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『みかん畑』


よっちゃんとだいちゃんていう幼馴染


幼稚園からもう少し

斜面を登ったところにあるみかん畑

(みかん畑ばっかりなんだけど)


ひとけのないその場所は

適度な間隔で植えられたみかんの木と

ほどよい茂り具合の草むらのおかげで

未就学児の遊び場にはもってこいで


時代が時代だから

親の目も無しにそんなところで

毎日のびのび遊んでたけど

いまだったら考えれないのかな

なんて思ったりもして




真冬でもそこそこ暖かいから

季節は忘れた


日が傾いて薄暗くなりかけ

そろそろ帰らないとって頃


よっちゃんが

なんかのパワーがつくクスリって

そう言いながら

派手な袋に入った黄色い粉を

どこからか見つけてきた


農薬だよね


だいちゃんはだいちゃんで

雨水がたまった洗面器を

これまたその辺から拾ってきて


水にその粉を溶かして

ジュースにして飲もうとかって

ふたり意気投合してんの


幼いながらもゆとりは

そこはかとない危うさを覚えて

飲んじゃダメだよって

ぜったいに飲んじゃダメって


そういうフリじゃなくて

(そんな言い方してないけど)

ほんとにダメぜったいって


まるで白い粉を止めるポスターみたいに

必死になって止めたんだよね


よっちゃんもだいちゃんも

なんでそんなつまんないこと

ゆとりは言うんだろうって

不思議そうな表情と

ちょっとイラッとした感じと

両方見せていた


でもほんとに必死で止めて

もう暗くなるし帰ろうって


それでみかん畑を降りたんだよね


必死で止めてよかったと

ほんとうに思う


あれから数十年経ってるけど

よっちゃんとだいちゃんは

覚えてないだろうな


ゆとりははっきり覚えてるよ


ゆとりが一緒じゃなかったら

たいへんだったろうって

そんな恩着せがましいことは

思わないけど


記憶の限り遠いむかしに

ド田舎のみかん畑であった

ほんとうのはなし





(あとがき)
ほんとうのはなしです

















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