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『「全部アスリート並に鍛えてるけど」』


僕は修学旅行に行ったことがない


中学のときはアメリカでの

トレーニングキャンプと重なったし


高校のときは

アスリートのための

メンタルコントロール講座と

見事にバッティングして


それから運動会だって

怪我をしたら大変だと

ジムに入りびたりだった


だからいわゆる普通の学校生活を

僕は送ったことがなくて


恋愛なんかは

もちろんできないよね

(あぁチョコはたくさん貰ってるけど…)


すべては父の導き


アスリートの道を怪我で諦めて

実業家の道を選んだその思いを

僕に託しているようだ


大企業の社長の三男だから

何も考えずに

遊んで暮らせるだろうって

まわりは言うけど

こういう苦労や寂しさがあるなんて

理解してもらえないんだろうな

(長男は父の跡継ぎ、次男はどこかに消えたよ)


まいにちまいにち

厳しいトレーニングの日々


でもアスリートは

現役時代はもちろんだけど


それよりなにより

引退した後の人生のほうが長くて

とても大切なんだという

父の方針から

勉強をおろそかにすることは

許されなかった


だから高校受験もしっかりしたし

それから

どこで言っても恥じることのない大学に

一般入試で合格した


単位を落とすことは許されない

いっぽうで過酷なトレーニングは続く


サークルで遊んだり

就職活動をしたり

そういう普通の学生生活は

僕には無縁なんだよな


なんともいえない虚無感が

僕を襲ってくる


そんな思いに駆られているうちに

いよいよ大学卒業後の

進路を決めなければいけない


迷った僕は

父に相談する


「ねぇパパ、僕はどうしたら…」

「自分で決めたらいいさ」

「そんなこと言われても…」

「これまで過酷なトレーニングを積んだんだ」

「でも僕…」

「何を迷ってる」

「僕…筋力も跳躍力も持久力も…」

「ん」

「全部アスリート並に鍛えてるけど」

「そうだな」

「何の競技もやったことがないよ」

「…」

「僕は何のためにトレーニングを」

「そ、それは…」

「まさかノープランなの?」

「それはおまえもだろう!」

「全部言いなりの僕が自分の考えなんて!」

「そう…だよな…」


僕は大学を留年して

体育の教員免許を取ることに決めた


それから親元を離れて

スポーツクラブでアルバイトをしながら

一人で暮らしていこうと思う
















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