『うちの犬が宇宙人を噛んだの』

うちの庭に宇宙人が降りてきて

で

うちの犬が宇宙人を噛んだの

どうやらそのことで

話があるようで

宇宙人はみずから

インターフォンを鳴らしてきて

星間戦争なんかに発展したら

ものすごく嫌だし

なにより自分の命も惜しいから

事情を聞いたわたしは

即座に平謝りしたの

そしたら

そんなことはどうでもいいと

噛んだ跡なんてすぐに蘇生するし

バイ菌も別にへっちゃらだと

たしかにその

うっすら光って

つるんとしたボディの

どこにも傷らしいものはなくて

わたしの顔を指差して

宇宙人が言うには

地球の生物には

みんなこれがあるのかと

高等生物なら顔はみんなありますと

そう答えたら

顔じゃないって口のあたりを指して

口もだいたいありますって言ったら

そうじゃないって

歯のことみたいで

わたしは生物に

詳しいわけじゃないけど

顔があるような生物には

歯があるんじゃないですかねって

そう答えたわけ

なんでって宇宙人に問い詰められて

えだって飲みこめばいいじゃんって

そんなことわたしに聞かれても

地球代表として

なんと答えたらいいか

こまっちゃって

宇宙人こんどは

うちの犬にも聞いてる

なんか会話してるけど

やっぱり要領を得てないみたい

そりゃそうだよね

なんで人間も犬も

えっと正確には地球の人間も犬も

歯があって

飲みこむ前に噛むのか

もちろん消化を助けるためなのは

素人のわたしでもわかるけど

だからってそれ以上のことは

正直よくわからないですって

うちの犬が失礼したのは

謝りますので

もう割と遅い時間ですから

そろそろお引き取りくださいって

そう伝えたんだけど

宇宙人は

しばらく考え込んじゃって

どう考えても

丸飲みしたほうが楽だよなって

ブツブツ言ってる

そしていま

気づけばわたしも犬も

宇宙人の胃の中

いつのまに飲みこまれたの

まったく自覚がないけど

青くてぬるぬるした

テントの中みたいな

壁一面から

どろどろっとした

消化液みたいのが

吹き出てきて

これなら飲みこむ前に

噛んでほしかったかも