都会のターミナル駅へ

さあきょうも

病原菌をまき散らすんだ

ワクチンは射った?

特効薬はあるのかな?

俺はインフルエンサー

製薬会社に雇われて

※フィクションです

『冬支度』

『冬支度』

うちの息子の学校では

クラスごとに

WEBサイトがあって

もちろんパスワードは

担任の先生と学年主任

それから

そのクラスに所属する

子供たちの親しか知らない

閉じられた空間

先生からのお報せだとか

行事についての連絡はもちろん

まわりのお友達にも

知っておいてほしい

子供についての情報なんかが

掲載されていて

たとえばアレルギーのこと

給食を誤って配膳しないよう

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『シートの座り心地はさいこうなのだ』

『シートの座り心地はさいこうなのだ』

俺は世界を股に掛ける

トップレスラーなのだ

だから移動はいつでも

どこへでも

プライベートジェットで

縦横無尽に飛んでいくのだ

ところでプライベートジェットは

さすが高いだけあって

シートの座り心地はさいこうなのだ

リクライニングは

フルフラットになるぜいたく品だ

座ったらすぐに眠ってしまうのだ

もっとも俺の必殺技の

安.楽.死チョップを受けた場合は

0.02秒で逝って

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『他の仕事まぁーったくなくて』

『他の仕事まぁーったくなくて』

こう見えてわたしは

案外几帳面な性格なので

年末になる前に

大掃除を始めて

ま年末年始は時給が上がるから

清掃のパートのシフトを

ぎゅうぎゅうに詰め込んで

だから自分の部屋なんて

掃除している暇がないっていう

それだけなんだけどね

とはいえ

こんなに懐かしい

書類を見つけたら

誰だって手が止まってしまうよね

若かったなぁ

一瞬だったけど

キラキラしてたなぁ

楽しか

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『XXX湯』

『XXX湯』

(まえがき)
本日は例によって、読み始めたあとは自己責任でお願いしたいタイプの作文です。よろしくお願いします。

--

晩秋の休日

彼女も友達もいない俺は

唯一のパートナーである

愛車のバイクにまたがって

紅葉に彩られた山あいを

さっそうと駆け抜けることにした

峠のてっぺんまで来て

道の駅で名物のうどんを啜った

ちょっとあたりを散歩するか

なんて思ったら

足湯があるじゃないか

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『みかん畑』

『みかん畑』

よっちゃんとだいちゃんていう幼馴染

幼稚園からもう少し

斜面を登ったところにあるみかん畑

(みかん畑ばっかりなんだけど)

ひとけのないその場所は

適度な間隔で植えられたみかんの木と

ほどよい茂り具合の草むらのおかげで

未就学児の遊び場にはもってこいで

時代が時代だから

親の目も無しにそんなところで

毎日のびのび遊んでたけど

いまだったら考えれないのかな

なんて思ったりもして

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『サウハラ』

『サウハラ』

うちの課長はサウナが大好きだ

会社の近くに

24時間営業のサウナがあって

仕事終わりに

ほぼ毎日寄っているらしい

真冬などは朝の出勤前にも

つまり課長は

フィンランド人かよってくらい

サウナを愛している

そしてそのサウナと同じくらいに

俺のことも大好きなようで

だいぶ気に入ってくれている

課長の部下は全部で4人

俺以外の3人は女性だから

必然的に話し相手として

俺が選

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『「パパあれって誰が決めてるの?」』

『「パパあれって誰が決めてるの?」』

妻が自分の服を見たいと言うので

そのあいだ息子を連れて

カフェでまったりと

ちょうどこのショッピングモールの

駐車場が見渡せる

休日の午後だから

その出入りもけっこう盛んで

「あ僕んちのクルマだね」

「そうだね」

「3219番…6074番…」

「ん?」

「9954番…」

「あぁ、ナンバーか」

「パパあれって誰が決めてるの?」

「あれは適当に割り振られるけど」

「そうな

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『「だからカネ払いイイんだよ」』

『「だからカネ払いイイんだよ」』

(おことわり)
気分が悪くなるのが嫌な方は読まないでください。あとフィクション。

--

「やる?」

「え、ほんとにそれだけでいいんすか?」

「うんだいじょうぶ」

「でもけっこう恥ずかしくないっすか」

「恥ずかしいよ、社会的に終わるよ」

「ですよね…」

「だからカネ払いイイんだよ」

「あそういうことか…」

「おまえみたいにガタイのイイやつが助かる」

「なるほど…俺けっこう新宿行

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『「全部アスリート並に鍛えてるけど」』

『「全部アスリート並に鍛えてるけど」』

僕は修学旅行に行ったことがない

中学のときはアメリカでの

トレーニングキャンプと重なったし

高校のときは

アスリートのための

メンタルコントロール講座と

見事にバッティングして

それから運動会だって

怪我をしたら大変だと

ジムに入りびたりだった

だからいわゆる普通の学校生活を

僕は送ったことがなくて

恋愛なんかは

もちろんできないよね

(あぁチョコはたくさん貰ってるけど

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『理事会のゆううつ』

『理事会のゆううつ』

はあ…めんどう…

あああゆううつ…

今週末に予定されてる

息子の少年野球チームの理事会

当番のわたしが

ご意見箱の整理してるんだけど

シューくんのパパつまり

Y山さんのご主人が発明して

チームのメンバー皆に売りつけてる

水筒バットがやり玉に上がってて



わたしもあれはどうかと思うけどね

えぇ買わされたわよ

上の子のぶんと

下の子のぶんと2本ね

Y山さんこの発明で

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『うちの犬が宇宙人を噛んだの』

『うちの犬が宇宙人を噛んだの』

うちの庭に宇宙人が降りてきて



うちの犬が宇宙人を噛んだの

どうやらそのことで

話があるようで

宇宙人はみずから

インターフォンを鳴らしてきて

星間戦争なんかに発展したら

ものすごく嫌だし

なにより自分の命も惜しいから

事情を聞いたわたしは

即座に平謝りしたの

そしたら

そんなことはどうでもいいと

噛んだ跡なんてすぐに蘇生するし

バイ菌も別にへっちゃらだと

たしか

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『確実に効果があるという美顔器を買った』

『確実に効果があるという美顔器を買った』

確実に効果があるという美顔器を買った

昼下がり

お昼ご飯のデザートにプリンを食べながら

ぼうっとテレビを眺めていると

いつものとおりテレビショッピング

わたしはこのテレビショッピング

これまで一度も注文したことはないけど

その雰囲気というか

なんとも白々しいあの感じが大好きで

ついつい見てしまうの

その日も

4Wayで使えるショルダーバックに

アコヤガイの真珠のネックレス

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