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Beyond The Reading

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本を読む先にあるものって、なんだろう。
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#読書

高熱隧道、を読んだ。

高熱隧道、を読んだ。

黒部第三発電所は昭和11年8月に着工し15年11月に完工。嶮岨な峡谷は岩盤の最高温度がなんと165度という高熱地帯に隧道(トンネル)を掘鑿するという前代未聞の難工事で、延べの犠牲者は300人を超えた。工事が難航するだけではなく、黒部という特殊な地理的条件も相俟って発生する予測不可能な大自然の猛威。様々な困難と対峙し極限状態で闘う男たちの記録文学。

先日の現場撮影を終えて急に読みたくなり再読3回目

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真説・長州力、を読んだ。

真説・長州力、を読んだ。

\長州力ここにあり/

長州力というプロレスラーを知ったのは、芸人の長州小力のモノマネを見た時。それから神奈月のモノマネで妙に滑舌が悪い人という印象を植え付けられ、興味を強くもつ決定的な契機は、武藤敬司とのオンライン飲み会のyouyube動画。

絶妙な間合いとユーモラスな話術と、二人の歴史をそれとなく示唆する業界の裏話。長州力というキャラクターと、プロレスがどのような世界であるのか、深く知りたい

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WIRED#48、を読んだ。

WIRED#48、を読んだ。

retreat...避難、引退、引きこもり 避難所、隠居所、静養所 〔軍隊などが〕撤退、退却、撤収、撤退の。隠れ家、現実での仕事、人間関係、悩みなどのしがらみから離れる自分だけの時間・場所。

単語が持つ元来の意味においては、上述の通りにネガティヴな印象を与えるかもしれないが、わざわざWIREDで特集が組まれるということは、2023年における重要なキィワードのひとつであることは間違いない。ハイライ

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つけびの村、を読んだ。

つけびの村、を読んだ。

忘れもしない。仕事の移動中に上野駅構内の本屋さんで、明らかに異質なアウラを放つ黄色い装幀に吸い寄せられた。手に取り、そのままレジに進んだ。今回文庫化され、ふたたび戦慄のノンフィクションを体感する。

限界集落で発生した凄惨な放火殺人事件を、世間はエンターテイメントとして囃し立て消費したのだろう。怖いもの見たさ、野次馬根性。自分にもそういった大衆的な興味関心がないわけではないが、知りたいのはそこでは

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もしもワニに襲われたら、を読んだ。

もしもワニに襲われたら、を読んだ。

普通に生きていれば遭遇することがない危機的な状況...とはいえ、それは飽くまでも確率論なので、タイトルにある通りにワニに襲われる可能性は確かにゼロではない。

著者が意識しているのか大真面目なのか、さすがにそれはないだろうというシチュエーションが複数登場し、もはやエンタメ狙いという見方もあり。挿絵のフザけ具合も往年のバカドリルを彷彿とさせ、編集者が自分と同世代であることが窺い知れる。

火の熾し方

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変化を嫌う人を動かす、を読んだ。

変化を嫌う人を動かす、を読んだ。

本書は、うまく変化を起こせないという多くの人が直面している問題に対し、人的要素に焦点を当てて解決策を探った点が画期的である。アイデア自体の創出方法やフレームワークを解説する書籍は多くあるが、人間の本質(本性)を認めて、正面から向き合ったことが本書の特徴である。*訳者あとがきから抜粋

弾丸が強く速く進むにはどうすればよいか?強力な火薬を装填し発火すれば良い..これは燃料追加型の発想であり、実は10

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香川にモスクができるまで、を読んだ。

香川にモスクができるまで、を読んだ。

素晴らしかった。読み終えて思わず落涙。子どもたちに「パパまた泣いてるよ〜」と笑われてしまった。

涙のワケは、彼らが困難を成し遂げた喜びへの共感が大きい。と同時に日本に対する閉塞感を突きつけられたことも告白しておこう。

過去に何冊かイスラムに関する本を読んできたが、イスラムは日本人が想像するよりもはるかに寛容で融通のきく信仰だと思う。偏見とは無知によるものが多い。学べば必ず世界は開けると信じてい

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最期の声、を読んだ。

最期の声、を読んだ。

【災害】自然現象や人為的な原因によって、人命や社会生活に被害が生じる事態を指す。

地震で倒壊した建物や大津波に巻き込まれて亡くなれば明らかに災害死だが、災害後に精神が不安定になり体調が悪化し病死されたり、悲しいことに自死に至ってしまった場合、それが災害死として認定されるかどうかは曖昧だという。

認定されるとお見舞金が給付されるが、当然のことながら予算は青天井ではないので審査というプロセスが存在

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WIRED、を読んだ。

WIRED、を読んだ。

この雑誌の存在を知ったのは、我らが角幡唯介さんのことを知りたくてネットで検索しまくっていたらこちらの記事を発見し、影響・感化され、それいらい雑誌を購読している。

さすがというか、シビレるというか、卒倒しそうなくらい素晴らしい考察があるので紹介したい。

自分なりに解釈すると、たとえば携帯電話(スマホ)などが顕著な事例だろう。誰しもが所有している通信機器を、自分の信条として所有しないという選択肢が

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月と六ペンス、を読んだ。

月と六ペンス、を読んだ。

我らの角幡唯介さんが、ツアンポー峡谷の探検中に停滞したときに読み、そして焚き火にくべたということで、数年前から気になっており、ようやく読み終えることができた。

抱いた既視感は2つあって、構成が夏目漱石の「こころ」に似ていること、そして登場人物のストリックランドが神々の山嶺の羽生丈二に似ていること。

家庭や妻など、平凡だが誰しもが望む幸せの象徴を、いとも容易く放棄していくさまは、芸術家を形容する

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半径50メートルのセカイ、を読んだ。

半径50メートルのセカイ、を読んだ。

実際に佐藤さん(nendo)が手がけたプロダクトや案件を紹介しながら、その着想から着地までのプロセスを織り交ぜるコラム。

ハイライトは「嫌い」と「嫌いじゃない」をきちんと認識するということ。うーむ、確かに好き・嫌いのあいだには「嫌いじゃない」という、良い意味でのどっちずかずな状態があるのかもしれない。

それって、つまり中庸ってこと?違うかw

独立した頃に提案段階で何度もミラノに出かけた話をサ

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ゆるい職場、を読んだ。

ゆるい職場、を読んだ。

若者が職場で抱えている問題は、不満よりも不安が多い。ブラック(企業)という概念からはじまり、過度な自己防衛意識で、部下や後輩を質すことが難しくなった..否、できなくなった今、結果的に多くの職場が「ゆるく」なってしまった。

履き違えた優しさは、若者に不満ではなく不安を抱かせることになる。彼らは、はたしてこのままで良いのか?という将来に対する漠然とした不安を日々募らせてゆく。あらゆる情報を取得しやす

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一瞬の夏、を読んだ。

一瞬の夏、を読んだ。

朝倉未来さんがメイウェザーと対戦することがなかったら、読まなかったかもしれない。ボクシングは全く知らないスポーツではなかったが、積極的に情報をとりにいく対象ではなかった。

最近、文化人類学やフィールドワーク、そして「参与観察」という行為に興味を持ち合わせており、取材対象に密着することで生まれる、熱量や説得力に改めて舌を巻いた(本作では密着どころではない関わり方にも注目)。

沢木耕太郎さんのスポ

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ヘルシンキ生活の練習、を読んだ。

ヘルシンキ生活の練習、を読んだ。

久々の更新です。

ヘルシンキという単語を見て何気なく北欧の生活の知恵(リュッケとか...)をキラキラとした感じで綴っているのかなと思っていたら、大間違い!ブレイディみかこさんの「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」のフィンランド版と言ったら乱暴だろうか。

誤解を恐れず包み隠さず申し上げると、昨今の北欧ブームにはやや辟易している。マスコミやメディアに煽動されている消費者がこのマーケットに

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